“復習”するは、我にあり!!
12R優勝戦
①茅原悠紀(99期・岡山) 15
②池永 太(97期・福岡 ;21
③大池佑来(101期・神奈川)26
④松尾昂明(100期・福岡 06
⑤土屋智則(97期・群馬)07
⑥奈須啓太(96期・福岡;07
土屋に、やられたっ!! 私がそう感じたのと、
スタンドが奇声に包まれたのは同時だった。
「うわ、土屋、やりやがった!」「ずるいぞーー、ツチヤーー!」
「そんなん、ありかよっ!」 そんな声ばかり。
当の土屋本人は、水面で何もしていない。
松尾の外でゆっくりと艇を流しているだけ。
ありふれた光景なのに、観衆はエキサイトしているのだ。
もちろん、これには布石がある。
優出選手インタビューで「動きます、動かないと面白くないでしょ!」と前付け宣言し、スタート展示で宣言どおりにゴリゴリ動いた。
125/346の隊形を、ほとんどの人が絶対的なものと信じたはずだ。
私も。
だが、本番の土屋は、目の前で飄々と艇を流している。
宣言を覆し、スタート展示を覆している。
みんな、やられた。何の変哲もない枠なりの待機行動の中、
奇声は止むことがなかった。こんなに大騒ぎになる枠なり進入、
今まで見たことないぞ。 ミリオンアタックが、進入で終わっちまった。 私は心の中で、1枚の舟券を捨てた。
帯封を目指すべく、私は1-6-3を12000円買っていた。
土屋が動いて、キーマンの松尾がカドでもない5コースになる。
それでも、外の奈須先輩への思いも含めてシャカリキに攻めるから、1-6。枠なりでは、奈須の役目が土屋に変わる。
いや、それ以前に、4カドなら松尾がまくってしまう。
どっちにしても、1-6になる可能性は限りなくゼロに近づいた。
土屋に、やられたっ!! また、胸中で吐き捨てる。
本当は、自分のせいだったと気づいている。
土屋は何の反則も犯していない。
スタート展示で深くなりすぎたから、本番ではやめた。
そんな例は、何度も見てきた。選手の言葉もスタート展示も、
一介の頼りない情報にすぎない。
情報信ずべし、しかもまた、信ずべからず。
博打の鉄則を、古人が明確に表現している。
もしも博打打ちらしく土屋の“情報”を疑っていれば、
4カド想定の松尾は「買い」になる。みんなが「松尾がカドでもない5コース」だと盲目的に信じた(共同幻想)分だけ、松尾アタマのオッズは飛躍的に跳ね上がった。今日の私は、土屋を1ミリも疑わずに、限りなくゼロに近い可能性に大枚を投じてしまった。何度復習しても、同じような過ちを犯してしまう。今日の私は、スタート以前のギャンブルに敗れ去った、気のいいオジサンだった。
あっちこちの奇声(私と同類)が、やがて
力強い歓声に変わりはじめた。
「マツオーーッ、行ってまえーー!!」「まくれ、松尾っ!!」
そう、どんな進入予想だったかはともかく、
松尾のアタマで勝負しているファンが俄然色めきたったのだ。
そりゃ、そうだ。「松尾の4カド」なのである。 と、思うと、また奇声。
3コースの大池が、颯爽と艇を引いた。
松尾の4カドが消えて、大池の3カドに。
で、3カドというのは颯爽として見えるものだが、
大池の内心はイヤイヤというか、非常手段だったはずだ。
土屋を入れて4カドに引こうとしてたら枠なりに……
想定外のスロー3コースじゃスタートも自信ないし、
松尾にまくられるのも悔しい。だから、
悔いを残さぬように艇を引いたのだろう。
大池も、土屋にやられたひとりだったか。
そして、大池は遅れた。3カドと4カドでは、S勘がまったく違う。
多くの選手がそう言っている。心の準備がないまま3カドに引いた
大池には、難しすぎるスタートだった。
大池コンマ26、松尾コンマ06。
松尾の艇にロケットほどの加速度を与えるのに、
十分なタイミング差だった。 奇声がまた、大歓声に変わった。
誰もがスリットからそれとわかる、豪快なまくり。
インよりも4コースが活躍した今節を象徴する、美しいまくりだった。
(Photos/中尾茂幸、text/H)