BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――平本頑張れ!

 モーターをボートに装着して、水面に出る――こう書くと簡単に聞こえるが、実際は単純なものではない。モーターをボートの後部に乗っけて、それでOK、であるわけはなく、けっこう微妙な作業も少なくない。

 たとえば、ハンドルとモーターをワイヤーでつなげる作業。ただつなげるわけではなく、選手個々のハンドルの“カタさ”というものがある。これを疎かにすると、築き上げてきた自分のターンに影響が出るのだから、大事な作業だ。ハンドルの高さも人それぞれだ。まあ、これは前検時に調整すれば毎日する必要はないが、だから前検日にモーターを受け取ったあとは欠かせない作業でもある。ほかにも、もろもろ細かいセッティングをするわけであって、数分で終わるような作業ではないのだ。

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 12R、平本真之がボート交換をして出走している。JLCの中継をご覧になった方は、山本泰照さんが「直前に交換した」旨をレポートしたのを聞いただろう。そう、この交換は誠にギリギリのタイミングで行なったものだった。

 10Rが終わり、平本は係留所につないでいたボートを展示ピットに移動させている。そこで異常に気付いた。ボートに浸水があったのだ。慌てて陸に戻ってくる平本。浸水を訴えると、検査員さんらが集結して、その原因を探り始めた。だが、これがなかなか発見できない。

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 たまたま通りかかった中野次郎が、事態を知ってボートの底を覗き込む。でも、発見できない。次郎も12R出走で、まさにボートを移動させようとしてその場に出くわし、しばし究明に付き合っていたのだから、本当にいい男である。

 そうしている間に、時間は流れる。展示ピットにボートをつけなければならない時間がぐいぐい迫ってくる。そこで、ボート交換が告げられることとなった。まずはホッと一息。平本は水が浸入してくる(かもしれない)ボートでレースに臨むという事態は避けられた。

 だが、ここからが大変なのだ。すでにレース仕様に装着されていたモーターを外し、新しいボートに装着し直さなければならないのである。先に書いた作業を短時間で行なわねばならないのだ。しかも、ボートが変わったから、ハンドルの高さも調整しなければならない。ああ、時間は迫る。急げ急げ!

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 この事態を知った、選手班長の重成一人や平山智加、今井貴士、赤坂俊輔らがさっそく駆けつけた。装着し直さなければならないのは、黄色の艇旗艇番も同様。こうした、モーターやペラなどに係らない部分を手伝おうというわけだ。こうしたチームワークというのか、ピンチは他人事じゃない精神というのか、選手たちは誰に強制されるわけでもなく、すんなりと発揮するものである。

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 遅れて事態を知った同期の新田雄史は、ことさらに心配そうな表情となって、平本に寄り添った。さらに遅れて篠崎元志も、平本のただならぬ様子に駆けつけている。このあたりは同期愛と言うべきか。ともあれ、誰もが平本を心配し、少しばかり同情し、他人事ととらえることなく見守った。平本はめちゃくちゃ恐縮していたわけだが、次に別の人に似たような事態が起これば、平本は恩返しとばかりに駆けつけるのだろう。

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 一通りのセッティングが終わったのは、まさにギリギリ! 平本は「ありがとうございましたぁ!」と叫びながらボートリフトに向かっている。集まった選手たちは、別に特別な行動をした感覚などなさそうに、自然体で平本を見送っていた。ま、その12Rは残念ながらシンガリ負けとなってしまったわけだが、それは単なる6着とはワケが違うと僕は思う。平本よ、明日は1号艇、勝って恩返しだ!

 

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 さて、インが強い分、枠の利が結果にも反映する流れとなっており、次から次へと新たなウイナーが生まれた初日と2日目。ここまで唯一の複数勝利は、毒島誠の2勝である。しかも、価値が高いのは、ともに1号艇の勝利ではないという点だ。明日は1号艇が回ってくるが、順当ならば3勝目をあげる可能性も相当にあるだろう。

 青山登さんがJLCの勝ち上がりでマイクを向けると、「やっちゃいました~」とにこやかに笑ったという。こうした柔らかさが毒島らしさであり、基本的なお人柄はまさに穏やか。勝って飾らないあたりも、毒島らしいな、と思う。

 ただ、そんな毒島に風格のようなものが見えるのは気のせいなのだろうか。風格まで言ったら言い過ぎなのかもしれないが、雰囲気が一回り大きくなったように思えてならないのだ。オーシャンカップの優出で、こちらの見る目が変わった? それもあるかもしれないが、それよりもオーシャンカップの優出で毒島自身も変わったのだろう。もちろん、いい方向にだ。つまり僕が見ているのは、メンタルの部分で大きくなった毒島、のはずである。ならばSG優出が毒島を一皮むけさせたと考えるのが自然ではないか、と思った次第だ。

 もしかしたら、毒島はもはや伏兵ではないのかもしれない。明日、9Rでイン逃げを決めれば、間違いなくシリーズを引っ張る存在になるのだから。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=平本1枚目、中野、重成 TEXT/黒須田)