BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――ツイてる男、乗ってる男、笑顔の男

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 初日9Rの坪井康晴の周回展示での「落水しかけた」件について、改めて本人に訊いてみた。

 「オッズ板の切れ目くらいのところで、風にあおられて、縦に1回転したんですよ。それで水もらってしまって、沈没しかけたんですよね。モーターが動いていたからよかったけど、止まってたら沈没してたと思いますね」

 ちょっと誤認していたようだ。なんと縦に1回転! さらに落水しかけたのではなく、沈没しかけたが正解。いずれにしても坪井は相当おっかない目にあったのであり、それでも諦めずにボートによじ上って、展示航走をまっとうした。あれは本当にナイスガッツでしたよ!

 「もう平気ですけど、翌日はあちこち筋肉痛(笑)」

 体は痛かったが、2日目から見事に連勝街道! 早々と準優当確ランプを点していたわけだが、それにしてもあそこで沈没しなかったのは、本当に大きかったのだ。もし、沈没して欠場になっていたら、坪井は最終的な点数から4点を失っていた。そして、その4点のおかげで坪井は予選2位。準優1号艇! 4点がなければ、1号艇にはなっていなかった。そもそも沈没していたら、モーターにも変調をきたしていた可能性さえあった。

 「そんなもんなんでしょうね(笑)。本当にツイてた。流れは来てますよね」

 ツイてる者には乗れ、という。ベスト18のなかでもっともツイているのは、間違いなく坪井康晴だ。

 

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 もちろん、予選1位の今垣光太郎にも流れは来ている。というか、出足四重丸と言っていて、たしかにレースぶりがすごいのだ。今日の4R、白井英治に完全にまくり切られながら、しっかり残して1着。初日にも、吉田拡郎にまくり切られたのに残して1着という、同じ展開での勝利があった。今垣はその展開について「ツイてる」と言うが、これはもうツイてるだけで片付けられない。決まり手は、どちらもまくり。まくられたのに、まくり勝ち。まくられた後に内を叩いて出て、先にまくり切った外の艇を差し返しているのだから、とんでもない出足なのだ。

 11R後、今垣に声をかけようと近寄ると、光ちゃん、何か慌てた様子。なので、「1位っすね!」とだけ言って、光ちゃんはニッコリと「ハイッ!」。それだけ言葉を返した今垣は、猛ダッシュでピットの奥のほうへ走っていってしまった。

 今垣は、レース後の時間を入念な“片付け”に使う人である。ボートは隅から隅まで布で磨く。モーターもしっかり磨いてから格納する。ところがイン逃げ快勝の11R後、その時点で予選1位が確定したことから、報道陣がまるで大名行列のように今垣のあとを追っていた。その前には勝利者インタビューもあったわけで、ルーティンに使うべき時間がすっかり短くなってしまったのだ。

 というわけで、大慌ての今垣光太郎。こうしたときの今垣は、受け答えは実に丁寧ながらも、他者を寄せ付けない勢いで(雰囲気で、ではない)テキパキと動く。そして、そんな姿は絶好調のサイン。ベスト18のなかでもっとも乗っているのは、今垣光太郎だろう。

 

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 今垣が大急ぎで動いている頃、整備室には最強タッグが揃い踏みしていた。池田浩二と瓜生正義。瓜生は10Rで5着に敗れて得点率を下げてしまっており、表情に力強さがなかったのが少し気になっていた。一方の池田はとにかく苦笑い。整備室にいた西山貴浩に声をかけては苦笑、今井貴士と話しては苦笑、そして瓜生とともに苦笑の会話と相成ったのだった。そう、池田はまさかの予選落ちを喫してしまったのだ。

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 瓜生はそれでも準優進出は果たしており、池田へのまなざしは「ダメだったかぁ~」という感じのものになっていた。自分も気分は晴れないが、それ以上に池田の心中を慮ったのだろう。池田はちょっといじけたふうな笑顔を瓜生に向けて、敗戦を悔やんでいた。相棒を仕上げきれなかったことへの悔恨もあったかもしれない。

 それにしても、瓜池の落胆気味なツーショットを見ることになろうとは。常勝は実に難しく、彼らであっても敗戦の痛みに身もだえする夜があるのである。

 

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 大敗したといえば、昨日まで予選トップを快走していた吉田拡郎が、6着大敗である。予選順位は6位に下がり、準優は今垣と対戦する2号艇となっている。

 もちろん1号艇のほうがいいに決まっているし、負けてよかったなんてことはありえないが、しかし吉田の表情が柔らかになっているように見えたのは気のせいだったか。あれほどまでのパワーがあれば、早々に優勝を意識してしまうのは仕方ないこと。だが、予選1位から滑り落ち、優勝からやや距離が離れたことが、かえって吉田の心を楽にするのではないかと思った次第だ。

 実を言えば、昨日今日のカクローはちょっと話しかけにくい雰囲気だった。普段なら、いったんすれ違ったあと、そこでこちらの顔に気付いたのか、わざわざ戻ってきて挨拶してくれるくらい、気さくなカクローなのに、そんな雰囲気ではなかったのだ。大きなマスクをしていることも多いから、なおさら表情が読めずに声をかけづらいというのもあったかもしれないが。レース後のカクローからは、そうした様子は感じなかった。ならば、やっぱりあの強烈なストレートは、大きな大きな武器となるだろう。

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 同じ意味で、篠崎元志も怖いと思うぞ。ピンピン連勝の初日からジワジワと成績を下げていって、なんと予選18位での準優進出となってしまった。2日目に話したとき、篠崎は饒舌に語ってくれたわけだが、そのなかで今節に懸ける思いというか決意というか、そうした類いのものを、言葉を選びながら、途切れ途切れに語るという場面があった。それは優出したときにでも「実は……」と記そうと温めていたわけだが、そのとき僕は少しばかりのカタさを感じていたのである。あるいは、決意で己を縛っている、とでもいうか。

 12Rで5着に敗れ、ぎりぎりの予選通過。そのあたりを瓜生らにからかわれたのか、篠崎は爽快に笑っていた。もちろん敗戦に対する悔しさを抱えてもいたはずだが、ピンピン発進→ギリギリ18位という過程におかしさもこみ上げてきたのだろう。そして、その笑顔は岡崎恭裕や峰竜太とともに行動しているときによく見られたもの。今節は初めて見たような気がする。その笑顔が戻ってきたのであれば、それがレースにも反映するのではないかと思えた。たとえ6号艇だろうと、突き抜ける力がこの男にはある。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)