BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――ガチンコ後のノーサイド

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 11Rが終わって、ピットに戻ってきた土屋智則は、ひととおりの作業を終えると、すぐに赤岩善生のもとに駆け寄っている。5コースから鋭い行き足で攻めていった赤岩だが、3コースの土屋が握って攻めんとし、その航跡が重なり合ったことで、土屋が赤岩を弾き飛ばすような格好になってしまったのだ。土屋は3着キープも、赤岩はこれでシンガリに。不良航法もとられていない展開のアヤだが、土屋としては迷惑をかけたという思いが強かったのだろう。

 頭を下げる土屋に、赤岩も一言二言、言葉をかけていた。ヘルメット越しの会話なので(土屋は脱いでいたけど)声は聞こえてこなかったが、赤岩としてもこれがレースのもつ一面であることは理解している。土屋は再度、頭を下げて、ノーサイドと相成ったわけだ。

 

 

 

 

 

 

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 それを間近で見ていた菊地孝平が、ニヤニヤしながら土屋に声をかける。SG初出場の若者をからかっている風情だ。土屋としては、先輩をブッ飛ばしたのだから、心に引っかかりもあっただろう。それに菊地はちょっかいを出したというわけだ。土屋は菊地にもペコリと頭を下げる。そして、土屋の顔には笑みが浮かんだ。菊地は、そうして土屋の心をほぐしたんだろうな。つまりは、菊地の心づかいである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 控室に戻り、着替えを済ませた赤岩は、比較的サバサバしているように見えた。スリットからの足は良かった。展開はある種、不可抗力である。結果への悔恨はあろうとも、手応えは悪くない。あとは全力で明日の勝負駆けに臨むのみ、だろう。おそらく、明日の赤岩はさらに万全を尽くして、「いつも通り」に動くはず。赤岩の「いつも通り」とは、妥協なく徹底的に整備をし、納得いくまで仕上げ切ろうとする、である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 12Rでは、山崎智也がピットに戻ってきてすぐに、池田浩二のもとに歩み寄った。ピット離れで遅れた智也は、大きく回り込んで2コースへ。3号艇だったから、ひとつ内に入ったわけだ。回り込んだ分、インを主張した池田とともに深めの起こしとなった。そして智也は、彼らしい2コースつけまいで池田を攻めた。それでも池田は逃げ切り、智也は3着。結果はともかく、池田の計算を狂わせたのは間違いない。

 というわけで、智也は池田に頭を下げた。聞こえなかったが、唇はたしかに「ごめん」と言っていた。すると池田は、右手を掲げて、頭を下げ返した。ヘルメットをかぶっていたが、こちらもごめんとかすみませんとか言ったのだろう。二人はにこやかに頭を下げ合って、やっぱりノーサイドとなったわけなのだった。池田の場合は、智也のツケマイを許さず、つまりは張るようなかたちになったことを詫びたのだろうか。

 レースだから、真剣勝負だから、池田にしろ智也にしろ、実際はなーんにも悪くない。自分が勝つために、相手を張るにせよ、引き波にハメようとするにせよ、あるいは進入を深くしようとするにせよ、当然の攻撃である。そして、実は二人ともそんなの当然だと思っている。だって、智也は6コースから行けばいいし、2コースに入ったとしても差せばいいし、池田もツケマイが来たら抵抗しなければいいのだ。しかし彼らは、絶対に勝つのだと闘志を燃やし、ビハインドが生じればそれを跳ね返さんと死力を尽くす。

 

 

 

 

 

 

 

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 そして、陸に戻れば相手を気遣うのだ。これは、次なるガチンコ勝負への儀式のようなものである。次もまた同じような局面になれば、二人は同じように戦う。いや、ツケマイは跳ね返されるとわかっているから、智也は握ると見せかけて差しにいったりするかも。そして、レース後にはやっぱり頭を下げ合うだろう。それがボートレーサーであり、ボートレーサーの真剣勝負なのである。

 ま、もし陸の上で険悪になったとしても、それはそれでアリだと思いますけどね。いずれにしても、池田浩二vs山崎智也には、ボートレースの勝負のひとつのかたちを見せられたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 さて、3日目を終えて予選トップは森高一真! 2日目から怒濤の3連勝で、シリーズリーダーとなった。予選はあと1走、残るは1号艇! 逃げ切れば、予選トップ通過もほぼ堅い(新田雄史が明日ピンピンなら森高を超えるが、10Rで直接対決)。あと3回逃げれば、銀河系軍団5人目のSGウイナーが誕生だ!

 おそらく、森高はその状況をなーんにも知らなかった。実は12R、徳増秀樹が1着だったら森高は2位だったのだが、12Rのエンジン吊りを待ちながら、森高はにこやかに平山智加と雑談を交わしていたのだ。そして、エンジン吊りを終えて控室に戻る森高を捕まえて、1位であることを伝えると、森高は一瞬、絶句した。まあ、3日目の1位なんて意味はないけど、それもあってか、何も気にしていなかったのであろう。

 1、2秒ののち、森高が言ったのは、「ま、追々、な」。何が追々なんだ? それから控室に消えるまで、三言くらい言葉をかけたが、答えはすべて、「ま、追々、な」。最後は「期待してまっせ!」に「追々、な」なのだから、会話になってません(笑)。ま、あんなこんなは追々考えるとして、明日は渾身の逃げ切りを見せてくれ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)