優出共同会見。田口節子は今日も
ネガティブな言葉ばかりを口にした。
今節はひたすら機力不足を嘆き、会見には
不機嫌な様子であらわれた。
一刻も早くこの場を立ち去りたいという態度もあった。
それは、4号艇で2着をもぎ取り、
優勝戦1号艇を手にして初代クィーンに王手をかけた今日も
変わらない。「今の気持ち?……………………あまりないです」
「なんで1号艇なのかわかりません。勝てる人もいなかったし」
「(明日の意気込みを)えーっ!…………………
怖すぎて、明日にならなければいいいのに……」
「今、デビューしてから一番というくらい、自分に自信がないです」
これがポールポジションを手にした人の言葉だろうか。
あの田口節子の言葉だろうか。
12R2着でピットに戻ってきたとき、
ヘルメットを脱ぐと寺田千恵が顔を指さして笑った。
「どうしたのよ~!」。どうやら涙を流していたようなのだ
(視認できず)。寺田は「泣け泣け泣け~」とはやし立てており、
そのとき田口はホッとしたような笑顔を見せていた。
そう、田口はちゃんとこの状況に安堵し、
喜びも抱いているはずなのだ。「ほんと、贅沢~」と、
次点で優出を逃した寺田は言う。
その後、控室に戻りながら寺田はガックリと肩を落としており
(12Rの結果で順位決定戦回りを認識していたのだろう)、
これは敗者としては当然の姿である。
だが、なぜ田口は会見であんなにも表情を硬くし、
弱気な言葉ばかりを吐いたのか。
あくまで僕の感覚と断わっておく。
田口は本気で、初代クィーンの座に就くことをノルマとして
大村に来たのではなかったか。獲りたいというより、
獲らねばならないという思い。賞金トップで乗り込んだ分、
プレッシャーも大きかっただろうし、
ここまでにさまざまな取材やイベントに忙殺されたことだろう。
ところが、モーターの感触は良くなかった。
それがさらに田口の心を暗くした。
実は、今日は足は良かった、という。
他の選手からは「田口さんも良くなってきている」という証言も
出ていた。さらに、「乗り心地だけは最初から来ていた」とも言う。
それでもここまで泣き言を口にするのは、
「ノルマを果たすだけの絶対的な裏付けをまだ得ていないだけ」
ではないのかと思うのだ。
たぶん、実際には間違いなく戦える状態にはある。
なんたってオール2連対のトライアル1位ではないか。
つまり、田口は誰よりも強い思いで、
この賞金女王決定戦に臨んでいる! だとするなら、
それが1号艇でなかったとしても、初代クィーンにもっとも近く、
そしてもっともふさわしいのは田口節子しかいない。
もう一人、初代クィーンを本気で獲りに来ていたのは、
横西奏恵だったと思う。いや、もちろん全員が本気。
出るだけなんて選手がいるわけはないが、
あたかもノルマのような気持ちで、というなら、
やはり横西だったと思うのだ。 12Rは3着。
得点的に言うなら、19点に3人が並ぶことになっている。
想定ボーダーからすれば2着条件。
しかし、1点差だった山川美由紀に先着し、
横西にとってはかすかな望みをつなぐ3着であっただろう。
だが、上位着順差で横西は優勝戦に届いていなかった。
報道陣がそれを他の選手に告げているとき、
「どうなってますか?」と横西がカポックを着たまま
その輪に割り込んできた。その場にいた人たちは、
残った6人に横西の名前がないことを知っている。
一瞬、空気がズンと沈んだ。 横西がそのことを確認する。
瞬間、顔が音を立ててひきつった。
敗戦後の横西が表情を硬くしているのは何度か見ている。
しかし、ここまでの顔は記憶にない。
信じたくないことが起こった。そんな表情の横西は初めて見た。
今夜、横西はどんな思いで、長い夜を過ごすのだろう……。
田口以外の優出者について、
「ゴキゲンさん」は角ひとみ、山川美由紀。
角はとにかくニコニコとしていて、実にかわいらしい。
メモを読み返したら、「角ゴキゲン」とべつべつに
3回も記されているほど、その様子が印象に残ったのだ。
山川については、「横西さんの後ろを走ったらダメだと思っていた」と
いうことで、横西を前に見ての4着で優出を諦めていたようだ。
ところが、ピットに戻ってくると「おめでとうございます」
だから、そこから気持ちがウキウキ!
「今節は今がいちばん楽しいですね!」と
顔をほころばせる山川も、なんとも素敵だぞ!
ただ、足は相変わらずいまひとつということで、
明日も整備を考えている様子。
ということは、朝一番で目に飛び込んでくる選手は、
この人で決まりだ。
香川素子は、11R2着の時点では当確が出ていなかったから、
ヤキモキしながら12Rを見たことになる。
そして、自分の優出を確認すると同時に、
仲のよい横西の優出漏れをも見たわけだから、
複雑な部分もあったか。香川の課題は「乗り心地」とのこと。
明日はここを向上させるべく奮闘する一日になる。
足はいいそうだから、もし調整がうまくいけば……怖いぞ。
誰もが「出ている」と節イチにあげているのが、三浦永理だ。
彼女自身は「みんな出してきて、差は小さくなってきた」と言うが、
一緒に走っている選手の感覚が「三浦さんにはやられる」なのだから、パワーに関しては不安はないだろう。
11R3着の時点で当確を出し、しかしその段階では枠番は未定。
「枠はどこでもいいです」とハッキリと口にしたのは心強く、
それだけ足に自信があることのあらわれではないかと思う。
で、なぜかちょっとだけ不機嫌な様子に見えたのは、日高逸子である。優勝戦は2号艇。悪くない枠番なのだが、
やはり1号艇を狙っていたわけだ。
なにしろ「パワーはこの中では劣勢」だから、
いかに「2号艇は好きです」であっても、
少しでも好条件が欲しかったところだろう。
それでも、会見ではこんな言葉も口にした。
「イン逃げしかないからつまらないですよね(笑)。
2コースから勝ちます」 そう、トライアルはオール逃げ切り。
これもなかなか珍しいことだが、
たしかに単調だったと言われても仕方ないだろう。
ならば風穴は私が開ける!
日高の言葉はその宣言だったと解釈させてもらおう。
グレートマザーの闘志に期待!
(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)