BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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浜名湖笹川賞 優勝戦私的回顧

エクリプスの真相

 

12R優勝戦 進入順

①井口佳典(三重)13

②渡邉英児(静岡)10

③坪井康晴(静岡)08

⑥菊地孝平(静岡)03

④桐生順平(埼玉)09

⑤峰 竜太(佐賀)14

 

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「金環日食シリーズ」 勝手にそう名付けていた。ファン投票1位の池田浩二、王者・松井繁、地元の総大将・服部幸男、ミスター競艇・今村豊、憲吾&智也の関東二枚看板……全国の巨星たちが、準優を待たずに消えた。準優では、ファン投票2位の瓜生正義も敗れ去った。

 前検の朝に起こった日食が、このシリーズを支配している。そんなオカルトじみたことを考えていた。自然、クライマックス優勝戦の結論も早々に導き出される。「井口や坪井、菊地らのSGスターが勝つ流れではない。今まで恒星の輝きで見えなかった選手が優勝する」

 

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 私は、その“月”の役割に桐生順平を指名して、ファンファーレを待った。

 待機行動、スタート展示で動かなかった菊地が、のっそりと4コースに侵入した。1236/45。大本命・井口を地元3人が包囲し、さらにその外にはやまとの若き星ふたつ。でっかい太陽を中心とする、波乱含みの“銀河星系”が誕生した。私はまた、思う。

 十数秒後、主星が月に隠される。

 耳の奥の奥のほうで、ピンク・フロイドの『狂気』(原題『THE DARKSIDE OF THE MOON』)の音律が響く。4日目くらいから、ずっと聴こえていた音律。

 

♪食べる物すべて、息をする者すべて、遊ぶ物すべて、喧嘩する者すべて、愛し合う者すべて……地球上のすべての物は太陽によって調律を保たれているが、いま、その太陽は月によって覆われようとしている。

 

 

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 妄想と幻聴の中、12秒針が回りはじめる。スリットを過ぎて、妄想は確信に変わった。地元3人のスタートが、井口を圧倒している。3人の誰でも、どこからでも井口を攻め潰せる隊形だった。窮屈そうに、1マークに向かう井口。スタンドの1マーク付近にいた私の目には、すでに井口の姿が隠れはじめていた。

 だが、この地元包囲網の隊形は、実のところ仕掛けにくい並びでもあったのだ。井口~菊地まで内から順々に少しずつ覗く、段々畑のような並び。誰かしらひとりでも凹めば破壊力抜群の攻撃になるが、それぞれがそれぞれを邪魔する形で、すぐには動けない。1マークの手前、やっと渡邉が差しに構え、坪井がその上を握り、菊地がマーク差しのハンドルを入れた。どれも的確だが、わずかに遅いのだ。

 

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 その間に伸び返した井口が、ターンマークを掠めるような完璧なターンでバック水面へと抜け出した。逃げた、というより、分厚い包囲網から脱出したように見えた。

 バック直線、追いすがる地元3艇。届かない。私が日食を期待した桐生と峰のやまとコンビは、太陽に接近することもできなかった。

 小さなガッツポーズで、井口は2年半ぶり4度目のSG優勝のゴールを通過した。初日から「優勝できる足」と宣言し、4日目に連勝で予選トップに立ち、完璧無比なインモンキーでの優勝。非の打ち所のない戦いぶりで、私の妄想を蹴散らした。

 あ~ぁ、やっぱ、つまらん妄想だったかぁ。

 溜め息をつきながら、記者席へと向かう。

 あ。

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 このとき、私は気づいたのである。今節を支配したと思っていた日食は、太陽がすべて覆われる皆既日食ではなかった。月が太陽を覆いきれない、金環日食だったのだ、と。前検日の早朝、自宅の庭で見た光景が浮かぶ。月に隠されて、なおリング状に輝く太陽。いつもの光よりも、より艶やかで凛々しい銀河系内太陽系の主星の姿。

 なんだ、そうだったのか。

 勝手な妄想の上塗りで納得して、私はひとり苦笑した。

(Photos/チャーリー池上、text/H)