BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

徳山・新鋭王座ファイナル 極々私的回顧

背中

 

12R優勝戦

①佐藤 翼(埼玉・105期)+07

②茅原悠紀(岡山・99期) 10

③西村拓也(大阪・98期)  12

④黒井達矢(埼玉・103期) 11

⑤船岡洋一郎(広島・98期)13

⑥青木玄太(滋賀・100期) 19

 

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171205170600j:plain

ちょっと、おかしい。 

スリットのはるか手前から、

そんな予感めいたものはあった。インの翼が、

ずっとずっと上体を起こしている。

1マーク付近にいた私には、

翼と他の選手たちとの位置関係はよくわからない。

目に映るのは、ひたすら直立し続ける翼の上半身のみ。

明らかに起こしが早すぎて、必死にアジャストする姿。 

これだけ放り続けたら、茅原の餌食か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171205170617j:plain

まず、そう思った。が、どんどんこちらに向かってくる

艇団を見て、私は驚くしかなかった。

翼が、茅原らを1艇身ほども引き離していたのだ。 

んな馬鹿な。あれほどアジャストし続けたのに、

なぜまだ、こんなに前にいる?? 

咄嗟の思考回路ではあったが、ふたつの選択肢が浮かんだ。

翼があまりにも早すぎたのか、他があまりにも遅すぎたのか。

そのどちらかしかないのだが、それは、どっちだ??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171205170638j:plain

圧倒的なアドバンテージを利して、

翼が1マークを難なく先取りした。

見た目には、圧巻の逃げきり。

だが、その直後の茅原のターンが、明確にそれを否定した。

茅原は、翼の航跡をなぞることなく、

3コースから握った西村に飛びつき、ブロックしたのだ。

つまり、1マークで翼の存在を無視した。 

やはり、そっちなのか!? バック中間、観衆が静まり返る。

翼が、外へ外へと寄れ、2マークに向かう気配がない。

「え、うそ、フライング??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171205170700j:plain

そんな声が、あちこちから漏れた。徳山の向こう正面には、

電光掲示板も巨大モニターもない。実況も聞こえなかった。

誰もが翼の後姿で、大惨事に気づいた。

半信半疑だった私も、その力ない後ろ姿で“正解”を知った。 

同時に、ある光景が私の脳みその全部を覆い尽くした。

 

まるで、同じ光景。新鋭王座の白いカポック、

1マークを回ってブッチギリの独走、艇団から離れていく後ろ姿。

守田俊介の背中。俊介を追っかけ続けていた私は、

あの前日、深夜バスで京都に行った。

寒い寒い早朝、京都から大津に向かい、

ただその瞬間だけを待ち続けた。そして、何年も待ちわびた光景に、

私はびわこの片隅で万歳した。わずか、10秒ほどの幸福だった。

後に残ったのは、哀しすぎる後ろ姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171205170717j:plain

今日のその後のレースを、私はほとんど見ていない。

ピットへと向かう翼の背中をぼんやり見つめ、

押し寄せるフラッシュバックをやり過ごすことができないでいた。

だからどうだ、とかいうこともなく、翼に涙するでもなく、

ただいきなりやってきたその状況に身動きがとれないでいた。

レースから2時間過ぎた今も、翼にかけるべき言葉が見出せない。

あのときも、そうだった。 まったく締まらない観戦記で申し訳ないが、

あれっきり思考がフリーズした今日の自分を、

ありのままお伝えしておく。と言うより、

何かを適切に表現すべき言葉がうまく見当たらない。

勝者に対してさえ。

 

 

(photos/シギー中尾、text/H)