BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――真の偉人

 3年前の名人戦を優勝した西島義則が、表彰式だったか記者会見だったかでこんなことを言っていた。

「名人戦のピットを若いヤツに見せたい。先輩たちは本当に仕事が早くて、誰ものんびりしていない。加藤さんとか、本当にすごいですよ」

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 1R、惜しくも5着に終わった加藤峻二。レース後、休憩する間もなく、速攻でギアケースを外した。そしてシャキシャキとした足取りで整備室へ。もちろん2R発売中のことである。

 今日、加藤は1R1回乗りである。別に急いで整備しなくてはならない理由はないのである。レース後はゆっくりとしたっていいんだし、小一時間くらい休んでから作業を始めてもいいのである。しかし、加藤峻二はそうはしない。結果に、機力に納得がいかなければ、即座に解決をはからねば気が済まないのだ。

 史上最年長優勝も、今もまだ名人戦で戦えるのも、ただの偉業ではない。こうした姿勢で積み重ねてきたものがあるから成し遂げられた、真の偉業である。

 

 もちろん、そうした動きを見せているのは峻ちゃんだけではない。誰もが勝利を追い求めて懸命に作業をし、枯れることなき勝負師魂を見せつけている。

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 加藤の姿勢に感心していた西島義則自身も、ドリーム戦インタビュー後には即座にギアケース調整を始めて、2R発売中にはふたたび装着している。なにしろ西島は昨日いきなり本体を割っており、「かなり良くなっている」(ドリームインタビュー)というのだ。西島自身が、大先輩たちの魂を受け継ぎ、実践しているのだ。

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 整備室で本体をバラしていたのは吉田稔。今日の出番は7R、試運転の時間なども考えれば、決して豊富に時間が残されているとは言えない。だから、朝から本体を割る。とことん相棒と向き合う。30年以上もこうした日々を送ってきて、きっと吉田にとっては特別なことではあるまい。名人戦とは年輪を重ねてきた匠たちの技の祭典とも言われるわけだが、技とは決して水面だけの話ではない。そして、技には彼らの魂が込められていて、それを見逃してはならない。

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 ペラ室は満員御礼で、ドリーム組もインタビュー後にさっそくトンカンと木槌を振るっている。入口のいちばん近くに今村暢孝の姿が。西島に「新参者は外からでしょ」と牽制され、「6コースから行きます」と苦笑しながら言っていた(言わされていた?)暢さんがやけにかわいく見えたものだが、ペラと向き合う表情はSGなどでもおなじみの必殺仕事人。今日のエキシビションでは同県同期の植木通彦さんがOBとして走り、ドリーム戦では暢さんが新人として走る……ってのがなかなか不思議な構図であるが、ペラを見つめる姿はどう見たって百戦錬磨の職人だ。

 

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 さて、開会式で選手宣誓を行ない、自身を「永遠の38歳」と紹介した高橋淳美。充分通用します、38歳で。というか、永遠の28歳くらい言っちゃってもよかったと思いますよ、艇界のアッちゃんなんだから。あ、そうか、井川さんの選手紹介のコメント、高橋アッちゃんに言ってほしかったっすね。

 それはさておき。2R、高橋はまず金子良昭との2番手争いとなり、金子に先行されると北川敏弘との3番手争いを演じている。北川にもいったんは前に出られたが、3周1マークでの激競り合いを制して3番手確保。その走りは、28歳の若々しさと38歳の荒々しさと48歳の巧みさを兼ね備えていた。

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びわこピットのカポック脱ぎ場は、装着場の片隅にあって、丸見え状態。そこで高橋、金子、北川が感想戦を行なっており、爽快な笑顔や悔しげな眉間のしわなどが飛び交っていて、見ていてなかなか楽しいものであった。アッちゃんは、金子には悔しそうな苦笑、北川には申し訳なさそうな苦笑と、勝敗に応じて表情をコロコロと変えていた。そんなアッちゃんに最後は金子も北川もニッコリ。アッちゃん、あなたは名人戦のスーパーアイドルだ!(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)