BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――愛すべき男

 まずは中島孝平だ。11Rを2着以上でベスト12確定という条件で出走。1号艇で有利なのはたしかだが、状況を考えれば決して簡単なイン戦ではない。しかし、中島はコンマ02の超絶スタート! 外5艇に影を踏ませることなく、一気に逃げ切って賞金王行きを自力で手にした。お見事の一言だろう。

 そんな渾身のレースの後でも、淡々としているあたりが中島らしい。それが中島のいいところだし、強さでもあるだろう。ただ、田村隆信とすれ違い、その田村が祝福の言葉をかけたときには、表情がふっと緩んだ。そして、深々と田村に一礼。その時点ではまだ当確が出ていなかった田村も、ニコリと微笑んだ。

 きっと賞金王の舞台でも、中島は淡々と奮闘するだろう。初出場で優勝した10年以来の舞台に、中島は堂々と乗り込んでいく。

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お見事! 素晴らしい勝負駆けを決めた中島孝平(PHOTO/中尾茂幸)

 

 

 その11Rの発走直前、展示に向かう森高一真と顔を合わせた。

「逃げるだけや。行けるやろ」

 想像以上に落ち着いている森高に、震えず優勝戦を戦えるだろうことを確信した。実際は、オッズを見た瞬間に「背負ってるものデカすぎやろ~。松井さんはいつもこんな思いで戦ってるんか~」と肩が凝り始めたそうだが、妙な緊張感はなかったようだった(王者曰く「あぁ~ん、まだあいつはわかってへん、わかってへんわ~」だそうです・笑)。

 昨日約束した、優勝戦後のグータッチ。「拳洗って待ってるから」と伝えると、森高は約束を思い出して笑った。「おぉ、行ってくるわ」。よほどのことがない限り、負けないと思った。

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レース前の森高一真は、普段通りの状態で過ごせているように見えていた(PHOTO/中尾茂幸)

 

 

 森高が逃げた瞬間、ピットはにわかに活気づいた。先頭のまま3周目に突入すると、選手仲間は続々と係留所に降りていき始めた。香川勢、銀河系軍団はもちろん、松井繁らの姿もある。森高が先頭でゴールすると、彼らはドッと沸いた。ピットに戻ってきた森高に、歓声を送る仲間たち。ともに戦った菊地孝平も、返納作業のためにモーターを整備室に運び入れると、まず係留所に走って、森高を祝福している。選手たちはみな、嬉しそうに嬉しそうに笑っていた。

 ただ、気がかりはひとつあった。湯川浩司が訊ねてくる。「行けるんか?」。いや、どうやら届かない……。湯川浩司の顔が曇った。一緒に賞金王に行けると信じていた。それを決めたはずのSG初優勝。しかし……。いや、優勝は優勝! そう言うと、湯川は「そうやな!」とふたたび表情を緩めている。

 その直後、なんと齊藤仁にも同じことを訊ねられた。言葉は「一真のほうが上?」だったが、意味は同じことだ。ただし、齊藤は当事者である。いや、仁さんのほうが上です。その瞬間、齊藤はなんとも複雑な表情になっている。二人の関係を思えば、また仁ちゃんの人柄を思えば、「ベスト12確定」を素直に喜ぶということはありえなかった。

 状況を知っていた毒島誠らが、嬉しそうに齊藤を祝福する。それでも、齊藤は複雑な表情を崩せない。モーター返納作業中も、どう振る舞っていいのかわからないような顔つきで、本来なら敗れた悔しさを噛み締めるところだし、あるいはベスト12入りを喜ぶ局面でもあるのだが、その両方を仁ちゃんはできないでいるようだった。

 でも、胸を張って喜んでいいぞ、仁ちゃん! これは齊藤仁が11カ月間、積み重ねてきた結果なのだ。森高も言っている。「仁さんが1年間頑張ってきた結果だと思う。ラッキーパンチが当たったような自分よりも、仁さんがふさわしい」。これは決して悔し紛れの言葉ではないし、森高の素直な思いなはずだ。

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菊地孝平は悔しさもありながら、森高を祝福。この人も好漢!(PHOTO/中尾茂幸)

 

 

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胸を張って賞金王へ!(PHOTO/中尾茂幸)

 

 

 そのほかの敗者たちの様子を眺めての第一感は、なによりまずは敗戦を悔やんでいるということ。ベスト12入りがならなかった悔しさは、やはり二の次のように思われた。

 2着の徳増秀樹にしても、攻めがかなわなかったことが悔しかっただろうし、山口剛はコース獲りからいろいろな思いがあっただろう(スタート展示は3コースに動いた)。表情がカタかったとすればこの二人で、素直に悔恨をあらわしていたと言える。

 菊地孝平は、モーター返納の間じゅう、微笑が浮かんでいた。森高にインからあのターンをされたら仕方がない、という部分もあっただろうが、しかしその微笑に本音がこもっているとはとても思えなかった。僕には、悔しさを押し隠すための微笑と見えたのだが、どうだろう。

 一方、思い切り笑っていたのは、三井所尊春だ。いや~、楽しい! そんな声も聞こえてきている。SGの優勝戦を初体験し、その感想が「楽しい」だったわけだ。もちろん敗れた悔しさもないはずがないが、それでも破顔一笑して「楽しい」と言えるのは、よほどの大物……か、これもまた悔しさを見せまいと懸命に笑ってみせているかのどちらかだ。

 個人的には、後輩の峰竜太のように、思う存分、悔しさを爆発させてもいいのではないか、と思ったりする。峰はそうして、強くなっていったからだ。三井所にとって、これが最後のSG優勝戦のわけがない。ならば次は、この笑みを勝利の笑みにしてほしいと思う。もちろん、峰竜太のように泣くのもアリだぞ(笑)。

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山口剛はスタ展で魅せた!(PHOTO/中尾茂幸)

 

 

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三井所尊春はレース前も笑顔爆発!(PHOTO/中尾茂幸)

 

 

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徳増秀樹の準優勝に拍手!(PHOTO/中尾茂幸)

 

 

 ウイニングランを終えた森高は、地上波放送のインタビューを受けるため、そのブースに向かった。マイクをつけられ、カメラの前に立つ森高。中継スタッフたちが取り囲むその後ろには、やっぱりいました、銀河系軍団。そして松井繁。森高が何を言ってくれるのか、それともいつものようにカッコつけてクールに振る舞うのか、気になって仕方なかったのだろう(そして、それを見て大笑いしようと待ち構えていたのだろう・笑)。こうした光景こそ、森高一真の人間性を最高にあらわしていると思う。誰からも愛され、誰からもイジられ(笑)、その動向を誰もが気にする。11Rを終えてさっさと帰ってもよかった王者が残っていたのが、象徴的だ。みな、本当に森高一真が大好きなのだ。コワモテだけど、それがこの男の本質ではないと仲間は誰もが知っている。残念ながらベスト12入りは逃したけれども、本当にたくさんの人たちに祝福されて、森高はSGウイナーとなった。こんなに多くの人が笑っているSG優勝戦の後というのは、あまり記憶にない。

 インタビューを終えた森高がこちらに気づいた。拳を突き出すと、森高はトビキリの笑顔になる。「おぉ、クロちゃん。やったで!」。力強く拳を合わせてくる森高。そのゴツゴツして硬い拳の感触を味わいながら、これが実はめちゃくちゃ光栄な瞬間であると気づいた。愛すべき男、森高一真。悲願のSG初制覇、おめでとう!(TEXT/黒須田)

 

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仲間たちに思い切り水面に放り投げられる。これも愛情表現!

 

 

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「さみぃーーーーっ!」と叫んで、風のごとく控室へ走っていった森高。おめでとう!(水神祭PHOTO/池上一摩)