BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――戸田の坂

 通常、レースを終えた選手は、2回乗りで後半レースを控えていたとしても、いったんはボートを陸に上げるものである。レース中にもらってしまった水を掃除機で吸い取ったり、艇番艇旗を後半のものに替えたり、装着場で後半レースへの準備を手早く整えるわけだ。

 戸田では、必ずしもそうではない。レース後にリフトに向かわず、係留所にそのまま艇をつけることが許されているのだ。だから、係留所にも水吸い取り用の掃除機が設置されていたりする。エンジン吊りのため出迎えた仲間たちも、当然、リフトから係留所へと駆け寄ることになる。

 

f:id:boatrace-g-report:20171128162342j:plain

 1Rが終わり、選手たちがリフトに集結しはじめる。そんななかで、川﨑智幸だけが、リフトから外れて係留所への坂を下っていった。

 「カクロー! 1と5だろ!?」

 岡山勢が出迎えようとしていたのは山本浩次。吉田拡郎は当然、まずリフト前で待ち構えていたのだが、川﨑は山本の次の出走が5Rと間隔が短いことから、おそらく係留所に直接やって来るのではないかと読んだようだった。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171128162354j:plain

 ピットにゆっくりと近づいてきた山本は……そのまま係留所に! 川﨑、大正解~っ! ベテラン、さすがの読みであります。カクローはダッシュで係留所への坂を駆けおり、川﨑に合流。他の岡山勢もそれに続いて坂を下りて行った。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171128162408j:plain

 ちょうどそのころ、今垣光太郎は水面をじっと注視していた。

 「どっち? こっちかな?」

 中島孝平と係留所への坂の入口のところで、石野貴之の動きを探っていたのだ。石野は……係留所へ向かった! すすっと坂を駆け下りていく今垣、そして中島。

 

f:id:boatrace-g-report:20171128162419j:plain

 さらに! 太田和美がリフトから猛ダッシュで係留所へと走っていく。それに湯川浩司が続き、その後ろを松井繁も全力疾走!

 大阪勢はリフトで待ち構えていて、福井勢に先を越されてはなるまいとばかりに、ダッシュを決めたのであった。

 それにしても……やけに豪華なメンツが坂を駆け下りていったもの。全員SGウイナーだし、5人で27冠!? 石野もSG覇者だもんな。やけにハイバリューなエネルギーが、係留所への坂に凝縮されていたわけである。

 

 さてさて、そんな光景をのんびり眺めてしまうほど、今日のピットは暖かい。いや、実をいえば気温は下がっているのだ。昨日の2R頃のピットは11℃。今日は8℃。なのに、今日は本当に暖かく感じるのである。そう、風だ。昨日は冷たい風がピットに吹き込んでおり、体感では11℃なんてとんでもない、まるで真冬のようだった。今日は風が緩くなり、ピットではまるで感じないから、8℃でも天国に感じる。ついつい、のほほんと過ごしてしまったりもするわけなのである。

 

f:id:boatrace-g-report:20171128162435j:plain

 気を引き締めて整備室を覗く。赤岩善生が本体整備をしていた。昨日フライングを切って優勝戦線からは離脱したが、そんなことがこの男の動きを変えようはずがない。いつもどおりにモーターを仕上げ、いつもどおり目の前の戦いに全力を注ぐ。赤岩らしい姿が、F後であっても見られるのは、何も不思議なことではない。ちなみに、その後の足合わせをチェックしていた担当Gが「赤岩、アップしてる!」だそうです。

 

f:id:boatrace-g-report:20171128162446j:plain

 壁際のテーブルでは、中澤和志がリードバルブの調整をしていた。今節は特別な思いを抱いての戦いではありながら、しかし機力的にはやや苦しく見える中澤。今日は朝から調整作業をする様子が見かけられていて、リードバルブ調整もかなり丁寧に時間をかけて行なっていた。昨日までは選手班長としての姿のほうを多く見かけたものだったのだが。

 

f:id:boatrace-g-report:20171128162458j:plain

 1R後、原田幸哉が今村豊に「終わった~」と苦笑いで声をかけているところを見かけた。1R6着で、3走5点。これはたしかに厳しい状況である。今村も、笑顔でからかっていたが、それが原田を慰めることになっていたのは確かである。その後、3R後には井口佳典の肩に抱き着きながら、苦笑いでうなだれていたり、隣にやってきた坪井康晴にやはり抱きついたり、1Rの大敗をとことん悲しみ、予選突破の望みが薄くなってしまったことを嘆いていた。

 幸哉、Fしてもまったく気を緩めない赤岩を見習え!

 などと思っていたら、あらら、幸哉も本体の調整をしているではないか。状況が苦しくなり、それについておどけたように嘆いてみせたりはするものの、実際は闘志が萎えてしまったわけではないのだ。まあ、原田幸哉という男の軌跡を思い返せば、このまま終わるわけがないよな、とも思う次第である。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)