BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――強い、以外の言葉が思い浮かばない

f:id:boatrace-g-report:20171212182801j:plain

 やはり、田村隆信には賛辞を送っておきたい。

 優勝戦を終え、モーターも返納し、控室に向かう道すがらに声をかけた。田村の第一声は「疲れました」だった。

 それはそうだろう。まず、極限までの減量。思わず「ゆっくりご飯食べてください」とまで言ってしまったが、田村はたった4日間で3kg以上も落としたのだ。減量は精神にも疲労をもたらすし、もちろん肉体的ダメージは小さくない。さらに、連日の前付け。田村はひたすら勝利だけを追い、そのための方策を考えつづけ、妥協することなく攻めた。「優勝戦がダメだったんで」と田村はまず悔しさも口にしたが、トライアルも優勝戦も徹底的に攻める姿勢を見せたのだから、文字通り、全力を尽くし、死力を尽くしたのだ。誰よりも疲れたのは、きっと田村だ。その姿勢を見せ続けてきたことは、優勝戦がシンガリ負けであることと関係なく、称賛に値するだろう。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212182812j:plain

 同じ意味で、毒島誠にも拍手を贈りたい。前検日、初日にもっとも働いたのはおそらく毒島。そして、それは今日も同様だった。11R発売中、優勝戦の他5艇がすでに展示ピットにつけられているというのに、毒島のボートは装着場にあった。10R発売中のスタート特訓のあと、ふたたび調整に取りかかったのだ。まさにギリギリまでの調整作業。毒島は絶対に妥協するまいと己を奮い立たせ、最後の最後まで戦いを続けた。初めての賞金王で、ひたすら走り続けた毒島。その戦いぶりは見事だったと言うしかない。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212182822j:plain

f:id:boatrace-g-report:20171212182829j:plain

 おそらく、他3人の敗者も、同じように戦ったのである。田村や毒島が目立っただけで、戦いに臨む姿勢は変わってはいない。だから、レース後の中島孝平はなんともスッキリした表情をしており、敗北への悔恨とやれることをすべてやったのだという充実感が、相半ばするような雰囲気を醸し出している。

 新田雄史は、やや表情を硬くしていたが、それは表に見えた雰囲気の方向性が中島と違っていたにすぎないだろう。新田には当然、師匠がそっと寄り添うわけだが、井口も特に言葉をかけるわけではなかった。新田がどういう戦い方をしてきたか、よくわかっていただろう。そして、もっとも身近にいる強敵であることを改めて認識しただろう。無言のままの師弟は、その意味で透明感をたたえていた。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212182838j:plain

 篠崎元志も奮闘したと思う。田村の前付けに対し、最終的に唯一ダッシュを選択した。結果にはつながらなかったが、篠崎が考え抜いて出した結論だ。そこに後悔はなかったと思う。元志に寄り添ったのは、まず仁志だ。仁志は元志に笑いかけ、元志はやや悔しげな表情を見せながらも口元に笑みを浮かべる。こちらもまた特に会話を交わすわけではなかったが、この二人に言葉は必要ないだろう。岡崎恭裕も合流した。岡崎は元志に最高の笑顔を向けている。まあ、岡崎はこの直前に、同県同期のある光景を眺めていて、その名残笑いかもしれないけど、岡崎が元志の健闘を称えていたのは間違いないだろう。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212182853j:plain

 優勝は池田浩二だ! 強いっすねえ。もはや、それ以外の言葉が出てこないほど、強い。2年ぶりの賞金王制覇となるわけだが、こうなるとやっぱり去年シリーズ回りになっていたことが不思議で仕方がない。

 今回は2年前に比べて、優勝戦1号艇でもそれほど緊張感はなかったようだ。たしかに、レース前に見かけた池田は、自然体に見えた。レースが近づけば当然ピリピリとしてくるわけだが、それでも肩に力が入っているとか、田村の前付けへの対処について考え込んでいるとか、そんな様子は少しもなかった。その時点で、池田は主導権を握っていたということなのだろう。

 優勝を決めてピットに戻ってくると、珍獣(?)が出迎えた。学名:イマイタカシトナカイだ。池田とも仲が良く、また福岡勢からはおもちゃにされっぱなしの今井貴士が、トナカイのかぶりもので池田を待ち構えたのだ。かわいい後輩の嬉しい祝福に、池田はボートを飛び下りてトナカイに抱きついた。その笑顔は、これまで何度も見てきたSG制覇後の笑顔よりもずっと弾けていたと思う。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212182900j:plain

 そうした様子もまた、SG9冠となった最強戦士の風格であり、余裕のように思えた。この男が賞金王を制するのはまったく特別なことではない。感動や歓喜のなかでガッツポーズをする必要もなく、仲間がギャグのような空間をつくるくらいがちょうどいい。それが池田浩二の強さであり、最強戦士たるゆえんなのだろう。

 昨年は思わぬつまずきを味わった池田だが、たった1年空白を作っただけで、またこの場所に戻ってきた。もう去年のようなつまずきはないだろう。ここからさらなる最強戦士物語が始まるはずだ。来年もある可能性が高いSG先頭ゴールのあと、池田は次に何を魅せてくれるのだろうか。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)