BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――福岡と愛知

 1Rのスタート展示前、ピットからはほとんど人の気配がなくなった。朝の特訓を終えると、多くの選手がペラ室か控室へと戻っていて、整備室にも後藤翔之の姿があるのみ。寒暖計は2℃を指しており、節イチの寒さとなっていた今朝、まずはスタート特訓や試運転で冷えた体を温めようという選手も多かったのだろう。  

 

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やがて、里岡右貴があらわれて、自分のボートのもとへ。次には西山貴浩と水摩敦が楽しそうに話をしながら登場。係留されていた自艇のもとに向かっている。「ほんと、頼みますよ~」「これでもSG行っとるんやぞ!」なんて声が聞こえてきた。つづいて、大野芳顕が登場。やはり自艇のもとへと向かう。お次は松崎祐太郎……って、福岡勢ばっかりだ!  

 

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すると、控室のほうから岩瀬裕亮があらわれて、装着場の奥のほうへと歩いていく。

これに続くように磯部誠もあらわれて、今節の最若手2人である。それにしても磯部はいい面構えをしているなあ。ふてぶてしささえ感じさせる。向こうからこちらに挨拶をしてくるなど礼儀正しさはちゃんとあるが、しかし必要以上に腰を低くしないというか、堂々たる態度というか、すでに記念選手みたいな貫録がある。

おっと、その後ろからは坂元浩仁。この男の面構えも鋭い。そしてさらには平本真之……って、今度は愛知勢ばっかりかい! 

もちろん単なる偶然。何の意味もない。ただ、それだけの勢力が両支部からは送り込まれているというわけで、そうかあ、瓜生と池田ねえ……なんてことを考えたりしてしまうわけである。今年だけでなくこれからしばらくは、この両支部が艇界を牽引する時代が続いていくんだろうなあ、と思った次第だ。  

 

 

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平本には聞きたいことがあった。朝の特訓時、多くの選手が引き上げて水面には誰の姿もなくなったとき、突如あらわれて試運転を始めていたのだ。それも、何周も何周も。他に走っている艇がある場合、バックを走り切るといったんスローダウンし、他艇との間隔をとって再スタートするもの。しかし誰もいないから、平本は2マークも豪快に旋回している。それを何周も何周も、確認できた範囲では5周は、単走で疾走していたのである。何か整備をして、その手応えを確認していたのだろうか。「いや、気持ちを高めるためです」 

最後の新鋭王座。厳しい条件の勝負駆け。絶対に悔いだけは残したくない! その思いで平本は、闘争心に火をつけるため、水面が空いたころを見計らって、気合の試運転を敢行したのだ。「今日は思い切りいきますよ。悔いが残らないよう、進入から思い切っていきます」 平本の気迫を味わいたいのなら、ピットアウトの時点から目を離すな!

 

 

 

 

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 さてさて、強い福岡と愛知ばかり見ていた今朝、やはり関東勢に期待したくなるのが関東人の人情というもの。西高東低を打破せよ! などと考えつつ、ピットの隅っこにある喫煙所でタバコ吸ってたら、中田竜太がやってきて、一服し始めた。今節、中田と接近するのは初めて。ということは、中田と接触すること自体がまったくの初めてということだな。なんか話しかけようとしたが、とっさのことで質問が思いつかない。だからこういうことになる。

「毎日、寒いですねえ~」

「ほんと、今日が節イチですよね」

「作業とか大変でしょ?」

「大変です」

「我々は震えてればそれでいいけど、選手はそういうわけにはいかないもんね~」

「そうですね。作業のあと暖かい部屋に入ったら、手がかゆくなります(笑)」 

選手とタバコ吸いながら世間話(笑)。これは取材なのでしょうか。それにしても、中田竜太、かわいい顔してるよなあ。出走表でたしかめたら23歳なのだが、10代みたいなベビーフェイス。こりゃモテそうだな

 

あ……という話はさすがに振れませんでしたが。そういや、出場してもいないのにここにちょこちょこ出しちゃってるあの竜太も童顔ですね。

 

 

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 この喫煙所、我々報道陣やテレビスタッフだけでなく、選手も利用しているので、ときどき出くわしたりする。2R前には桑原悠もやって来ていて、彼とここで会うのは3回目だ。

「(フライング)残念でしたね」

「すいません。勝負かけたら、早すぎちゃって……」

「そういうこともありますよ。でも、まだレースは残ってるから頑張って」

「見せ場は作りますよ!」

「いや、僕は初勝利の水神祭を見ているから(たまたま若松での初勝利時に仕事で行っていた)、今度はGⅠ初勝利の水神祭が見たいなあ」

「ははは、頑張ります」 

これも取材というよりは、雑談だな。だが、雑談のなかから生まれるものもある。というわけで、実は選手がそこに来るとけっこう緊張しちゃうんだけど、時々はこちらからも飛び込んでいこう。

 

 

 

 2R、西山貴浩が5着に敗れた。レース後はまったく口を開かなかった。エンジン吊りも後輩に託し、誰よりも早く控室へと戻っていった。

遅れてカポック脱ぎ場にあらわれた同期の土屋智則が、ケツをポンと叩いても、西山は何も反応せず、黙ったまま控室への階段を上っていった(土屋は呆然と見送っていた)。

こんな西山貴浩、見たことがない。だが西山、終戦と決めつけるのはまだ早いぞ。ボーダーが下がる気配となっているのだから、後半1着なら充分に可能性がある。

8R、意地の走りを見せてもらおうじゃないか。

 

(PHOTO/中尾茂幸=里岡、平本、中田 池上一摩=磯部、桑原 TEXT/黒須田)