BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――気持ちいい春の笑顔

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 毎年のことだが、匠たちの精力的で若々しい動きには、若輩者として感服してしまうのである。

 開会式記事をアップして、ピットに入ったのは1R終了後。装着場には選手の姿が少なく、かわりに試運転用係留所は満艇状態。ブルルンとモーター音はピットに鳴り響き、信号灯が青に変われば、次々に水面へとボートが飛び出ていく。試運転から戻れば、軽快な足取りでペラ調整室や整備室に向かい、なかには駆け足で移動している選手もいる。

 僕もあと5年で名人世代。しかし5年後、この偉大なる先達のように動けるかといえば、まったく自信はない。だいたい今日だって、のたりのたりとピットに入り、腰が痛いの膝が痛いのと溜め息をついているのである。僕にとって、名人戦はおおいなる取材の場であると同時に、自らを省みて襟を正す機会にもなっている。

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 そうしたなか、年輪が醸し出す味わいを見せてくれる選手もいて、これがまた癒しとなる。

「天気がええのは、ええですなぁ~」

 すれ違いざま、原由樹夫が目を細めながら、声をかけてくる。その好好爺然とした様子は、たしかにベテランの姿でもあって、水面での激しい走りとのギャップに人間としての厚みを思う。ほんと、気持ちいいですよね~、と返すと、原の目はいっそう細くなった。

「はい~」

 飄々と去っていくユッキー。で、ものの1分後にはカポックを手に係留所へと駆け下りていくのだから、頭が下がるのでありました。

 

 そうした様子を見ながら、ほのぼのとしていると、非常に気持ちのいい笑顔が目につく春の日なのだった。

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 3R、4カドからまくって展開を作った富山弘幸のまわりには、笑顔の輪ができあがっていた。吉本正昭に差されての2着ではあったが、スタート決めて、まくって、という走り自体は渾身であっただろう。出迎えた高橋淳美が華のあるスマイルを向けると、古場輝義も富山に声をかけてスマイル。 それに富山がスマイルで返すと、高橋が古場をからかうように矯正を浴びせてみんなでスマイル! 中西宏文も、いい笑顔で会話に加わっていた。

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 高橋は、2Rで1着2着を分け合った森脇徹ともその後に話し込んでおり、ここでも笑顔が目立っていた。やっぱり淳ちゃんは今節のアイドルで決まり! で、森脇は高橋の笑顔を前にしても、淡々とした真面目な表情をいっさい崩すことがなくて、そのお人柄がうかがえるのであった。うん、渋いね、森脇。 

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 装着場の隅のほうでは、「ほっほっほー」と太い声の笑い声が聞こえてきた。新良一規だ。シャープな輪郭の新良は、大口を開けて笑うという感じではなく、しかしおかしそうに目を細めて、西島義則の話に耳を傾けていた。

 ペラをモーターに装着していた西島が「そういうわけじゃないけど、様子見ていってみてね~」なんて言っている声が聞こえてきた。ん? 西島は何か秘策あり、なの? それを聞いて、新良は大笑いしていた? とりあえず、12Rの直前情報や進入も含めたレースっぷりに注目しておこう。

 で、笑顔というのは常にポジティブな感情をあらわすわけではない。苦笑いってものもありますからね。3R、コース動いたものの3コースまで、富山弘幸のまくりを真っ先に浴びるかたちとなった鈴木幸夫。控室に戻り際、スリット写真を覗き込んで、鈴木はザッツ苦笑いとでもいう表情を見せていた。鈴木が去ったあとに確認にいくと、あらあ、スタートを決めた富山に大きくのぞかれてしまっている。そりゃまくられるのも仕方ないよなあ、と、なぜかこちらまで苦笑いが浮かんできてしまったのだった。悔しい時の笑みって、こういうものですよね。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)