BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――穏やかな中に闘志

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 栢場優子がゆっくりゆっくり歩いていた。栢場といえば、いつも走っているイメージがあるので、「おっ」と声が出てしまう。栢場はランニングマシンではないので、移動の大半は歩きだと思うのだが、ピットでの栢場は本当によく駆けている。初めて栢場と会ったのがマラソン大会出場の取材だったので、栢場=走るが刷り込まれてしまっているのだろう。

 準優までは時間がある。そして、慌てて作業をしなければならない状態でもないのだろう。栢場がゆっくり歩いているのは、おそらくポジティブなことだ。試運転を繰り返しているとか、ピット内を走り回っているとか、それはそれで頭が下がる感動的なシーンだったりすることも多いのだが、その実、それが機力劣勢を意味していることも多々あるのである。

 

 

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 栢場の様子が象徴していたというわけではなかろうが、今朝のピットはやけにのんびりした空気だったように思う。シリーズ戦は5日目、トライアルは最終戦。この期に及んで、という部分もあるのだろうか。そういえば、SGだって準優日が超慌ただしいかといえば、そうではないですからね。

 そうはいっても、もちろん最後までパワーアップに力を尽くすのが選手たちの性。整備室を覗けば、小野生奈と岩崎芳美が本体整備をしている。小野は2度目の本体整備。1度目で足は上向いたという話もあったわけだが、さらに上積みをはかろうとしているわけだ。岩崎も同様だろう。ともに準優4号艇というのが気になるところだ。カド一撃仕様にしているのか?

 ペラ調整所は、今まで以上に人口密度が高い気がする。決定戦組の多くがエンジンよりペラに移行していることも大きいが、シリーズ組の姿もやはり多い。あと、係留所も満艇状態で、当然だが圧倒的にシリーズ組のボートばかりでしたな。とはいえ、そこに慌ただしい空気があるわけではなく、みな淡々と調整を進めているという感じであった。

 

 

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 1R後、緊急事態が起こった。エンジン吊りのためリフトに集結していた選手たちがキャハハハと嬌声をあげて大笑いしており、その理由は池田浩美の沈没。レースを終え、デッドスローでリフトへと向かっているとき、あと数10mというところで池田のボートがズブズブと沈んでいったのだ。ボートにしがみつき、自身の着水を免れようとしている池田を見て、選手たちはさらに笑う。今朝はピットの寒暖計が今節最低の8℃を示しており、もっとも冷え込んでいる。冷たい水に浸かりたくないのが心情というものだし、だから池田は必死なのだろうが、その様子が外野席にとってはおもろいわけである。

 沈没の理由は、ボートの底にあいた大穴から水が浸入してきたこと。レース中の接触で、高速で走っているときには問題ない穴があき、それがデッドスローに速度を落としたことで水の浸入を許してしまったわけだ。レスキューでピットに戻った池田は「ビックリした~」。陸の選手たちとは対照的に、笑顔はまったくなかった。

 

 

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 さあ、ここからが大変だ。なにしろ池田の後半レースは4R。中2レースしかないのである。3R発売中には展示ピットにつけなければいけないわけで、水に浸かったモーターを転覆整備し、ボートも交換し、さらに次への準備もしなければならない……時間がない! というわけで、比較的手の空いている選手はできる範囲でお手伝い。池田も速攻で着替えて、大急ぎで作業を進めていた(こうなると本人が水に濡れなかったのは大きかった)。で、無事に4Rに出走! そして1着! 素敵な勝利だぞ!

 

 

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 池田の様子を見ながら、ほとんどの選手が笑っていたわけだが、それを見てもクスリともしなかったのが海野ゆかりだ。昨日の枠番抽選が即座によみがえる。沈没は不幸なことなのになぜ笑う、という思いがあったのかもしれないが、周囲とともに笑い転げるようなメンタリティにないということもあったに違いない。言ってみれば、すでに闘争本能に火がついているのだ。今日もカッコよかったぞ、海野ゆかり。間違いなく、その勝負師の本能が、彼女をこの位置に立たせている源泉だと思う。

 

 

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 決定戦組も大きな動きはあまり見られなくなっていて、それもピットから慌ただしさを消した要因であろう。先述したように、ペラ調整に専念する選手が決定戦組の大半であった。したがって、装着場で周囲を見回しても、決定戦組の姿はほとんど見当たらない。

 整備室を覗くと、守屋美穂がいた。守屋はこれで3日連続の整備室暮らしだ。ボートに装着されたボートにはモーター本体が乗っているので、いわゆる本体整備ではなさそう。さっきメモ代わりに撮った写真を拡大してみたら、キャブレターを手にしていました。考え付く限りのすべてをやり尽くして、勝負駆けに臨む。畠山シュー長をメロメロにするキュートなミポリンだが、その本質は芯の一本通ったたくましき勝負師である。

 

 

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 係留所に日高逸子がいた。よく見ると、1艇だけ、決定戦組のボートが係留所にあった。それがブルーのカウルの4号艇で、すなわち日高のボート。朝特訓のあとも水面に残って、試運転をしていたというわけだ(2R発売中にいったん陸に上がっている)。

 昨日の日高はとにかくネガティブで、足にも不満を述べたし、もう優出はないという意味のことまで言っていたりした。実際は1着勝負。まだ終わっていない。しかし日高は、もうあきらめましたよ~みたいなそぶりを見せてもいたのである。

 ま、本音のわけがないわな。この人が、本気で勝負を投げることなどあるわけがない。その証拠こそ、この熱心な試運転だ。なぜグレートマザーと言われるのか、その一端がこうした姿勢にあることは言うまでもない。

 

 

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 穏やかな空気とはいえ、決定戦組の闘志には火がついている! 戦い模様は言うまでもなく、穏やかではないのだ。結局今朝はエンジン吊りでしか姿を見なかった鎌倉涼は、そのとき仲間とプリティすぎる笑顔で話し込んでいたが、この人だって言うまでもなく、強靭に戦い抜く勝負師なのである。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)

 

 

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すれ違いざま、「僕らのマキちゃん、頑張ります!」と笑って言われてしまいました。BOATBoy1月号の賞金女王特集をご参照ください。選手って、けっこう読んでるんだよなあ……。