水面一番乗りは田中信一郎。これはもう、SGの“いつもの光景”だ。
信一郎が不在なら西島義則。二人とも不在なら
もちろん他の誰かとなるわけだが、どちらかが参戦していれば
間違いなく信一郎か西島が最初に水面に飛び出す。
二人とも参戦の場合は、取材班内で夜のビール代を懸けての
予想合戦となったりして。 今日は、信一郎に馬袋義則が追随した。
誰もいない水面に信一郎が飛び出し、
それを追って馬袋が飛び出すと、次の1周は早くも足合わせ。
穏やかな水面を気持ちよさそうに走る二人。
それを見届けてからピットへと入る。
さすがに多くの選手が着水し、試運転に飛び出そうとしていた。
10分ほどその様子を眺めて、約2年ぶりの
桐生ピットの配置を確かめつつ徘徊。
右手奥にあるプロペラ調整室を覗き込むと、
信一郎と馬袋が早くもペラを叩いていた。素早い。
真っ先に水面に出て、感触を確かめると速攻でペラ調整。
それが彼らのルーティンとは言いながらも、
いち早く臨戦態勢を整えようという動きには感心させられる。
もちろん、明日もまた早い時間帯からの調整に励むことになるだろう。
そのすぐ横で、中村亮太もペラを叩いていた。
亮太はまだ着水しておらず、そう、走る前にプロペラ調整へと向かったのである。それも、かなり強く、ガンガンと叩いている。
言うまでもなく、いまや彼の理論全体を指していると言ってもいい
“亮太スペシャル”に叩き変えているわけだ。
翼をカットすることはもうできなくても、
新しいプロペラの形状の中で亮太なりのライン取りがある。
これは今や、亮太のルーティンだそうだ。
そして、特訓に出た後には「回転が上がるほうにもっていって、
もう大丈夫だと思います」と力強く語っていた。
まず最初の準備を、亮太は短時間で完了したわけである。
亮太の姿を見かけてから1時間以上が経っていたが、
峰竜太がペラ室を拠点にしてピット内を走り回っている姿を目撃している。すでに5班(登番順で3996秋山直之まで)が
スタート練習&タイム測定を終えており、6班以降の後半組が
試運転を始めていた時間帯。係留所では足合わせをした選手同士が情報交換などもしており、平本真之が首を傾げていたりもしたものだった。そんななかで、峰はまだ着水を終えていなかった。
そう、峰が着水シンガリである。大慌てで準備する様子から推測するに、亮太同様、ペラを叩いていたに違いない。
ドリーム戦共同会見に出ていたため、その現場を目撃はできていないが、ペラ室から勢いよく飛び出してボートに駆け寄る姿は、
長く過ごした場所がどこだったかを指し示している。
峰も亮太とは違うかたちでプロペラの理論を研究し尽くした男。
動きが似るのも道理というものだろう。
ドリーム組のなかでは、瓜生正義の足色が話題になっていた。
瓜生自身は決して大言壮語はしていなかったが、
松井繁が絶賛したのだ。冗談めかして
「瓜生君◎でいいんじゃないですか」と笑った松井だが、
その発言が王者のものとなれば、やはり無視はできない。
松井自身、「手応えは悪くない」と自身の感触を語ってもおり、
それを上回るとなれば瓜生の足の良さは只事ではない。
もう一人、評判がよかったのは今村豊だ。
今村のモーターは、新プロペラ制度導入以降の2連対率トップなのである。会見場に姿をあらわした今村は実にゴキゲンで、
感触が良かったことは明らか。
「2節前に西田(靖)選手がぐしゃぐしゃにしてるんでね。
よくわからなくなったら(周年記念でこのモーターに乗って優勝した)
齊藤(仁)くんに聞きにいきます(笑)」という他の選手を
引き合いに出してジョークを語っているあたりも、
間違いなく足色に満足している証拠だ。
ちなみに、西田はピット離れ仕様にペラを叩いたようで、
その名残だろう、「回りすぎな感じがしました」とのこと。
気圧の低い桐生で回りすぎというコメントはあまり聞いた記憶がないだけに、今村のスタイルに適合すれば、
かなりのパワーになるのではないか。
なお、池田浩二は「ターンしてからがイマイチ」「よくわからなかった」「ここ5年間、桐生はいい印象がない」「F持ちなので、今期はおとなしくはして、来年頑張ります」とネガティブなコメントを並べていた。
ドリーム会見で「悪くない」という言葉を聞いて、
「泣きの池田がいいって言ってるんだから、いいに違いない」と
思っていた僕やH記者だったが、結果は出ていない。ということは、
「池田浩二は泣いているときのほうが手応えアリ!」というのが
僕とH記者の推論である。今節は果たして……。
さてさて、近年の若手世代においては、
九州地区の充実ぶりが非常に目立っているわけだが、
今節の前検9班、登番のもっとも若い5人は、
峰竜太、平本真之、篠崎元志、西山貴浩、前田将太である。
そう、4人が九州地区で、うち3人が福岡支部だ。
こうなると何が起こるかというと、9班のエンジン吊りが手薄になる、
である。福岡はほかに瓜生、川上剛、郷原章平の3人だけで、
他の九州勢も深川真二、赤坂俊輔、中村亮太の3人。
平本真之には愛知支部をはじめとする東海地区の面々が
ごっそりと集結するが、あとの4人は6人で
なんとかしなければならない、というわけなのである。
しかし、そんな状況にはさせないのが、選手の助け合い意識。
手の空いている選手は当然、駆けつけるという次第なのである。
現住所:福岡の齊藤仁は真っ先に駆けつけていた。
支部は東京でも福岡も大事、という意識だろうか。
若手の毒島誠も参加していたし、東本勝利もお手伝いしていた。
何より、萩原秀人は8班の馬場貴也のエンジン吊りを終えたあとは
ボートリフトにへばりつき、ハナから9班をヘルプするつもりで待機。
尼崎オーシャンでは久々SG参戦の同期・中村亮太にちょっかい出してたし、今日もSG初参戦の同期・東本勝利を気遣っていたし、
実は心優しい男である。ひそかに応援させてもらいまっせ!
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)