いやはや、いい天気である。風は冷たいが、空は爽やか。
海の碧さがなんとも目に優しく映える。
こういうとき、児島ピットには最高の場所がある。
装着場のいちばん奥まで抜けた屋外。
ここは堤防になっており、常に日が差している。
そして目の前には瀬戸内の広大な海。
喫煙所があるのでちょろちょろ足を向けているのだが、
好天の日にはなんとも気持ちのいいスペースなのだ。
もちろん、それを選手もよく知っている。
僕が朝イチでさっそくそこに直行すると、
田村隆信が気持ちよさそうに日向ぼっこしていた。
そうですよねえ、今日みたいな日はここでのんびり、ですよねえ。
田村はこの場所の常連でもあって、
レースが近づくと海を見ながら精神統一をしている姿をよく見かける。戦略を練るなど、しみじみ物事を考えるには
絶好の場所なのだ。午後も晴れてたら、
ここでBOATBoyの企画でもじっくり考えることにしよう
……取材しなさいって? そりゃそうですね。
というわけで、この場所を離れて装着場に戻ると、
白井英治がモーター装着中だった。声をかけると、
なんとも清々しい表情。同時に、目つきが実に凛々しい。
精神状態の良さがうかがえる顔つきだ。そして、
集中力もピンと張られている。昨日のTOPICS記事にもあったとおり、ベスト12に残る確率は相当に高まってきているが、
それを知っていようがいまいが、決して安心することなく
勝負駆けに挑む心づもりのようだ。
うん、こういう白井英治は本当にカッコいいな。
カッコいいといえば、1Rの服部幸男に触れなければならないだろう。
5コースからの強烈なまくり差し!
ピットで見ていた報道陣から感嘆の声があがり、
ピットに響いたほどだった。日高逸子がまくり、
峰竜太がまくり差しに構えた瞬間、豪快な全速旋回で
両者の間を突き抜けていく。JLC解説者の青山登さんが
「二段まくり差しだよ!」と興奮するほどの鮮やかな一撃だった。
ピットに戻ってきた服部は、ヘルメットの奥では凛とした目つきのままだったが、ヘルメットを脱ぐとなんとも充実感あふれた穏やかな微笑を見せた。それは、会話をかわした渡邉英児の表情も
次第に柔らかくなっていくほど、気分の良さを発散する表情だった。
対戦した選手と言葉を交わすときにも表情は光っており、
う~ん、めちゃくちゃカッコいいぞ!
ちなみに青山さんは「幸男は今の髪型のほうが似合ってるな」と
おっしゃってました(笑)。それも含めて、
なんとも男前の服部幸男なのであった。
その1R後、5着に敗れた西島義則が
装着場を駆け抜ける姿を見た。とろとろと後を追いかけていくと、
西島は猛然と本体を外しており、
そのまま整備室に飛び込んでいった。
まずはその素早い動きに頭が下がる。本体を整備机に置くと、
やはり猛然と分解を始めている。どうやら大きな整備に
着手するようだ。ふと出走表に目をやると、
西島の次のレースは7R。
時間がほとんど残されていないではないか。
だからこその速攻劇だったわけだが、
もはや尊敬の念しか湧いてこない。時間が限られていても、
勝利を追い求めるためにできることはやる!
時間がかかることなら、普段以上の集中力と素早さで取りかかる。
その姿勢に感動したのだ。これぞプロ!
いっさいの甘えを排除して、ひたすらパワーアップをはかる
西島の姿こそ、カッコいいプロフェッショナルというものだろう。
さてさて、試運転を切り上げていったんピットにボートを上げた
井口佳典を、石川真二が待ち構えていた。
足合わせをしたのだろう。こうした姿は日常的に見られるものだ。
ただ、なんとなく石川が恐縮しているように見えるのはなぜだろう。
石川の姿を見つけた井口は、「すみません!
合わせ方がわかりませんでした」と笑った。
石川の旋回の軌道は独特だ。なんというか、
角度が他の選手と違うように見える。それもあって、
井口との足合わせは足合わせにならなかった?
石川の恐縮した感じは、それだろうか。しかし井口は自分が悪かったのだと先輩を気遣う。そして「またお願いします!」と
にこやかに頭を下げた。 二人の素敵な人柄が
垣間見えたように思える一幕だった。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)