BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THE ピット――強力な足、力強い言葉

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 「ヘルメット脱げ! カメラ、カメラ!!」

 

 そうして叫ぶ鎌田義の声は、“罪人”の顔を晒そうとしているようにも聞こえたものだが、そうではなく“ヒーロー”の顔をみんなにお披露目したかったのだ。

 準優最初の10R、勝ったのは1号艇の馬袋義則だった。

 その人柄のためか、迎える兵庫&大阪勢の選手たちの顔が、喜びに満ち満ちていたのが印象的だ。

 「ひとつ言えるのは、僕が優出できるんですから、(足は)出てます! それだけです」

 レース後の共同会見におけるそんな言葉が馬袋の誠実さをよく示していた。

 

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 このレースで2着に入ったのは中島孝平で、こちらも「まじめ」という3文字が、よく似合う男だ。

 レース後、エンジン吊りのため全選手中一番にリフトのところにやって来たのは今垣光太郎だったが、今垣にしても、ここまで“たどり着いた”中島の苦労をよく知っているのだろう。

 一昨年の賞金王・中島も、昨年は1年間を通して厳しい戦いを強いられていた。最近にしても、プロペラに関しては「どうしたらいいかわからない」ような状態だったという。それでも中島は、今垣に相談するなどして、ようやく答えを出してきた。だからこそ、今垣もその勝利を喜び、すぐさま控室を飛び出してきたのだろう。

 話は先に飛んでしまうが、12Rで優出を決めた今垣は「(明日は)僕と孝平でワンツーを決めたい」と言ったあと、笑って「僕は2着でもいいから」と付け加えていたほどだった。

 

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 続く11Rでは2号艇=白井英治が勝って、1号艇=坪井康晴が2着となっている。

 勝った白井はレース後、ヘルメットの奥では嬉しそうな顔も見せていたし、坪井は坪井で表情を固くしていたけれども、それぞれにそうした喜びや悔しさを長く引きずることはしなかった。

 なんといっても白井はこれが12度目のSG優出だ。

 また、坪井は1号艇でありながらも、ここで1着なら明日は2号艇、2着なら4号艇になる可能性が高く(実際は5号艇になった)、その強力な伸び足はカド向きとも考えられた。

 「一見、ついてないようでもツキはある」と言う坪井は、すぐに気持ちを切り替えられていたのだろう。

 

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 また、ここで特筆しておくべきは、白井の足がきっちり仕上がってきていたことだ。

 それは坪井も認めていたし、白井自身も「エンジン状態では(誰かに)負けることはないかな」と言っていたくらいだ。

 減量しているという白井は、元気がないようにも見えたが、本人いわく「いままでのSGのなかでも、精神状態なども含めてすごくいい」とのこと。

 “12度目の正直”も期待したくなってくる。

 

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 11Rの2人の足も凄かったが、12Rの2人もまた凄かった。結果は11Rと似ていて、2号艇=吉田拡郎が1着で、1号艇=今垣光太郎が2着となった。

 レース後、誰もいないところで、天をあおぐようにしながら小さな笑みを浮かべている松井繁を見かけたが、内2艇の足を見せつけられてしまえば、この結果(松井は3号艇で4着)は仕方がないと納得できていたのではなかろうか。

 馬袋もそうだが、カクローにとってはこれがSG初優出となるので、同県の平尾崇典、山本浩次らが嬉しそうに拍手で迎えていた。岡山支部にカマギーはいないので、地味といえば地味だったけれども、祝福の気持ちはよく伝わってくる光景だった。

 今日1日を通して最も余裕があるように見えていたのが今垣だったので、この結果には愕然としているのではないかとも予想されたが、やはりカクローの足の前には自分を納得させるしかなかったのだろう。

 レース直後はやや放心状態の顔にも見えた今垣も、共同会見では「すごかったですね! (吉田君は)みるみる伸びてきました。明日は隣りになりますので離しません」と記者たちの笑いをとっていた。

 そのトークはなかなか軽妙で、今のままでは伸びでは絶対にカクローにかなわないことを認めながらも、自分も「伸び」をつける方向性でいくことを宣言!

 初日のペラに戻すか、これまでずっと叩いてなかったエースペラ(今日のペラ)を叩くか、どちらかを選択して、「今のままではいかない」と言い切った。

 

 一方のカクローも、「これ以上、出るなら教えてほしい」と自分の伸びには胸を張る。

 今節、「.10」のスタートを狙って「.01」になったこともあるので、スタートは10を狙うというが……。

 「放れば優勝の可能性はないけど、全速なら可能性はある」「内2人を叩けなかったら優勝はない、という気持ちで行きます」

 と、その言葉は力強い。

 

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 明日の優勝戦、強力な足を誇る選手が揃い、なんとも楽しみな一戦になってきた。

 1号艇になった馬袋とすれば、“居心地のいいイン”とは言えないかもしれないが、そこはまぎれもなくポールポジションであり、針のむしろに座らされているわけではない。

 10Rが終わった直後、エンジン吊りに向かう太田和美はこう呟いていた。

 「苦節20年……、賞金王に初出場やな」

 この言葉を現実にするためには、続きのドラマが必要だ。そして、今の馬袋には、太田にそう言わせるだけのものがあるのだろう。

 

 また、地元・埼玉支部選手として選手班長を務めながら孤軍奮闘していた中澤和志は準優で敗れてしまったものの、背負っているものの大きさがよく伝わってくる闘いぶりだったことも付け加えておきたい。明日ももう一日、頑張ってほしい!  (PHOTO/池上一摩 TEXT/内池)