BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――運命の時

 

 

まず、無念の涙を飲んだ戦士たちから。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124258j:plain

もっとも落胆が大きく見えたのは、今垣光太郎だっただろうか。

あのピット離れで、まさか6コース単騎になろうとは。

それでも攻めて、道中も粘って、

なんとか優出圏内に潜り込もうと死力を尽くしたが、

攻めが流れて万事休す。

向こう1年間、表舞台に登場する機会が激減することが

ほぼ確定してしまった。

一縷の望みを求めて、

朝から徹底的に作業を続けた今垣。

12R組で作業を最後に終えたのがまさに今垣で、

ということは今日1日もっとも根を詰めていたのが

今垣光太郎ということになる。そ

れが実を結ばなかったことは、

今垣の心に重い石を埋め込んだに違いない。

レース後の様子を見てしまえば、

声をかけたりすることもちょっとためらわれた。  

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124310j:plain

白井英治は、たそがれた表情を見せていた。

終わった……そんな心の声が聞こえてきそうな表情。

3着で20点、これでは届かないことはわかっていただろう。

すでに優出漏れを覚悟しきっているような、

だからこそせつない顔つきなのだった。  

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124323j:plain

不完全燃焼で

トライアルを終えてしまった選手がいるとすれば、

坪井康晴だろう。11R3周1マークでまさかの転覆。

結果論だが、11R3着なら

優勝戦に進出していた(山崎智也が6番手を走り続けたとして。

だが、坪井の転覆がなかったら、順位に変動はなかったのではないか)。

坪井は馬袋義則と3番手を争っていたのだ。

競り勝っていれば、

優勝戦のピットが手中に入っていたはずなのだった。 

転覆整備をしながら、坪井の表情は当然、晴れない。

身体に関しては、問題なく歩いてはいるが、

打撲はあったそうだ。

おそらくカウリングに足を打ったのではないか、ということ。

だが、軽傷で済んだ体の傷より、

心の傷は深くて重い。転覆整備を終えると、

坪井はやるせない表情で控室へと戻っている。

明日はこのリベンジを!

……などと気軽には言えそうにない、

寂しい後ろ姿であった。

 

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124337j:plain

坪井の転覆は、山崎智也にツキをもたらした。

3番手争いの後方を走っていたのは智也と峰竜太。

智也は6番手だったが、

この事故によって進路がふさがっている間に、

峰を抜いて一気に順位を2つ上げたのだ。

事故によるものだけに心から喜ぶことはできないが、

しかしラッキーはラッキー。

智也の顔も次第にほころんでいく。

「神様がドラマティックな結末を求めているのなら、

僕が優勝すると思います」 

横西奏恵の引退発表が今節初日。

当然、智也にも注目が集まり、智也自身、

横西の思いも背負ってトライアルを戦った。

第2戦では6年ぶりの賞金王1着が出て、

ラストラウンドではアンビリーバブルな逆転劇。

たしかに、智也のVは

最高にドラマティックな幕切れを演出することだろう。

それを引き寄せるのは、

もちろん智也の自力にほかならない。

4号艇という枠番も妙に気になるところである。  

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124401j:plain

別にラッキーでも何でもないのに、

そんな表情を見せていたのは瓜生正義。

12R4着では優出がかなわないと思い込んでいたらしいのだ。

22点なのに? ちょっと???だったりもしたが、

究極の好青年は

自分をかなり低く見積もったりもしているので、

まあそういうことなのだろう。

あるいは、好枠でなければ意味がないと思っていたため、

細かい計算をしていなかったとか? 

だとするなら、まさしく強者である。

このへん、本人に聞いても

「本当にダメだと思った」で終わると思われるので、

これくらいで止めておこう。 

好青年ぶりは会見でも見られた。

シリーズ戦の1号艇が、後輩の篠崎元志である。

「篠崎くんが優勝すれば、いい流れで僕に…………

いや、プレッシャーかけてしまいますね(笑)。

一生懸命頑張ってくれれば、僕も一生懸命頑張れると思います」 

今頃宿舎で「福岡でW優勝だ! 

元志が優勝して、瓜生さんにつなげろ!」とか

岡崎恭裕あたりに言われているような気もするのだけれど(笑)、

瓜生は後輩を気遣い、いらぬプレッシャーを排除しようとする。

こんなにも優しくて、どうしてこんなに強いんでしょうか、瓜生正義は。

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124414j:plain

一方、11R後に「おそらく大丈夫!」と聞かされたのに、

実は優出が確定ではなかったのは平尾崇典だ。

平尾は2着で22点にポイントアップ、

想定されるボーダー=21点を上回ったのだから、

誰もが直感で「平尾も当確」と考えたと思う。

平尾はレース直後には、嬉しそうに目を細めて、

小さくガッツポーズもしている。

しかし、12Rの結果次第では、

次点に終わる可能性があった。たとえば、

12Rが②-①-④で決まった場合など。

けっこうありそうな目だったわけで、

平尾は一転して崖っぷちで待たされる身になったわけである。 

結果、平尾は6番目で当確! 

平尾が見せたのは、喜びというよりは安堵であった。

そりゃそうか。

もちろん、11R後の歓喜がその後に

ふたたび蘇ってはきているだろう。

賞金王初出場で初優出。

無欲で臨める6号艇で、大きな喜びを胸に戦う平尾。

実は6コース成績がいいアウト巧者なだけに、

怖い存在という気もする。

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124426j:plain

12R、思いもよらぬ進入をものともせず、

太田和美が逃げ切った。

今年、1年を通して大きな波もなく

高いレベルで活躍し続けた“2012年の顔”が、

「正直ちょっと足は弱い」という機力差を跳ねのけて、

優勝戦に進出した。太田は言う。

「ここまできたらアシ云々の問題ではない」 

この言葉は実に頼もしいものであり、

同時に賞金王決定戦が機力だけで決するような

甘い舞台ではないということを表現したものでもある。

明日は当然、その弱い部分を克服するべく

作業に集中する一日になるだろうが、

それ以上に太田に覚悟のようなものが

備わっているのが心強いのだ。  

 

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124442j:plain

一方で、井口佳典は「仕上がりは完璧です。

はい、完璧です。全部のアシがいいです。◎です。全部いいです」と

同じ単語を繰り返し使いながら、力強く言い切って見せた。

もちろん、井口もアシだけで

賞金王を勝てるなどとは思っていまい。

だが、もちろん機力は技術とメンタルを後押しする。

そして、ここがおそらく重要なのだが、

井口は強く言い切ることで

状況を劇的に自分向きに

引き寄せようとしているのだろう。

ビッグマウスは井口の持ち味。

時間が合う方は、明日の公開インタビュー(朝にあります)を

お楽しみに!

 

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206124458j:plain

さて、優勝戦1号艇を手に入れたのは、松井繁である。

とにかくもう、「今日の松井は真の王者だった」以外に

書くべき言葉が見つからない。

いや、「今日も」だろうか。

今節の松井はとにかく強烈。

アシも節イチ級の仕上がりとなり、

メンタルも完全に仕上がって、

醸し出す雰囲気も強烈に仕上がっている。

10R発売中に、

ペラ室では服部幸男とのツーショットが目撃されたが、

神々しすぎて長く直視できないほど。

これは間違いなく、過去のSG優勝戦1号艇での松井繁と

寸分たがわぬものである。 

明日もきっと、僕は松井繁を目で追い、

でも発散するものにおののき、

う~んとか唸るのだろう。

明日の松井繁は、その存在そのものが、

極上のエンターテインメントである。

 

 

(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)