BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――チャレンジの重み

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 1R3着の田中信一郎が、途中帰郷となってしまった。初日6着2本と苦しいスタートとなった田中、この2着から巻き返しかと思われたが、無念のリタイア。ということは、賞金王出場への道も閉ざされてしまったことになる。ミスター賞金王が決定戦にいないのはなんとも寂しいわけだが、来年の最高峰復帰を期待しよう。来年からは「ベスト18」となるわけだが、記念すべき最初の“新賞金王決定戦”にその名があることを願う。

 SGにおいても、こうした途中帰郷は珍しくないわけだが、チャレンジカップにおいては、その意味は非常に大きなものになる。すでに決定戦当確を決めているなのならともかく、そうでないものにとってはチャレンジを諦めなければならないのだ。この苛烈さが、チャレンジカップに重みを与える。戦いを重厚なものにするわけである。

 

 

 

 

 

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 1R1着は服部幸男。昨日の初戦では道中で不運な後退を喫し、5着に敗れているが、そのレース後の服部は苦笑いを浮かべていたものだった。では今日は最高の笑顔を見せたかというと、そうではない。レース直後には笑みが見えなかったのだ。勝って兜の緒を締めよ、ということなのか、安堵感も見えてこない。ひたすら精悍な表情で、頬はぎゅっと引き締まっていた。

 

 

 

 

 

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 勝者が意外と淡々としていたり、表情を引き締めていたりというのは、レース直後によく見かける光景ではある。歓喜をあらわにする場面というのは、意外なほど少ない。特に予選においては。かつて赤岩善生は、「負けたら、本当に悔しいんですよ。だから、勝った時には負けた人の気持ちを考えてしまう。そうすると、手放しで喜ぶことはできないものなんですよ」と言っていた。なるほど、そういうものかと思ったものだ。同時に、予選というのは戦いの終着点ではない。1つ1つの勝利に喜んでいる場合ではないだろう。チャレンジカップ予選での勝利は、賞金王への道における前進である。だが、あくまで前進でしかない。さらに先を見据えるなら、そしてそれが仲間を蹴落とすことにもつながるのなら、ここで笑ってばかりはいられないのだろう。

 

 

 

それにしても、今日も寒いぞ~。昨日に続いて強めの向かい風。

これが容赦なくピットにも吹き込んでくるから、ついつい震えてしまう。

もちろん、本来は選手のほうがもっと寒い。

特に、係留所での作業はしんどいだろうなあ。

風をさえぎるものはなく、冷たい風はさらに冷たい水の上を渡ってくる。猛暑の夏も大変だろうが、冬の寒さもまたひとつの大敵となっている。

 それでも、選手たちはもちろん、作業をやめるなんてことはない。調整の手をひとつ緩めることは、勝利からひとつ遠ざかること。ましてチャレンジカップでは、それは賞金王の舞台からひとつ遠ざかることでもある。というわけで、今朝も選手たちは係留所でエンジン音を響かせて、寒風に耐えつつ調整に励んでいるのであった。

 

 

 

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 とりわけ精力的に動いているように見えるのは、井口佳典だろうか。地元SGへの並々ならぬ意欲がビンビンに伝わってくる。選手班長でもあるので、時折「競技本部へ」などとアナウンスがかかり、係留所から駆けていく姿もあった。班長は大変なのです。しかし、井口はそれを言い訳にする男ではない。その分もじっくりと時間をかけて、飽くなき調整を施すのだ。ま、精力的に、と同時に、いちばん忙しそうに見えたのが井口ということなんでしょうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 白井英治も寒さに顔を歪ませながら、懸命な動きを見せていた。もっとも、気合が入った白井は、眉間のシワをより深くさせるので、寒さうんぬんではない、気迫満点の表情と言えるかもしれない。とにかく、今朝のピットではかなり印象に残る顔つきを見せていた一人ということだ。10R1回乗りにもかかわらず、早くから動いていたのも、強く印象づけられた理由かもしれない。

 白井が賞金王に出るには、優勝がノルマ。そして、ご存知の通り、白井は「SGにもっとも近い男」と言われ続けてきた男である。勝てば、悲願がかない、暮れの住之江に胸を張って立てる。今日は6号艇と不利枠だが、これをうまく乗り切れば、明日からはさらに眉間のシワが深くなるのだろうな、と思った。もし寒さが緩んでも、だ。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田=服部 TEXT/黒須田)