その日のレースをすべて終えて、その後に試運転に出る場合、
「試」と書かれた艇番をつけ、ピンク色の艇旗をつけるという
レース場は多い。さらに、カポックの首の部分も
ピンク色のものを着用する場も少なくなく、
ここ徳山もそうした場である。
徳山の試運転タイムは10R発売中まで。ということで、
10R発走前は最後まで試運転を続けていた選手たちが
一斉に陸へと帰って来るので、ちょっとしたラッシュ状態となる。
ピンクラッシュだ。
一気に陸に上がった和田兼輔、秦英悟、松尾昂明、深谷知博。
モーターを整備室に運び込んだあとは、
それぞれの手応えを語り合うことになる。
ピンクのカポックを着たまま、ピットに声を響かせる4人。
ピンク軍団だ。
やがて、その声は笑い声になっていき、爆笑が3回くらいあがった。
だはは、楽しそうだぞ、ピンク軍団。
深谷以外は100期の同期生ということで、心安くもあるのだろう。
試運転はもちろん、機力アップのための必死の動き。
しかし、その合間というか終了後には笑いとともに雑談。
この切り替えで、彼らは明日も力強く戦う!
明日は勝利の笑顔を交わし合えればいいっすね。
ちなみに、その後に和田と秦が笑顔で肩を組みながら
控室へと向かう姿を目撃。本当に仲良しだ。
お笑いコンビなら、ワダハタ、って感じでしょうか。
ピンクラッシュの間、艇から艇の間を軽やかに走っている選手がいた。小山勉だ。埼玉支部で試運転をしていた選手は
いなかったと記憶しているが、エンジン吊りは近くにいる人が手伝う、
というのが選手たちの鉄則。小山は別に近くにいたというわけではなく、控室のほうから駆けつけているのだが、
手が空いていたということなのだろう。
今節はじめて顔を合わせることとなった小山には、
真面目そうという印象をもっていた。
昨日は黙々と整備している姿も見かけており、
仲間といてもはしゃいだりせずに、にこにこと穏やかに笑っていたり
する。そして今日は、ピンクラッシュに飛び込んで、
さまざまな選手のエンジン吊り。うむ、真面目ですよね。
なにしろ、小山は実は、次の11Rに出走することになっていたのだ。
つまりこれは、展示の準備を終えて、待機室に入るまでの間、
というタイミングだったわけである。レースも近づいて、
精神統一などもしたかったかもしれないのに、
小山はこうしてピンクの中に溶け込んでいったわけだ。
で、案の定、エンジン吊りが終わると、小山は展示待機室へと
向かっている。11R、ピットでレースを観戦しながら、
つい「小山、頑張れ!」と心の中で叫んでいた私であります。
さて、小山と対照的、というと少し違うんだけど、
やけにはしゃぐ姿が目立つのが、磯部誠だ。
1月芦屋以来の再会となるが、わずか8カ月しか経っていないのに、
なんとも落ち着いたたたずまいになってきた……と
真面目な顔をしているときには思ったものだった。
どこか池田浩二を感じさせるクールな雰囲気で、
背格好も池田と似ているような気がする。
その磯部が、時にはしゃぎ出すのである。
12R後に行なわれた秋元哲の水神祭には、
「メシの時間が迫ってまーす」とかちょっかいを出しに来るし、
黒井達矢がカメラマンのリクエストに応えてポーズととっていると、
その後ろでピースをしながら踊っている。そんなヤツでしたか、
あなたは! というか、こうした姿も池田浩二に似てるんですよ。
クールな装いでありながら、実は茶目っ気たっぷりという。
磯部は17歳のときに、BOATBoy主催のピット見学に参加、
僕に「選手を目指してるんです!」と告げたのだそうだ。
そして僕は「ピットで会いましょう」と言ったんだとか。
本当にビッグレースのピットで会えた!
すみません、実はまったく覚えていないのでありますが、
それを1月の芦屋で磯部から伝えられて、
僕のなかでは俄然、贔屓の選手となった。
磯部よ、その雰囲気だけでなく、成績でも
池田浩二そっくりになる日を待っているぞ!
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)