BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――雨空でも銀河系

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 11R前、展示待機室に向かおうと控室から出てきた井口佳典が、空を見上げて微笑んだ。

「やみましたね!」

 空が明るくなり始め、あれだけ強く降っていた雨がそこからはほとんど可視できないほどになっていた。実はまだ小降りになった程度だって知っていたので、それを井口に伝えると、井口はさらに笑みを深くして「ラッキー!」。足取りも軽く、待機室へと向かっていった。

 ヘルメットにカッパにカポックと、重装備でレースをする選手たちだが、そりゃあ雨は降っていないほうがいいに決まっている。もちろん視界の良し悪しの問題もある。水上で戦う彼らではあるが、そりゃあ濡れないに越したことはないのだ。

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 そうは言っても、井口は雨の中でも試運転を繰り返していたものだった。10R発売中まで水面を走っていて、そのたびに体を濡らしていたわけだ。表情は決して暗くなかった。「ええなあ!」。井口と足合わせをした田村隆信とは、そんなふうに言って談笑していた。その言いっぷりは、田村の足色を称えたものだろう。12Rをともに走るライバルの好気配にも、井口は笑みを向けて応えていたわけだ。田村も、そんな井口にやはり笑顔。まあ、井口にしてみれば、田村のアシが良かろうが悪かろうが、ぶち倒すのみ、というところであろう。

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 井口を喜ばせた雨の終息気配のなか、11Rを勝ったのは湯川浩司だ。インから先に回り、辻栄蔵の差しに迫られたものの、超抜クラスの直線足で突き放した。湿気王子の面目躍如だ。

 湯川はレース後、ピットに戻るはるか手前で、デッドスローの状態になると後ろを振り向き、辻に深々と頭を下げている。ピットに戻ってからこうした挨拶をすることのほうが断然多いように思うが、湯川は辻が間近に迫っていることを認めるや、お辞儀をしたのだ。陸に上がってからも、辻以外の対戦者のもとに駆け寄って頭を下げた。そのなかには後輩の今井貴士も含まれているが、相手が誰だろうと関係ない。まあ、これは湯川に限らず、勝利者の礼儀のようなものだが、それにしてもやけに丁寧にお辞儀する湯川なのであった。

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 その湯川のエンジン吊りに、10R後に出る帰宿バスの1便に乗らなかった丸岡正典が参加。松井繁は12R出走、他の先輩は1便に乗ったということもあって、桐生順平が助っ人に参上。丸岡とともに湯川のエンジンを外し、架台に乗せた。私がたまたま撮れた一枚です。丸ちゃんの笑顔、最高っす! 本当に素敵なお人柄っすね。なんでこんな笑顔を見せたのかは、結局不明。でも、丸ちゃんらしさが見られただけで満足っす。

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 と、気づけば銀河系軍団のことばかり書いているわけだが、だったら3戦2勝、2着1回と絶好調の森高一真にも触れなければならないか。だが、実は今節、森高の顔をほとんど見ていないのだ。たまたまタイミングが合わないだろうが、だからまだ接触もない。今日は、10Rのエンジン吊りのあとに、整備室から早足で控室へと帰っていく森高を見ただけで、時間にしたら10秒くらい? 絶好調のわりには表情は渋く、浮足立った様子がない……ということを確認した程度だった。森高がここまで順調な成績で予選前半を終えた記憶はほとんどないから、その手応えなどを確認しておきたい気持ちはあるのだが。でも、「好調っすね!」「展開一本や!」で終わりそうな気もします(笑)。

 

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 さて、やっぱり松井繁の圧はすごい、というお話。今節は松井ともほとんど接触がなく、係留所で調整している様子とか、ペラ室へ入っていく後ろ姿とか、エンジン吊りに参加しているところとか、森高より多くその姿を確認はしているが、例えば朝会って「おはようございます」「おはようっす」程度の接触もない。今まではけっこうそれくらいの挨拶を交わす機会は毎朝といっていいくらいあるんですけどね。

 で、今日の10R前のこと。メモをとりながら閑散とした装着場を歩いていると、突然、背筋がぞわぞわっとした。なんだ? 顔を上げると、王者ーーーーーーっ! 王者がほんの数m先に接近していたのだ。慌てて頭を下げると、王者は「ういっす」。今節の初接触となった次第だ。松井はそのままペラ室に入っていき、短い時間を過ごした後に展示待機室へと向かっている。それにしても、王者が視界に入っていたわけではないのに、身体が反応しますかね。僕がよっぽど王者を恐れてるってこと? ともかく、この人が発散している何物かは、半径数mの空気を震わすことができるのは間違いないのである。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田=湯川、丸岡 TEXT/黒須田)