BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――朝とは一転……

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 朝はあれほど賑わっていたピットが、10~11R頃にはガラーンとなっていた。10R後には帰宿バスの1便が出発するので、選手の人数自体が少なくなっている。それにしても、レース間の時間帯は人影が少なく、報道陣の姿がちらほらと見えるくらいである。

 といっても、それはあくまでピットの装着場部分のお話。整備室を覗き込みにいけば、そこには山下和彦や吉田弘文の姿がある。10R後には毒島誠も長くここで過ごした。毒島はリードバルブを調整するテーブルにいたが、山下と吉田は本体整備の様子。吉田はすでにキャリーボディーの上部を磨いていて、すぐに本体をそこに装着しようとしている様子だったが、山下は入念に本体をいじっており、かなり長い時間、ここで過ごしている様子だった。7Rで得た手応えをもとにした整備、であろう。

 

 

 

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 係留所には、柳沢一のボートが置かれていた。ピンクの艇旗が刺さっているので、試運転を行なう模様。やがて柳沢はペラ室から姿をあらわし、装着すると水面へ。この時間帯、試運転をしているのは柳沢だけであった。結局、柳沢は11R発売中まで試運転を続けた。もちろん、もっとも遅くまで試運転をしていた選手、ということになる。試運転を終えると、整備室から吉田俊彦が駆けだしてきた。エンジン吊りのヘルプだ。この二人、86期の同期生である。吉田の駆け寄り方は実に自然であり、柳沢も自然に気遣いを受け入れていた。

 

 

 

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 その吉田は、プロペラ修正室で過ごす時間が長かった一人だ。ピットの一番奥の奥にあるペラ室。ここにいると、正直、その存在を見落としがちである。JLCで展望を担当している長嶺豊が、「吉田俊彦選手、もう帰ってしまったかなあ?」と途方に暮れていた。スタッフから吉田のコメントを聞いておいてほしいと頼まれていたのだ。しかし、吉田の姿は見当たらない。長嶺さんはピット内を探しまくったが、吉田を見つけられないでいた。すでに1便バスは出てしまっていて、これに吉田は乗り込んだのか。ああ、どうしよう……長嶺さん、困り顔だ。すると、奥のペラ室からトシ登場! 長嶺さんもホッと一息の様子だ。つまり、奥のペラ室は報道陣の死角にもなりやすい場所で、その分、集中して叩けるということもあるのかもしれない。

 吉田と寄り添っていたのは、吉川元浩。地元の僚友がそろってペラ調整に励んでいたという次第である。二人は肩を並べて整備室に入っていき、そのとき柳沢が試運転からピットに戻ってきたという次第。吉川はエンジン吊りをする吉田を装着場の隅で待って、それからやはり肩を並べて控室へと戻っていった。なんとしても地元の意地を見せなくては! 同じ思いで戦う二人の間には、自然と会話が増えていくことだろう。

 

 

 

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 さて、印象に残ったのは、10R後の平山智加の悔しげな顔である。道中は2番手を走りながら、最後は抜かれて3着。悪くない成績ではあるが、しかし不本意な結果ではあっただろう。

 平山はピットに戻ると、後輩らしく他の5人に挨拶をして回る。微笑が浮かんでもいて、礼儀正しい智加ちゃんらしいところも見えてはいた。だが、その合間に、少し顔が引きつる。どう見ても、悔恨をあらわしている表情だ。その顔つきを見ていると、もはやSGに気後れなし!と思う。あれは5年ほど前の丸亀SGのこと、予選で1号艇が回ってきた平山は、レース前ぼそりと「すっごい緊張します……」と消え入りそうな声で言っていたものだった。もはやその頼りなさげな平山智加はどこにもいない! 男女混合GⅠ制覇の偉業を果たしたこの尼崎で、さらなる大仕事を成し遂げてもぜんぜんおかしくないと思った。気配は悪くないから、狙い目も充分あると思うなあ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)