BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――3つのペラ調整所

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 これまで福岡SGのたびに書いてきたことだが、福岡のピットにはプロペラ調整所が3カ所ある。まず、装着場の一隅にある、“屋外調整所”。ここは、ピット取材していれば終始視界の片隅に入っているので、ここを使用する選手の姿はほとんど風景の一部のように目にすることになる。松井繁、服部幸男ら大御所がここにおり、また井口佳典、田村隆信、湯川浩司らの銀河系軍団もここでペラを叩く。岡崎恭裕、篠崎元志、峰竜太ら九州ヤングライオンズもここにおり、ということは瓜生正義も見かけたりする。

 

 

 

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 整備室入口を入ってすぐのところにも調整所がある。ここはテーブルがあるだけの狭いスペースで、ペラ叩きも立ち仕事になっていることが多い。田中信一郎、太田和美をここでよく見かけ、坪井康晴の姿もここにある。この場所も、装着場からガラス越しにではあるが見える場所なので、選手の姿を確認しやすい。また、整備室入口の脇にJLCのモニターがあり、ここをレース観戦場所にすることも多いので、なおさらペラ叩き中の選手は視界に飛び込みやすい。

 もう1カ所、整備室の奥にある部屋も、プロペラ調整所として使われている。ここが厄介だ。整備室の外から見ると、どうやらそれなりに広さのある部屋らしいのだが、死角も非常に多いのである。また、先述のとおり奥のほうにあるので、たとえば整備室を覗き込んだだけでは視界から漏れることも多い。「奥のペラ室に誰がいるかな~?」と意識して注目しなければ、選手の姿を見落としてしまうのだ。ということは、ここを使用している選手の姿は、必然的に見かける回数が少なくなる、のである。

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 それでも、その入り口あたりに陣取っている重成一人は、比較的見落とすことの少ない選手である。今朝も、エンジン吊り以外の時間の大半をここで過ごしており、遠目にも鋭い目つきでペラを見つめている様子が伝わってくる。今朝は、数十cm置いて隣に、白井英治がいることに気づいた。80期同期生の二人が、時に談笑しながら、ペラを叩いていたのだ。今節、実は白井の姿を見かける機会が少ないなあ、と漠然と思っていた。なるほど、ここにいましたか。ちなみに、見えていたのは顔だけで、身体のほとんどは死角に入っていた。

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 さらに、重成の後ろのほうに中島孝平も発見。ピットでの様子は常に物静かという印象だが、ここでもやはり黙々とペラ調整に励んでいた。あと、平尾崇典や茅原悠紀の岡山勢もここにいることが多い。実は平尾のペラ叩きの様子はほとんど見えないのだが、今朝ここに入っていく姿を目撃したのだ。茅原については、目立つ金髪がこれまでにも何度か目に飛び込んできている。

 ま、どこでペラを叩こうが、選手たちが勝利を目指して真剣に作業をしていることには変わりがない。まして、予選道中の正念場ともなる3日目ともなれば、どのペラ調整所も実に人口密度が高くなっていて、選手たちの闘志がそこに渦巻いているというわけだ。

 

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 そう、予選3日目というのは、そろそろ先行きが輪郭を伴いつつある一日である。1Rで1着を獲った服部幸男は、レース後こそ淡々とふるまっていたが、勝利者インタビューを受けるころには柔らかく引き締まった微笑を浮かべたりしていた。今日1回乗りの服部、もし6着だったら明日の勝負駆けがどえらく厳しいものになってくる。しかし1着となったことで、予選突破へのメドが立ってきた。その差は実に大きい。準優進出への天王山はもちろん4日目だが、3日目もかなり重要な一日なのである。

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 そうしたなかで、予選突破が絶望的になってしまう選手も出てくる。鎌田義は1R1号艇を活かせなかった。さすがにレース後の表情は暗澹としている。開会式のカマギーしか知らない方なら、同一人物とは思えないのではないかというほど、厳しい顔つきでピットに上がってきている。勝負師カマギーは、敗戦を全力で悔しがるのだ。

 それでも、松井繁が歩み寄って、手をボートに見立ててのアドバイスを送り始めると、カマギーの表情もやや和らいでいった。うなずきながら師匠の言葉に耳を傾け、次への足掛かりを見つけようとしていたのだろう。もちろん、このままで終わらせるつもりはまるでないのだ。

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 同じ1Rでシンガリに敗れた平山智加も、落胆がはっきり伝わってくる表情だった。思うように上向いてくれない相棒のパワーに、愕然とした部分もあったかもしれない。スタート遅れを悔いてもいただろう。

 2R前、たまたま平山とすれ違った。うつむき加減で歩く様子に声をかけるのもためらわれたのだが、とりあえず挨拶を交わしてみると、平山はニコリ。しかし、それがどう見ても、作った笑顔なのだから、平山の心中が察せられた。ニコリとしただけで、言葉がひとつも出てこなかったあたりもまた、暗鬱な気持ちを反映していたと言えるだろう。後半9R後には、少しでも気持ちが晴れてくれればいいのだが。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)