1R発売中、足合わせをしていた齊藤仁と三井所尊春が、
並んでピットへと戻ってきた。リフトに乗っかったところからスタートした会話はそこから延々と続く。
二人とも表情は明るい。手応えを確認し合っているようなのだが、
お互い感触が良かったのだろうか。「出足がいい」なんて言葉も
ちらりと聞こえてきたりして、
準優当確組の余裕すら感じられたものだった。
あの会話の中身が、チルト3度に関するものだったとは……。
そう、やったのだ、三井所がチルト3度を。
3R、6号艇で出走した三井所のチルトはマックス!
予想外であったし、両者の会話場面を目撃していたのだから、
もっと耳を澄ませておけばよかった。
今となっては、「出足がいい」は三井所の言葉か、
齊藤の言葉か、よくわからないのだ(三井所だったりしたら……)。
結果は4着だったが、三井所のチャレンジ精神に拍手!
準優もレースを面白くしてほしいぞ。
それにしても、
仁ちゃんは相変わらず好漢だ。三井所との会話が終わったころ、
岡村仁がモーターをボートに装着しようとしていた。
これをヘルプしたのは、たまたま通りかかった濱野谷憲吾。
支部が違おうが、先輩だろうが、こうした場面で手を貸すというのは、ボートレーサーに叩き込まれた精神である。
濱野谷は当たり前のように岡村と一緒にモーターを持ち上げており、
岡村も恐縮しつつ感謝していた。
すると、いつの間にか仁ちゃんも駆け寄っていた。
仁が仁をヘルプだ。つまり、ボートを装着場に置くと、
速攻で岡村のもとに走り、防水カバーなどを手渡したりしたというわけである。その素早さには本当に驚いたし、
岡村もなぜかあらわれた齊藤に驚きつつ感謝するのだった。
その後には、
森高一真と談笑する姿もあった。実はこの二人、けっこう仲がいい。
東京支部と香川支部、83期と85期、優しい顔つきとコワモテだが、
結びつきは深いのである。もっとも、森高もなんだかんだで
好漢ですけどね。見た目はともかく、好漢同士の二人なのだ。
齊藤は、賞金ランク13位。現時点では次点の位置にいる。
もっとも12位圏内に近いところにいるわけだ。ノルマは優出。
予選突破は当確だから、明日が最大の勝負駆けとなる。
好漢・仁ちゃんが明日、どんな表情を見せるのか、
どんな戦いを見せるのか、本当に楽しみだ。
そして、最高峰の舞台に立つ仁ちゃんを見てみたいとも思う。
あの場でもとびきりの好漢ぶりを見せてくれるのか、それとも……。
今日明日の2日間、最注目の一人であることは間違いない。
仁ちゃんの笑顔に出会っているからか、チャレンジカップの4日目とはいっても、
極度のピリピリ感をピットにいて感じたわけではなかった。
昨日までとも変わらないし、普段のSGとも
それほど違いがあるわけではない。
ただ、難しい顔をしている選手をけっこう見かけたりはした。
難しい顔というか、深く考え込む顔といったほうが正しいだろうか。
森高にしても、仁ちゃんと別れたあとはそんな顔になっていたし、
試運転から戻ってきた選手たちが係留所で
じっと考え込む選手がけっこういた、烏野賢太が印象的で、
モーターを凝視しながらぴたりと動きを止め、
30秒ほどもそのままの態勢だった。おもむろにペラを外し、
整備室に駆け込んでいったが、あの30秒ほどの間に
調整方法を頭の中で練り込んでいたのだろう。
湯川浩司の場合は、
エンジン吊りに出てきて、仲間の帰還を待つ間、
時間が止まったかのようにピクリとも動かずにいた。
もし声をかけたりしたら、確実に深き思索を断ち切ってしまっただろう。
ベスト12入りを決めるためには、少なくとも予選を突破したい湯川。
調整にしろ、レースでの作戦にしろ、いくらでも考えることはあるだろう。
そこにいるだけで背筋が伸びるような、
そんな緊張感はたしかになくとも、
選手の脳内コンピュータはフル回転しっぱなし。
そういう局面は今日に限らず、これまでのSGでもあったはずなのだが、それを強く強く感じさせるあたりが、
チャレンジカップらしさなのかなと思った。
(PHOTO/中尾茂幸 黒須田=絡み写真 TEXT/黒須田)