BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――新鋭王座 THE END

 スリットの瞬間、ピット内にはさまざまな声があがった。片岡雅裕やその外の選手を応援している者たちは歓声をあげただろうか。逆に、篠崎仁志に祈りを捧げていた者たちがあげたのは悲鳴だったか。

 その声々は、1マークで合流し、完全に悲鳴となった。

 最後の新鋭王座優勝戦で、事故が起こってしまった。それは、見る者の心に、ちょっとした重石を抱えさせたかもしれない。

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 なにしろ、勝者の篠崎仁志がやや顔をこわばらせて戻ってきている。仁志によれば、「自分が4番(片岡)に対して無理をしてしまったかも。事故の様子もわからなかったし」とのこと。レースは自身の優勝で確定したとしても、仁志はまず事故のことに思いを馳せてしまったわけだ。

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 桐生順平も同様だったようだ。転覆、落水してしまった中田竜太と片岡がピットに戻ってくると、桐生はまず駆け寄って気遣っている。桐生はむしろもつれた展開に巻き込まれたほうだが、結果的に後輩の中田は最後に自分に接触して転覆している。その前では片岡が落水。自分の航跡も悪かったのかと考えたとしても不思議ではない。桐生としては、遅れたスタートについても悔やんでいたが、ともあれ、桐生にとってはスタートがすべて、事故がすべてというレースになってしまったことになる。

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 少し同情してしまったのは、前田将太が不完走失格となったこと。片岡と接触した際にフィンが外れ、戦線には残ったものの、まともにターンできなかったのだ。2周2マークではサイドがまるでかからず、かなりスピードを緩めてはいたものの、消波装置に激突してしまっている。失格コールが出たのは、まさにゴールまであとわずかの地点。その瞬間、なんとか完走をと願っていた仲間たちは、大きな大きな溜め息を漏らしている。

 ただ、前田は不良航法もとられた。片岡の落水に関わったという裁定だ。前田にとってはダブルショック。もちろん、反省や呵責の思いもあったことだろう。僕はその瞬間を見逃してしまったが、前田は激しく落胆していたという。

 

 

 

 

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 幸いだったのは、片岡も中田も身体は無事だったことだ。二人とももちろん自力歩行していたし、どこかを痛がるそぶりも見せていなかった。駆け寄った桐生も安心したことだろう。篠崎もそれを聞かされて、改めて喜びが湧き上がってきたという。ゴールできなかったことは悔しいことには違いないが、最後の王座を大きなケガもなく戦い抜いた片岡と中田には、次の舞台での活躍を期待するとしよう。

 

 

 

 

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 そうしたなかで、やや声を弾ませていたのは、中嶋健一郎陣営か。平田健之佑らが、「よく頑張った」とねぎらいの声をかけ、肩を叩いている。6コースで、しかもB1級の身でGⅠ準Vは上出来。健闘を称えられていいと思う。

 だから中嶋の表情には、悔恨よりも充実感のほうが色濃くあらわれていたと思う。もし悔しい思いが湧き上がるとしたら、家に帰るなどして落ち着いたあとのことだろう。敗者のなかではもっとも栄冠に近づいた男なのだ。それを認識したとき、中嶋は今日の経験を強力な糧とすることだろう。

 

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 最後の新鋭王座はもしかしたら理想的なフィナーレではなかったかもしれない。だが、そこにたしかに息づいていた若者たちの懸命な戦いは、最後の新鋭王座に刻み付けられたのだと思う。そう、ザ・ラスト・チャンプ、篠崎仁志の名前とともに!

 いろいろあったが、篠崎はこの優勝を誇るべきだ。兄が届かなかったタイトルということもそうだが、壁のないイン戦で、攻めてきた同期の片岡を制して全速で先に回り、事故があったとはいえ誰にも先頭を譲ることなく駆け抜けた。その戦いぶりは、強者のそれだったと思う。

 これで賞金ランクは23位に浮上。すでに兄貴が当確を出しているベスト12入りも見える位置につけることとなった。「正直言って、まだ考えられないですね」と仁志は言うが、今夜の打ち上げを終え、家に帰り、兄貴にも報告を済ませたら、ぜひとも兄弟ベスト12を、いや、それとは無関係に自身初のベスト12を、目指してほしい。その思いは、今日同じピットに入った片岡をはじめとする同期勢も同様のはずだ。

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 というわけで、なんか無理やりつなげましたが、水神祭! 101期勢が凱旋したチャンプを出迎えて、真っ暗な桐生水面で盛大に行なわれましたぞ!

 篠崎が水面に投げ込まれたと同時に、同期全員が飛び込む、というのは新鋭王座のお約束。全員が陸に上がり、篠崎が耳に入った水を出そうとケンケンしていると、尾嶋一広がさらに飛びかかって、二人一緒にふたたびドボーン! 居合わせた者たちの笑い声が桐生の暗闇に響き渡る、楽しい楽しい水神祭でありました。

 

 

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 これにて、新鋭王座決定戦はTHE END。ひとつの歴史に幕が引かれた。その場に立ち会うことができた僕は、仁志の笑顔を見ながら、なんかしみじみとしてしまったのでした……。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=水神祭 TEXT/黒須田)