BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――穏

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 なんとも穏やかな勝負駆けであった。

 1コースが8R以降5連勝という結果も影響したのか、19位以下からジャンプアップする選手がなかなかあらわれない。10Rなど、ノルマを抱えていた山口俊英と古場輝義がそろってゴンロクに大敗し、1着でも準優に届きそうになかった選手が2~4着に入っている。山口はさすがに溜め息を漏らしており、その悔恨をあらわにしていたものだが、しかしもっと悔しい思いを抱くであろう18位以内→大敗→予選落ちという選手もあらわれないのだから、ピット全体としての空気はなかなかヒリヒリとはしていかなかったのだ。

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 11Rでは、その時点で19位だった藤井定美が大敗。もっとも逆転準優進出に近い存在だったはずの藤井ですら、ボーダーの壁を突破できなかった。藤井はすでにレース中にもその事実を認識していたのか、レース後には特に表情を変えてはいない。もっとも、あまり歓喜にしても悔恨にしても表情に出すほうではないので、腹の底には煮えたぎるものもあったのかもしれない。いずれにしろ、ピットの空気を撹拌するものが生じていたとは言い難かったわけだ。

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 歓喜もそれほど渦巻いたわけではない。10Rを逃げ切った松野京吾も淡々としたものだったし、12Rを逃げ切った倉谷和信も、充実感が表情にはあらわれていたものの(今日はピンピンだ!)、激しく喜んでみせたわけではない。

 

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 11Rの1着で予選トップを確定させた山室展弘も、飄々としたものだった。勝利者インタビューで「1号艇なんですか?」と確認していたくらいだから、勝てばトップ通過ということ自体まるで気にしていなかったのだろうけど。

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 後半のピットでもっとも歓喜に沸いたのは、8Rの板谷茂樹の勝利。どのような歓喜に沸いたかといえば、山室が嬌声をあげながらバンザイを何度かしたというもの。山室は自分の勝利では淡々としていたのに、先輩の勝利にはオーバーアクションで喜んでいたというわけだ。板谷自身は、ゴンロクトンネルを勝利で脱け出たことへの安堵のほうを強く感じていたようだったのだが。

 勝負駆けなんて何百回も経験してきた匠たち、今さら一喜一憂もない、ということもあるのか? ともかく、春の陽気のようにやわらかで穏やかな、名人戦予選最終日なのであった。これも年輪と考えれば、なかなか心地のいい時間ではあった。

 

 というわけで、午後のピットで印象に残ったシーンを脈絡なくつづっていこう。

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●大嶋一也が見ていたものは……

 11Rの展示が終わり、ピットは静寂に包まれていた。午後4時が近くなって、装着場には報道陣以外の人影はなく、整備室やペラ室にも空いたスペースが目立つようになっており、もちろん試運転に出ようという選手もすでにいない。ピットの動きがほとんど止まっていた時間帯だ。 そんななかで、大嶋一也が装着場にあらわれ、水面際に歩み寄って、彼方をじっと見つめていた。春の午後、静かにたたずみ、物思いにふける大嶋。う~ん、ダンディ! 1分ほど微動だにせず何かを見つめていた大嶋は、やがて出走待機室へと戻っていった。大嶋が去ったあと、立っていた場所から見つめていた方向に目を向けると、そこには……対岸のオッズ板! 大嶋は、おそらくオッズを見ていたのだ。実は、空中線や吹き流しなどで風の強さと向きをチェックしていたのだろうと想像していたのだが、その場所からは風を見るためのものは何も見えなかった。大嶋は、山室と自分にかぶっているオッズを見て、何を思っただろう……。

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●岡山コンビがのんびりと

 下関ピットには、水面際に観覧席のようなベンチがある。屋根もついて、10コくらいのイスが2段。ここではときどき選手の姿を見かけるわけだが、実は装着場からは展示待機室の死角になっていて、その場所まで行ってはじめて、選手に気づくという次第である。取材中は装着場をうろちょろしていることがほとんどなので、ふだんはあまり意識にない場所だったりする。

 いい天気だし、11Rは水面際に行って、対岸のビジョンで観戦しよう。ベンチのあたりは広場みたいになっており、天気がよいとけっこう心地いい風を感じられるのだ。というわけで向かってみると、ベンチにいたのは万谷章と原由樹夫。岡山コンビがのんびりと腰かけて、山本泰照さんも加わって談笑していたのだった(岡山トリオ、ですね)。右端のユッキーと左端の泰照さんが話しているのを、真ん中で挟まれているオヤビンがにこにこと微笑んで聞いている、という図で、オヤビンの視線は水面に向けられたまま。その雰囲気がなんともいえない穏やかさで……う~ん、癒されました。レースが始まると、もちろん応援していたのは山室!

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●ドライバー釣り

 11Rのエンジン吊りが終わり、選手たちも控室に戻ったあと、ボートリフトには整備士さんや検査員さんたちが集結していた。長い棒で水面をつついていて、何事でしょうか?

 駆け寄ってみると、大川茂美も水面を覗き込んでいる。「僕が粗相をしてしまって……」と恐縮気味だ。なんでも、エンジン吊りの際に使うドライバーを手にしてリフトの柵に寄りかかっていたのだが、山室が戻ってきて駆け寄ろうとすると、ドライバーが柵にひっかかって手から離れ、水中にぽちゃりと落ちてしまったのだそうだ。エンジン吊り後に申告し、回収を申し出たという次第。で、鉄くずを拾い集める磁石を棒の先にセットして、ドライバー釣りが始まった。そーっと磁石を水の中に沈めていくと……ヒット! 一発でドライバーが釣りあがったのでありました。 ドライバーとともに予選での悪いツキもこれで落ちた、ということで、明日は快走を見せてください、大川選手!

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●カメさんのボヤキ

 12R、ピット離れで押さえ込まれて、6コース回りになってしまった亀本勇樹。レース後はもう、ボヤくボヤく(笑)。レースにならなかった、とか、何がなんだかわからなくなった、とか。そして最後に一言。まるでフシをつけて歌うように言った。

「♪やってらんね~よぉ~ん」

 本当にやってらんねーと悔しがってもいたのだろうが、それがあまりにお気楽な感じだったので、つい笑ってしまいました。明日の準優は5号艇。ピット離れ遅れても、回り込みやすい外枠ですぞ。準優後は、軽快な亀本節を聞かせてくださいね!(PHOTO/中尾茂幸=山口、板谷、大嶋 池上一摩=藤井、松野、山室、万谷、大川、亀本 TEXT/黒須田)