BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――駿府の哲人

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 11R3着。無事故完走で予選突破を決めていた服部幸男だったが、舟券絡みなら悪くない結果のはずで、得点率も7・00で予選を終了している。しかし、服部はそんなことではまったく満足していないのだった。

 勝負服とカポックを脱いだ服部は、モーターからプロペラを外してペラ調整所に直行したのだ。もちろんこのあとにレースは控えていない。帰宿バスの第1便は10R終了後に出ているから、12R終了後までレース場に残ることも決まっている。ならば、何もペラ調整ジョに直行する必要はない。いったん控室に戻り、一服などし、着替えも済ませてからペラ叩きに向かう時間は充分にあったはずなのである。

 それでも服部は、ペラ叩きを急いだ。レースで気になった部分があったのだろう、それをすぐさまチェックし、解決させなければ気が済まなかったのだ。レース直後であり、着替えも済ませていないわけだから、ペラを叩きながらも汗が落ちる。袖口で拭い、またペラを叩く。汗はまだ止まらない……それを数分も繰り返していた。汗だくでペラを叩き続ける哲人――服部がいまだ一線で戦える原動力は、間違いなくこの姿勢にある。

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 その隣では、菊地孝平もペラを叩いていた。予選落ちを喫してしまったが、もちろん明日の勝負をひとつも捨ててはいない。なにしろ、今日は1Rと6Rの2回乗り。1便バスで宿舎に帰ったって、ぜんぜんかまわないのだ。しかし、菊地は最後の最後までペラを叩いた。このままでは終われないという思いが、強く伝わってくる。

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 ちょうどその頃のことだ。水面にエンジン音が響き渡った。えっ、こんな時間に試運転? まさか、まだ乗り込んでいる選手がいるとは思わなかった。周回数が制限されていたようで、3周ほどして陸に上がることになったが、その選手とは坪井康晴。彼もまた準優漏れであり、しかし明日は何としても、の思いで最後まで走った。坪井は3R1回乗りだった。つまり、それからずっと、調整と試運転を繰り返していたのだ。胸の内はもちろん、菊地と同様だろう。絶対にこのままでは終われないのだ。

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 11R後、三浦永理に声をかけられた。「服部さん、1号艇じゃないっすか?」。残念ながら、その時点で1号艇は若武者3人とほぼ確定しており、服部の枠番はまだはっきりとはしていなかった。三浦は、枠番がわかっているなら艇番艇旗を装着してしまおうと考えていたようだったが、確たることを伝えることはできなかった。申し訳ない。ひとつ言えることは、テクニカルエリーの身近に、こんなにも貪欲に勝利を目指す偉大なる先輩が何人もいる、ということだ。その背中をこの舞台で見られる三浦は、きっとまだまだ強くなっていくことだろう。

 

 さて、準優1号艇を占めた若武者3人とは、桐生順平、峰竜太、岡崎恭裕である。いずれもオール3連対で、今節のヤングパワー旋風の主軸となった3人と言える。

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 昨日も一昨日も、すでに余裕ある雰囲気だった岡崎は、今日も変わらぬマイペースな動き。走破タイムが断然のトップであることが示すように、仕上がりはもはや万全である。正直、調整らしい調整をしているシーンを、午後の時間帯には見ていないのだから、もはや焦って手を入れなければならない箇所は皆無ということだ。予選は3位。準優を勝ったとしても、センター枠になる可能性はある。だが、この男がSG初制覇を果たしたのは、緑のカポックだったことを忘れてはならない。そして、これは個人的な思いではあるが、福岡SGを赤のカポックで優勝する場面を、僕はぜひ見たいとも思う。

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 峰竜太は11Rを逆転快勝。1マークは内の山崎智也を叩き、その内を中島孝平に差されはしたものの、2マークでは抜き返したのだから、間違いなく快勝だったと思う。ピットに上がってきたときの峰は、何か気になることでもあったのか、意外にも表情が冴えなかった。エンジン吊りに出てきた岡崎とも、何かを真顔で話し合ったりもしていた。だが、モーター格納などレース後の一通りの作業を終えた後は、柔らかい表情になっている。明日は予選2位ながら、準優12R1号艇というメインカードを託された峰。その重圧を吹き飛ばすことができれば、黄色いカポックではないSG優勝戦の峰竜太をついに見ることになるだろう。

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 そして予選1位は桐生順平だ! 今日は2着と3着だが、外枠をしっかりクリアしたのだから、価値は高い。11R前の展示準備を終えた桐生が、こちらと目が合うやペコリと会釈をしてくれたのだが、それがあまりに自然な感じだったので、少し驚いた次第だ。具体的な得点状況を知らなかったとしても、また大外枠だといっても、予選トップが見えているなかでの予選最終走なのである。まだ新鋭王座に出られる若武者が自然体でいられるとは、なかなか真似できないことだろう。実は内心……であったとしても、それが見えてこないのだから、きっちりコントロールできているということでもある。あと2回逃げればV、というのは、相当なプレッシャーがかかる局面でもあると思うが、それをあっさりクリアして新たな地平へ駆け抜けていっても、この男なら少しも驚くべきことではない。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=三浦、峰、桐生 TEXT/黒須田)