光艇サプライズ
11R 進入順
①太田和美 16
②瓜生正義 15
③馬袋義則 19
⑤今垣光太郎 20
④峰 竜太 13
⑥白井英治14
地元の太田和美が逃げた。
峰竜太がスリットから勢いよく飛び出してはいたが、
5コースでは届かない。
走り慣れた1マークを冷静に過不足なくターンして、
申し分のない逃げを決めた。
この航跡は、誰もが脳内で描いたそれと
一致したことだろう。
このレースで観衆にサプライズを与えたのは、
やはり今垣光太郎だった。まずは待機行動。
ピットアウトで、いきなり1艇身抜け出した。
どこをどう調整するのか、この男にはこれがある。
スーパーピット離れで、たちまち2号艇の瓜生正義まで
呑み込む勢いだ。
が、ここで逆にガリガリ行かないのも光太郎流。
そこからスッと減速し、瓜生と馬袋義則を気前良く招き入れて、
自身は4コースから艇を翻した。
阿波勝哉などの例外を除いて「ひとつでも内へ」が
一流選手の共通語になった現在、
こんな待機行動は極めて珍しい。
今垣は(おそらく)4カドを狙っていた。
内へ内へ、ではなく、
自分が勝てるコースから行くと決めた。
このボート界随一の大舞台であっても。
「カド取り名人」なる存在が多数いた昔ならともかく、
現在のボート界では、
やはり超レアな個性派レーサーだ。
私は改めてこの男の斬新さ、ユニークさを再認識した。
サプライズは続く。
太田が逃げ、瓜生が差し、
今垣が3番手に付けたバック直線。
太田や瓜生の力量を加味すれば、
この隊列はおいそれとは変わらないように見えた。
むしろ、徐々に縦長になっていきそうな“景色”だった。
こういう直感は、SGの最高レベルでは
ほとんど間違えないとしたものだが、
今日の“景色”は劇的に変わった。
内から今垣がぐんぐん伸びて、
瓜生よりも先に2マークに到達した。
マイシロのないターンを見た瓜生が、
すかさず外に開いて差しハンドルを入れる。
だが、それが届かない。あっという間に景色が逆転した。
実況アナも、今垣のただならぬ実戦足を、
驚きの声色で伝えた。
これが、今の住之江が誇る34号機だ、と言わんばかりに。
このレースの主役は、太田和美で文句なし。
そして、演出家は水上の魔術師・今垣光太郎だった。
やはり、この神出鬼没の個性派がいる賞金王は、面白い。
絶品バトル
12R 進入順
①井口佳典 19
②松井 繁 19
③丸岡正典 24
⑥山崎智也 29
④平尾崇典 24
⑤坪井康晴 27
公開モーター抽選の選手インタビュー。
松井繁「絶品差しで行きます」
丸岡正典「だったら僕は、絶品まくり」
井口佳典「絶品逃げをするので大丈夫」
平尾崇典「絶品まくり差しで展開を突き抜けます」 こ
の絶妙のやり取りで会場は大いに盛り上がったが、
もちろん、4人の絶品攻撃が
すべて成功することはありえない。
少なくとも、3人の“絶品”が不発に終わる。
多くの人々が支持したのが、井口の絶品逃げだった。
穴党の私も支持した。
それくらい、昨日からの井口の足は盤石に見えた。
が、本番の井口のインコースは、
絶品逃げには遠く及ばないものだった。
この失敗の原因を、正確に検証するのは難しい。
1マーク手前、まずは同期の丸岡が絶品まくりを狙った。
松井の陰からいきなり襲い掛かる、
3コース特有の「見えない全速ツケマイ」だ。
井口は、この見えなかったはずの
丸岡のツケマイに飛びついた。
本当に、飛びついたのか。
その判断が、難しい。
だとすれば、丸岡の性格と戦法を知り尽くしている井口が、
「絶対にマルは捨て身で握ってくる」と確信していて、
それだけを警戒して強引に握ったことになる。
井口の先マイは、ターンマークを軽く2艇身は外していた。
松井に「差してください」と言わんばかりの
オーバーターンだった。インが鬼のように強い水面で、
そこまで丸岡のまくりを意識する必要があったか。
単に、肩に力が入りすぎ、
握りすぎてしまったのではないか。
現時点の私には、その真相はわからない。
とにかく、師走恒例?の“銀河競り”が今年も盛大に行われ、
その瞬間に絶品逃げも絶品まくりも消え去った。
王者・松井の航跡だけが、真っ直ぐに水を噛んでいた。
実質的には“ごっつあん差し”のような展開ではあったが、
その見た目の華々しさは“絶品差し”と呼ぶに相応しい。
「賞金王を獲るには、機力・気力・テクニックだけでなく、
相応の運も必要」 多くのスター選手の常套句を肯定するなら、
王者が4度目の賞金王にググッと近づいた。
そう予感させる絶品差しだった。