BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――勝者? 敗者?

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 これが意外にも女子王座初準優だった金田幸子は、BOATBoyで長らくコラムを連載してくれていた“ファミリー”。準優突破で優出! ということで、お祝いの言葉をかけたいのだが、ちょいと逡巡してしまった。

 1マークは見事な逃げで先頭に立ち、内枠を手にできるはずが、2マークでキャビって谷川里江に追いつかれ(谷川もキャビってたけど)、接戦に持ち込まれて競り落とされてしまった。つまりは、悔しすぎる敗戦。優出の歓喜と、どちらが上回るのだろうか。

 一方、寺田千恵は5コースから展開を突いての2着浮上。こちらはまくり切った山川美由紀に追いつくことはできない展開で、やっぱり負けは負け。準優だから2着でいい、というのはひとつの真理ではあろうが、優勝戦ではひとつでも内枠が欲しいのは当然だし、レーサーとしての本能は1着を目指しているものだろう。こちらも、なかなか声のかけ方が難しいところだ。

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 まあ、テラッチのほうは、ピットでの様子を見れば、素直に優出を喜んでいるようではあった。「ツイとる~~~っ! もう、ああなって、こうなって、えーい、行っちゃえ!って感じだったのよ~」なんて、出迎えた仲間たちと語り合っていたのだ。12R前にも、「ク~ロちゃぁ~ん!」なんておどけて寄って来てくれて、だから拍手を贈ると「あざぁ~っす!」。ゴキゲンな笑顔を向けてくれている。

 金田のほうには12R直前の時間帯に、「おめでとう……でいいんですかね」と振った。「いいんじゃないですかね」は、10Rからやや時間が経過していたから出た言葉なのか、あるいは優出できた安堵があったのか。

 後者の可能性を感じるのは、優出共同会見での金田の様子も見ていたから。会見場に入るや、金田はピクッと立ち止まって「わぁ~お……」と口を動かす。ズラリと居並ぶ報道陣に圧倒されたのか。その後も挙動不審な態度でソワソワし、どうふるまっていいのかわからない様子で、この「優出の特別感」とでもいうものを実感したようだった(質問への応対は実に理路整然としていて、聡明さを感じさせた!)。

 おめでとうでいいって言うので、改めて祝福の言葉をかけると、金ちゃん、「明日は無事故完走で」なんて言う。だから、「事故したら優勝はないわけだから、無事故完走すれば優勝の可能性あるもんね」と返すと、金ちゃん、またまた「わぁ~お……」。先頭で無事故完走すれば、そういうことになるんですから、明日はぜひとも「優勝の特別感」を味わってほしいぞ。

 

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 2着という敗戦での優出でも喜びを表現してみせたのは、淺田千亜希だ。レースを終え、係留所付近でボートリフトに乗る順番を待っているときに、両手をあげてガッツポーズをしてみせたのだ。出迎えた仲間たちがドゥワッ!と沸いた。優勝者の凱旋みたいだぞ、ちゃっぴー。

 その思いを理解できない方はおそらくいないだろう。地元勢で唯一の予選突破。そして、優出。文字通り、地元の砦を堅守したのだ。ガッツポーズには多少のエンターテインメントが含まれていたであろうが、確実に安堵の気持ちはあったはずである。

 ただ、言うまでもなくここが最終目的地ではない。明日に目を向ければ、「優出メンバーのなかでは機力劣勢」という現実がのしかかる。会見では「今のままじゃダメ」とも言っていて、明日はきっと歓喜も安堵もかなぐり捨てて走り回る淺田の姿を見かけることになるだろう。

 

 3着以下の敗戦は、最終目的地への道を閉ざされることを意味するから、表情の違いこそあれ、12名は悔恨の顔を見せる。藤崎小百合に慰められつつ肩を落とす魚谷香織。一瞬だけ眉間にしわを寄せる守屋美穂。苦笑いが湧いてしまう、1号艇のチャンスを活かせなかった大瀧明日香。どれもが、目指す高みを今年は諦めなければならなくなった屈辱の顔である。

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 もっとも表情が硬かったのは、海野ゆかりだと思う。ほとんど表情が固まったままだった、がより正確か。午前中から角ひとみと真剣に話し合う姿を見ていたし、レース直前には気合満点の迫力ある表情を見せていた海野。もちろん、9年ぶりの戴冠は視野に入っていたからこその、そうした雰囲気だったと思う。それが報われなかったとき、苦笑いであっても、笑みを浮かべられる海野ではないだろう。本気度がそこにあらわれていた、といったら穿ちすぎだろうか。なお、弟子の浜田亜理沙のレース後の表情もよく似ていた。勝負師レディース師弟、とお見受けしたがいかがだろう。

 

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 勝者だ。谷川里江は、本当に達人の域に突入しているのではないだろうか。レース後も、2マークのキャビとか山あり谷ありのレースだったにもかかわらず、飄々として見えるのだから、凄い。金田と顔を合わせたときには、自然な笑顔も浮かんでいた。また、20歳以上も若い滝川真由子には、キャビで迷惑をかけたということだろう、駆け寄って頭を下げていた。それも、後輩を見下したり、先輩風を吹かせたりということのいっさいない、丁寧なお詫びの態度だったのだから、その仕草や姿勢もまた凄い。

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 山川美由紀のたたずまいも、まさしく女傑である。派手に歓喜にまみれることもなく、しかし1着はありうべき結果だと信じ切っていたようでもあり、こうしたときに山川美由紀とは何者であるかということを改めて知らしめられる。明日勝てば女子王座4度目のV。これは単独での史上最多となる。女子選手初の通算2000勝に、またひとつ史上初が加わるのか。「昨日(4日目12R)の6着があったから、今日の1着がある」とも言っていて、そのココロは「その6着で悪いところがわかって、今日調整ができた」。ならば、今日の1着でいいところがわかって、そこを伸ばすことで「準優の1着があったから、優勝戦の1着があった」てなことにもならないか。回り足が弱めだったそうだが、「3号艇なら、回り足はいらないかな」とも言っているあたり、明日を見通す目をもっている人なのだ。

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 そして! 3度目の正直なるか、平山智加。落合直子のまくりを受け止め、淺田千亜希の差しを振り切って、一昨年三国、昨年若松につづく、女子王座優勝戦1号艇を手にした。緊張感はあるに決まっている。今日もあったと平山は言う。だが、トラウマはもうない。それを今日の堂々たる走りが証明したと思うし、ピットに戻ったあとの充実した表情は優勝のチャンスをもっとも身近に引き寄せた歓喜すら感じられるものだった。それは、明らかにたくさんの涙を流しながら手にした、強者の心である。

 午前中に話したとき、僕は「明日は嬉し涙を見たい」とリクエストした。すると平山は「まずは今日、ですけどね」と返している。そして、「(今日)勝てば(もちろん)」とも付け加えている。トラウマが消えたからといって、勝てるとは限らない。なにしろ、攻め立ててくる先輩はひたすら強力だ。しかし、その心で臨むことができれば、結果はおのずと導かれる。明日、平山智加が何を水面で表現してくれるのかが最大の焦点であることは、間違いない。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=淺田 TEXT/黒須田)