勝負駆けの朝というのは意外に静かなものだが、
賞金王シリーズでもそれは変わらない。
決定戦組は調整のピッチが上がる日であるが、
全体の5分の4がシリーズ組なのだから、
朝の空気を支配するのはやはりこちらだ。
雨模様となって湿度がグンと上昇したため、
さすがにペラ調整室は満員となっているが、
逆に装着場は閑散としていて、穏やかなムード。
そんななかで精力的に動いているのは石野貴之で、
だからこそその様子は目立っていた。
装着場をうろうろしている5分ほどの間に4回ほど
石野とすれ違って、選手との接触はそれだけだった、
なんてこともあった。それほどまでに、
石野はペラ室や整備室や係留所を行き来していたという
次第である。表情は実に凛々しい。
何度もすれ違ったといえば、金子龍介も同様。
こちらはなんとも柔らかい表情で、
こちらの顔を見るや笑顔を向けてきた。
金子は石野と同じ4R出走。その準備を進めるべく、
調整を急ピッチでしているというわけだ。
静かなピットに突如、轟音が響く。服部幸男だ。
いつの間にか、係留所につけていたボートに
乗り込んでいた服部が、エンジンを始動したのだ。
すでに試運転タイムは終わっていたので、
水面には出ていかず、係留したままエンジンを噴かしている。
回転の確認だろう。回転計を使わないという服部は、
エンジン音にじっと耳をすまし、
レバーを握ったり放ったりしている。
ペラを叩くときの表情も哲人。
回転チェックの表情も哲人。
服部を見ていると、それがどんな仕草であれ、
唸らされてしまう。
1Rが終わり、2Rの展示が始まると、
動き出す選手も多くなった。
ペラ室からボートに駆けて向かう川北浩貴とは
正面衝突しそうになり、
お詫びしたあとはそそくさと隅っこに退避して反省。
川北は笑顔で許してくれたけど……。
川北は速攻で水面に飛び出していき、足合わせ。
いったん係留所に戻ると、
ボートを降りてふたたび猛ダッシュ!
向かった先は日高逸子のもとで、
足合わせの感触を確かめあっていたようだ。
この川北のダッシュが契機になったわけではないが、
ピットは徐々に賑わいを増していった。
本体整備をしていた魚谷智之もボートにモーターを装着して、
即座に水面へ。僕の顔を見て、
さわやかに「おはようっす!」と言いながら、
試運転へと向かったのだった。さ
あ、シリーズ戦勝負駆けが熱気を帯びてきたぞ!
(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)