BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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福岡・笹川賞 私的回顧

自力の差しきり

 

12R優勝戦 進入順

①桐生順平(埼玉)18

④服部幸男(静岡)11

⑤新田雄史(三重)06

⑥湯川浩司(大阪)12

②峰 竜太(佐賀)16

③岡崎恭裕(福岡)11

 

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 素晴らしい乱戦だった。

 レースを作ったのは、服部幸男、湯川浩司の“ベテラン勢”だ。まずは、湯川。ピットアウトから動いた。

「行った行ったーー!!」

 スタンドが沸く。ただ、より激しく動いて2コースを奪ったスタート展示ほどの迫力はない。服部と新田がブロックして、1456/23という隊形になった。この隊形をハナから想定したファンは少ないだろう。スタンドのざわめきは止まない。湯川が、波乱のムードを演出した。

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 次は2コースの服部だ。インの桐生を半艇身ほど出し抜いた服部は、迷うことなく若き新鋭リーガーを絞め潰しに行った。今節の服部は、この抜群の行き足~伸びを生かして、常に自力で攻め続けてきた。最近は捌き一辺倒のイメージが強いが、この足が来れば獰猛に攻める男なのだ。

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 ただ、桐生の伸び返しも凄まじい。気性も激しい。舳先半分を掛けて、とことん抵抗した。いわゆる、大競り。2艇が、穏やかな波をたたえる博多湾の方向へと流れ飛んでゆく。ぽっかりと空いた幅10mほどの内水域を、黄色いカボックが悠然と突き抜けてゆく。外から全速のツケマイを放った岡崎も、虚しく流れた。

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3年前の浜名湖・笹川賞では、岡崎の背中をはるか後方から見ていた。今日は自分が背中を見せる番だ。大競りの間隙を突いたまくり差し一閃で、新たなSGレーサーが生まれた。しかも、笹川賞の5号艇。奇しくも、師匠の井口佳典の初戴冠と同じタイトル、同じ色のカポックで……。

「なんじゃこりゃ~! 決まり手は恵まれじゃ、恵まれ!」

 舟券が外れたであろう若者が、吐き捨てるように叫んだ。それは違う。断じて違う。これは、すべて“自力”の差しなのだ。4日目12R、新田は桐生、瓜生らを打ち負かし、準優への最後のチケットを奪い取った。昨日の準優では艇団を縫うような凄まじいまくり差しでファイナルの権利をもぎ取った。

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 そして今日、「6コースでは勝てない」と己に言い聞かせて、湯川の前付けをブロックした。先輩の岡崎と峰を、スタート展示(湯川に徹底抗戦してから回り直し)の段階から気迫で圧倒していた。3コース奪取。そして、今日は一度も練習しなかったスローからの起こし(特訓はすべてダッシュの6コース)で、コンマ06まで踏み込んだ。唯一のゼロ台、文句なしのトップスタートだ。

 この1マークまでの一連の流れの中で、新田の心と行動に「他力」が介在したことは一度もない。綱渡りのような境遇の中、いくつもの高い障壁を避けることなく自力で蹴破ったのだ。

 いや、たったひとつ「他力」があったとすれば、それは師匠である井口佳典の存在だろう。

「(レース前に井口から言われたことは?)あ、はい……えっと……ありませんでした」

 勝利者インタビューで、新田は会場を爆笑させた。が、すぐにこう続けた。

「何も話さなくても、全部わかりますから」

 会話がなくてもすべて理解し合える師匠が、常に同じピットにいた。その存在が、大一番でどれだけ新田の背中を後押ししたか、計り知れない。これは私の勝手な想像だが、今節のピットに井口がいなければ、今日のような大胆な前付けはありえなかっただろう。相手は井口と同期の湯川。「湯川にコースを取られるな、突っ張れ」なんて師匠が言わずとも、井口が傍にいるだけで動きやすい空気が生まれるというものだ。

「今節、もしも井口さんがいなかったら、このインタビューの場に僕はいなかったと思います」

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 共同記者会見で、新田は質問する記者の顔を真っ直ぐ見ながら、こう言い切った。この師弟関係を踏まえて今日の優勝が「他力」だったとしても、誰がそれを批判できるだろう。

「これからも、(同期で福岡支部の)元志に負けないよう頑張ります! 新田雄史という名前を覚えてください」

 泣きまくった後の最後の挨拶、福岡の人々は割れんばかりの拍手を贈った。

「新田、かわいいなぁ、これからずっと応援したくなっちゃうよ~」

 会場にいた誰かが言った。もちろん、今日の優勝で福岡だけでなく全国に顔を売った。

「賞金王に、僕なんかが行っちゃっていいんですかね」

 こんなことを言って、全国の記者たちも大いに笑わせた。今日、またひとり、やまと卒業生から大物感漂うスターが誕生したのだ。(photos/チャーリー池上、text/畠山)