BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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若松オーシャン優勝戦 私的回顧

キング・オブ・パイレーツ

 

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'12R優勝戦

①松井 繁(大阪)14

②峰 竜太(佐賀)13

③篠崎元志(福岡)11

④白井英治(山口)04

⑤湯川浩司(大阪)09

⑥毒島 誠(群馬)13'

 

 

 

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 絶対王者・松井繁が、海賊の世界も制圧した。

 最後の決戦は、楽な闘いではなかった。まずはスリット。悲願のSG制覇に燃える白井英治が、4カドからコンマ04まで踏み込んだ。半艇身のアドバンテージを生かし、宣言通りに絞めはじめる。そこからもう半分伸びきれば、一気に松井のフトコロまで攻め込んだことだろう。だが、その気合の絞りまくりは、篠崎にがっちりガードされる。

 

 

 

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 1マーク。一の矢は折れたが、すぐに若き海賊の二の矢が突き刺さる。松井のターンが流れたところ(本人曰く「素人みたいなターン」)、峰竜太の決め差しを浴びたのだ。スタンド騒然。松井を応援する者の悲鳴と、峰を応援する者の歓喜の叫びがいっぺんに私の耳に押し寄せた。

 峰か、峰なのかっっ!!??

 

 

 

 

 

 

 

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 バック中間、舳先を並べる2艇。内の峰が有利なのは、誰の目にも明らかだ。だがしかし、その背後、最内から別の海賊船が不気味に忍び寄っている。黄色い船体、湯川浩司だ。どこをどう整備したのか、今日の湯川の伸びは昨日までとは別物だった。伸びる、伸びる。この姿を捉えた松井は、すっと峰から離れた。外へ外へ、艇を運ぶ。一方の峰は、突進気味に襲い掛かる湯川への正しい応接を迫られた。行かして差すか、ツケマイで沈めるか。瞬時に決断して行動に移せば、どちらの選択も“正解”だったかもしれない。おそらく、峰は迷った。迷ってから、握りマイを選択した。湯川を抱いて交わすそのターンは、大きく外へ流れた。そして、早くから腹(戦術)を決めていた松井の、全速差しが突き刺さった。

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 終わってみれば、松井の松井による松井のためのシリーズだった。前検の共同記者会見で、松井への質疑応答はわずか2分ほどで終わりかけた。直前の太田和美は、5分以上もかかったのに。一度椅子から立った松井は、記者たちを見回して「ホンマにこれでええの? 今なら何でも答えるでぇ」とニヤリ笑った。

 イン逃げを決めた3日目の公開インタビュー。松井のパワーを不安視していた解説者に対して「エンジンは仕上がった、それがわからないようじゃアマチュア」と一笑に付した。そして、4日目は5・6号艇で1着1着、ありえないような逆転トップ当選を決めた。翌日、準優圧勝後の記者会見では「フライングを切るつもりで行く」と高らかに宣言した。今節の松井は雄弁だった。そして、何かを言うたび、周辺のすべてをひれ伏せるようなオーラを発し続けた。聞く者見る者はその迫力に圧倒され、「松井で決まりだ」というムードが出来上がっていった。おそらく、他の選手たちも、知らず知らずに王者のペースにはまっていったかもしれない。

「今晩、湯川君にドンペリを奢らなきゃ」

 優勝インタビュー、松井はこう言って豪快に笑った。「王者のシリーズ」の締めくくりに、相応しいセリフだった。

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 一方、峰は……2マークの逆転で平常心を失ったかもしれない。逆転された自分を責め続けていたかもしれない。3周1マーク、最逆転の差しを狙った舳先はターンマークに乗り上げ、左側にスピンした。優勝が見えたはずの1周バックから、最後方まで降着した。峰の心中、察するに余りある。「また今回も……」という思いも募るだろう。だが、焦っても何も始まらないぞ、峰りゅー。焦りは新たな焦りを、平常心を失わせる。今日の6着は大いに反省しつつ、「また修羅場での経験値を大幅に上げた」と前向きに捉えてほしい。今日は、王者にひとつの借りを作っただけだ。いつか、その借りを返す日がやってくる。必ず。(photos/シギー中尾、text/畠山)

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