BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――同期の絆。そして幸せな優勝。

 

 

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川北浩貴がスタートを決めた瞬間、

出走待機室のモニターで観戦していた深川真二と山崎智也が

ガッツポーズした。 逃げた! たしかにスリット隊形は

川北の逃げ切りを予感させるもの。

深川と山崎は同期の快挙を確信したのだ。

しかし……。 1マークで川北はずるりと流れてしまう。

その瞬間、深川は椅子から滑り落ちそうになった。

天を仰ぎ、信じられないという表情で無念をあらわす。

智也はがっくりとうなだれ、顔をゆがめてモニターに目を戻す。

何度見ても、川北は先頭にはいない。

それからの2周半ほどは深川と智也はただただ苦しそうな顔で

レースを見つめるのみで、二人とも現実を信じたくないといった

雰囲気だった。 ピットに戻ってきた川北に駆け寄ったのは、

まず深川である。智也は同じ関東地区の

濱野谷憲吾と山田哲也がいるので、

そちらのエンジン吊りに参加しなければならない。

深川はその後も川北に寄り添い続け、

モーターの返納作業をもヘルプしている。「ありがとう」。

川北は深川に礼を述べる。それは、返納を手伝ってくれてありがとう、

でもあっただろうが、もっとたくさんのありがとうもあったはずだ。

深川は2回ほどうなずいて、川北の肩を叩いて去る。

そこに智也があらわれて、川北の尻をポンと叩く。

川北は深川と智也に笑みを浮かべてから、整備室へと入っていった。 ふーっ。一人になったとき、川北はひとつ溜め息をついている。

そのとき、川北の脳裏を去来したものは果たして……。

その溜め息の借りは、同期への感謝は、次の機会に返せばいい。

月並みな言葉だが、川北は間違いなく今節の主役だった。

きっとまた、川北が主役となるSGは訪れるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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レース後の鎌田義は、吉川元浩や勝野竜司に明るい顔で接している。その場面だけ見れば、やるだけやった、という充実感と言えるのだろう。 優出メンバーのなかで、最後まで調整をしていたのは、

鎌田である。ペラ調整はもちろんだが、10R発売中にはギアケースを

外して整備室に駆け込んでいる。その調整が終わると、

屋外ペラ調整所で金属音を響かせる。

濱野谷憲吾もそのときペラを叩いていたが、濱野谷が作業を終えても、鎌田はまだペラを叩き続けていた。

10Rのエンジン吊りに参加した後、最後のひと叩き。

それからようやく鎌田は調整を終えて、着水の準備にかかっている。 松井繁に「きっちり自分の仕事をすること」と教えられた。

鎌田は師匠の言葉に忠実に、一日を仕事に費やした。

最後の最後まで。いちばん最後まで。そんな鎌田に、

松井は歩み寄って声をかけている。

さらに鎌田のプロペラゲージを片付けてもいた。

松井は弟子の頑張りを認めたのだろう。 やるだけやった。

たしかにそのとおりだ。実際、

その思いも鎌田のなかには生まれたと思う。 

ただ、付け加えたいのは、選手の輪から離れるや鎌田は、

眉間にシワを寄せていたということだ。

その後も他の選手から声をかけられると、

さっと明るい顔つきになるが、次の瞬間には険しい表情になっている。

敗れたことは、絶対に許せないことなのだ。 

今節、鎌田のことは何度か記した。

BOATBoyで連載してるからってえこひいきしてると

思われるかもしれないが、そうとも言えるし、そうでもないとも言える。

 

エンターテイナー・カマギーが、

実はプロの勝負師としての顔を持っていることを知ってほしかった。

負けず嫌いで真摯な鎌田義をお伝えしたかった。

優勝戦を終えたあとも、カマギーはカマギーだった。

きっと、次のSGでもそんなカマギーを見て、

僕は張り切って文字にするのだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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先ほど書いたように、濱野谷憲吾も

かなり遅くまで調整をしていた一人だ。

ペラ調整の時間だけなら、鎌田よりも長かった。

誰もいない屋外ペラ調整所の隅に陣取り、

ひたすらペラを叩いていた。6号艇と枠が遠くても、

濱野谷は勝利を諦めるつもりはまったくなかったのだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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山口剛も同様だった。山口は整備室奥のペラ調整所にいたので、

装着場で選手の動きを眺めているときには

なかなか視界に入ってきづらいのだけれど、

ふと覗き込めば彼の姿はそこにあった。

山口も、事故パンだろうと勝利を諦めるなんてことは

少しも考えていないのだった。  

 

 

二人とも、やるだけやった、ということにはなるのだろうか。

レース後はややサバサバした表情に見えた。

濱野谷は6コースながらも3着。

山口はこれで苦しい戦いを強いられた時期を終えた。

SGの優勝戦という最高峰の舞台をこうして戦い終えたことは、

まあ悪くない結末ということになるのだろうか。

もちろん、とことん調整を尽くして勝利だけを

追い求めた二人だからこそ、

悔恨は胸の内に渦巻いているはずだとも思う。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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山田哲也も、比較的サバサバとしていた一人だろうか。

川北を取り巻く同期生の姿について記したが、

山田には峰竜太が寄り添っていた。95期の同期生である。

レース前にも、峰が山田と肩を並べる姿は何度も見かけている。

同期の絆の心強さというのは、選手ならば誰でも感じていることだろう。峰はどちらかといえば、静かに山田に寄り添う感じだった。

すでにSG優勝戦を何度も経験している同期の心遣いを、

山田はどう感じたのだろうか。

 

 

さてさて、優勝は丸岡正典! 08年ダービー以来のSG制覇で、

2度目のVもやはりダービーだった。 

展示ピットにボートを係留し、待機室へと向かう丸岡が、

中尾カメラマンのレンズに気づいて、薄く笑みを浮かべた。

飄々とした様子に、「マルちゃんは変わらないねえ」なんて

中尾カメラマンとも話したのだが、なんとなんと、

今日は朝から緊張していたのだという。

「勝てるんじゃないかと思ってしまって」だそうだ。

でもマルちゃん、ピットで見ている限りでは、

ぜんぜんそんなふうに見えませんでしたよ。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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優勝会見ではギャグを連発して報道陣を

爆笑の渦に巻き込んでいたが、

それも決して優勝の高揚感がさせたものではないはずだ。

昨年のちょうど今頃、BOATBoyの主催で丸岡と森高一真のトークショーをやったときと何も変わってなかったもの。

人を楽しませるのが大好きで、しかもそれを飄々とやってのけてしまう。そんな丸岡だから、緊張していたとしても

なかなか感じ取ることはできないし、

意表をついて飛び出すギャグには大爆笑してしまうわけだ。 

というわけで、優勝後も歓喜をあらわしながらも、

どこか飄々としていた丸岡。これで出場確定となった

賞金王決定戦で優勝戦に乗って優勝まで果たしたら、

わかりやすく緊張して、わかりやすく歓喜を爆発させるのだろうか。 

ともあれ、会見で我々を笑わせて楽しそうにしている

マルちゃんを見ていたら、こちらも幸せな気分になってしまった。

この人の大活躍には、人を幸せにするパワーがあるのである。

 

 

 

 

 

(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)