BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――意義ある勝利

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 ボートリフトから拍手が巻き起こる。目を向けると、日高逸子をはじめとする福岡勢が笑顔とともに手を叩いていた。 篠崎元志が先頭に立った!

 深い進入。2、3コースがヘコみ気味のスタート。4カドから伸びてくる池田浩二。篠崎自身「浩二さんにまくられると思った」というほどに、隊形は篠崎絶体絶命と見えていた。だが、「レバーを落とさず回りました」という豪快な全速逃げは、ピットで見ている者をも唸らせ、歓喜の声をあげるよりも拍手をしてしまうほどに華やかなものだった。

 ボートリフトの最前列で出迎えたのは、やはり盟友・岡崎恭裕。岡崎が突き出した左手に、篠崎は万感を込めてハイタッチをした。笑顔の輪が広がる。中心で篠崎は達成感あふれる表情で祝福に応える。

 新たなSG覇者の誕生は、なんともハッピーな空間をその場に生み出していた。

 

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 もちろん敗者たちは、まったく違う表情を見せている。池田浩二はヘルメットを脱いだ瞬間、「ウゲッッッッ……気持ち悪!」とえづいている。それが果たして悔しさの表現だったのか、実際に吐き気をもよおしたのかどうかは謎のままだが、もし勝っていたならそんな身体反応は起こっていないだろう。昨年の賞金王覇者として、ここは是が非でも勝っておかねばならなかった。そのプライドが満たされなかったことが、池田に変調をもたらしたとしか思えない。

 

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 石野貴之は、がっくりとうなだれて溜め息をついていた。6コースではチャンスがないと思うので、と言いながら、6コースになってしまったこともまた、悔しさを増幅する材料だったか。スタート展示では抵抗の意思を見せてはいたが、本番で前付けを許してしまったのでは意味がない。いや、外野からはそうとはまったく思えないのだが、本人としてはそうした気分があるだろう。もちろん、シンガリに敗れたこと自体も、石野の心に闇を負わせたに違いない。  

 

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 石渡鉄兵は、ヘルメットの奥に苦い表情を作っていた。柔和な性格で、声をかければ丁重に接してくれる鉄兵が、恐ろしいまでの険しい目つき。スタートでやや後手を踏んだことも悔いを残しただろうし、池田のまくりの止め役で終わってしまったことも無念であっただろう。ヘルメットを脱ぐと、カタい表情ながらもいつもの石渡鉄兵の顔に戻っていたが、その分、心に沈み込んでいく悔恨は大きかったはずだ。  

 

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 西島義則が厳しい表情で敗戦を受け止めていたのは、ある意味、想定内である。安芸の闘将が、敗戦後に穏やかな表情を見せるはずがないからだ。カポックを脱ぎながら、池田とレースを振り返る際には笑顔が見えてもいたが、ハッキリと頬がひきつり、目は笑っていなかった。  

 

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 そんななかで、わりと穏やかな雰囲気だったのは、湯川浩司だった。2着だから良し、などと思っているはずがないが、モーター返納に向かう際にも仲間に笑顔を見せていたし、返納時は丸岡正典とにこやかに話しながら、作業をしていた。ただし……返納を終えて整備室を出る際には、ふっと落胆が浮かぶ表情にもなっている。ひっきりなしにねぎらいの声がかかり、また穏やかな顔つきに戻ったりもしていたが、もちろん苦い思いはあっただろう。

 

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 篠崎は、会見でこう語っている。

「ここで勝っておかなければ、自分のこれからが変わってくるだろうと思っていた」

 この言葉はなかなかに含蓄が深い。1号艇だからきっちりモノにしておかなければならない、というのは当然だ。同時に、これがシリーズ戦であるということへの意識もある。だからといって、SG初戴冠の喜びも大きい。会見の席に着く際には、やり遂げた、というふうに天を仰いで息をつく場面もあったのだ。とはいえ……

「来年は、12人に残れるよう頑張りたい。そして、毎年出られるような選手になりたい」

 行き着くところは、この結論だ。今日の勝利は大きな喜びとして捉えながら、これが単なる通過点であることも認識している。いずれにしても、この経験が篠崎にとって重大なステップボードとなったことは間違いないだろう。 

 

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 ともあれ、おめでとうSG初制覇! 当然これがあります。水神祭!

 決定戦を控えている瓜生正義以外の福岡勢や、同期の平本真之、新田雄史が参加した水神祭では、やっぱりというか何というか、岡崎、平本、新田がともに水面へと飛び込んでいる。というか、岡崎、ちょっとフライング気味? 篠崎より先に飛び込んだようにも見えたが、写真判定ではタッチの差で篠崎が先に水面についてました(笑)。

 今節、水神祭を経験している山地正樹が「ハンパじゃないっすよ!」とその寒さを強調していたが、篠崎は喜びのほうが勝っているのか、涼しい顔で喜びをあらわしている。SG初制覇はクリスマス寒波をもぶっ飛ばす!  

 

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 余談だが、平本が「同期がやりましたよ!」と喜んでいたので、「次は君だ!」とあおると、平本は当然と言わんばかりに自らの胸を叩いて、決意を示した。そう、篠崎のVは艇界にとっても意義深いもの。これに刺激を受けた同世代のニュースターたちが、さらに燃えるはずだからだ。おめでとう、篠崎元志。同世代の先頭に立って、ボートレース界を変えていくのは君の仕事だ!

(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)