BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――決定戦とシリーズ戦

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 まず賞金女王シリーズ戦の準優勝戦から。たとえば女子王座の準優と比べても、比較的サバサバ感が強いように思えるのは気のせいか。もちろん敗れて悔しくないはずがなく、魚谷香織がヘルメットの奥で表情を硬くしていたり、堀之内紀代子がかなりピリピリムードで帰ってきたり、という場面もあるにはある。というより、敗者はどんなレースだって、悔しさが1ミリもないなんてことはありえない。レーサーである以上、「準優だから2着でOK」だって、本音じゃない可能性もあると僕はにらんでいるのだ。

 

 

 

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 だから、サバサバ感はむしろ勝者のほうに感じたというべきだろうか。ま、そのメモをしたのが、それほどレース後に感情をむき出しにすることのない水口由紀の姿を見たあとだったので、その印象が強いのかもしれないけど。2着で優出を決めた水口の様子は、まさに淡々、粛々。それはそれで実に好感もてる雰囲気で、実力者らしいたたずまいを感じたほどだ。

 

 

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 それでもたとえば、9R1着で優出を決めた山下友貴の場合、明らかに周囲のほうがニコニコと笑っていたのも確かだった。長嶋万記がガッツポーズを向け、ヘルメットの奥の目は細くなるが、それほど笑いは大きくならない。今節、JLCの勝ち上がりインタビューを担当している徳増宏美さんが、同県の後輩の勝利に満面の笑みでマイクを向けると、ようやく山下もキュートな笑顔を見せていたが、そうした周囲の仲間たちとの絡み以外の場面では、むしろ淡々とした表情にも見えていたのである。

 

 

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 それは、大瀧明日香もまた同様。まず笑顔になったのは、やっぱり周囲の人たちである。谷川里江あたりも笑ってたもんなあ。優出一番乗りの高揚は、むしろ仲間たちにあるのであって、大瀧は微笑を浮かべて喜びをかみしめているという感じに見えた。それは、同じレースで2着だった倉田郁美も同じこと。山下と同じ東海の静岡支部というなので、登場人物はやっぱり長嶋に谷川。おどけた様子でペコリと頭を下げる仕草はゴキゲンな雰囲気ではあったが、敗者がまみれる悔しさを感じる必要がない立場だからこそのゴキゲン、といったら裏読みが過ぎるだろうか。

 

 

 

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 なにしろ、元気ハツラツ小野生奈も、わりと神妙な表情だったのだから、ちょっと驚かされたのだった。レース後も実にキビキビと動いてはいるが、笑顔はなかなか見ることができなかった。11R発売中とかに報道陣と話してるときは笑顔だったけど。それはもはや「レース後」ではないだろう。

 

 

 

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 まあ、田口節子の場合、ここでの1着は当然、でしょうかね。ももクロコンビの池上カメラマンによれば「今日はさすがに緊張した」と言っていたそうだが、準優1号艇(しかも予選トップ)はオール女子戦においては珍しいことではないだろうし、いつだって緊張感は襲ってくるだろう。とするなら、緊張→見事1着だって言ってしまえばいつものことであって、それらがこちらの先入観含みだと認識しつつ、自然体でいる田口を見ながら、「ま、そうだよな」という感想が浮かんでくるという次第なのである。

 去年はそれほど意識してなかったけど、これが賞金女王シリーズというものなのかもしれませんね。

 

 

 

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 一方、トライアル最終戦となった決定戦組は、サバサバ感などひとつも見当たらないのである。

 3戦連続1号艇で、しかし昨日は一敗地にまみれた平山智加は、巻き返しの逃げ切りに顔を輝かせていた。もちろん、この時点では優勝戦の枠番は確定しておらず、4戦連続1号艇になることなど露知らず、なのであるが、そういうこととは関係なく、ひたすらいい表情なのだった。明日になればどんな雰囲気になるのかはともかく、その時点では「明日1号艇になったとしても、何にも不安はないだろうな」と思わされたものだった。

 

 

 

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 海野ゆかりにいたっては、ウキウキしてる、なんて書いてみたくなるほど、テンションがハイになっていた。誰と絡んでもおどけて見せており、それは優出共同会見になっても変わらなかった。会見ではもちろん真摯に質問に応えてはいたが、様子を覗いていた岩崎芳美に笑いかけたり、また口調が弾んでいたり、気分のいい人の見本のような姿がそこにはあった。こっちまで楽しい気分になったぞ。

 

 

 

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 逆に、三浦永理は明らかに不機嫌であった。ボーダーの目安は21点とされており、三浦の必要着順は3着。しかし11Rで5着に敗れて、19点にとどまっている。実際はその時点では12Rの結果待ちだったわけだが、しかし三浦は連覇への道が途絶えた予感に、表情をひたすらカタくしているのだった。次点敗退が本当に決まった12R後も、表情はただただカタい。まさに仏頂面というしかない表情で、三浦は敗戦をひたすら悔やんでいるのだった。

 

 

 

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 ある意味“勝者”である長嶋万記も、思い切り悔しさを滲ませていた。レース後に優出を祝福する数々の声には笑顔を見せていたが、はっきりと顔がひきつっていた。無理に作った笑顔なのは明らかだった。

 長嶋は無事故完走で当確という状況で12Rに臨んだが、「2着以上で優勝戦1号艇」という勝負駆けがあった。レースぶりはそれを意識しているであろう懸命なものであったが、3着。平山とは同得点だが、1着の数で1位を平山に譲った。

「とにかく悔しいです。ホッとしたとかじゃなく、悔しいしかなかった」

 共同会見での様子は、勝者のそれには思えなかった。意気は上がらず、笑顔はいっさいなし。ただただ悔しさに耐える姿で、これを引きずらないか心配になってしまったほどだ。

 

 

 

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 寺田千恵も優出を決めたという意味では勝者の一人であるが、こちらはレース直後には優出失敗と自覚していたようだ。ピットに戻ったときには対岸のビジョンでリプレイが流されており、寺田は落し物をいつまでもあきらめられないでいるかのように、じっと見入っていた。何回見ても、差された事実は変わらない。嘘であってほしいと思っても、間違いなく2着に敗れたのである。

 そこに久保田美紀が歩み寄り、得点状況を伝えた。寺田は、驚いた様子で、それをなかなか信じることができないでいるようだった。控室に戻る途中、報道陣に優出を知らされ、ようやく認識したようだ。「やだ、泣いちゃう……」寺田はそう言って目を押さえる仕草をしている。すぐにヘルメットのシールドを降ろして表情をシャットアウトしたあたり、本当に涙を流していた可能性もある。

「芦屋はいちばん練習した水面。芦屋で賞金女王の優勝戦に乗りたかった」

 思い入れの深い場所で、なんとか果たした優出。「明日は思い切りいくだけです」と最後に言葉に力が入るのも当然である。

 

 

 

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 他の優出は、山川美由紀、鎌倉涼。山川はなんともリラックスした様子が印象的で、その風格には恐れ入るばかりだ。オール外枠で優出だもんなあ。凄すぎる。鎌倉は、モーター格納の際、三浦と並んで作業していたのだが、表情が鮮明に違っていた。そりゃそういうもんでしょう。足は優勝戦ではちょっと厳しいというが、最年少のハツラツをレースでも見せてほしいぞ。

 まだ2回目という歴史浅い賞金女王。だが、その舞台の重みは出場した誰もがヒシヒシと感じている。明日はまさしく女子最高峰の舞台。思いを込めて、6人のナデシコは全力投球する!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)