BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――真剣勝負に拍手!

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 まず、大変残念なことに、山口剛が帰郷となってしまった。9Rのフライングが、即日帰郷となるコンマ05以上のタイミングだったのだ(コンマ07)。ピットに戻った山口はさすがに沈痛で、辻栄蔵が慰めんと向けた笑顔もどこか虚ろだった。1号艇でのフライング、いや、そうでなかったとしても、やはりフライングの痛みを知っている選手仲間は、かける言葉もなかなか見つけられないだろう。山口も、どこか呆然とした表情を見せていた。

 コンマ07のFとわかり、モーター返納作業を始めた山口は、さらに痛々しかった。表情は消えたように固まっており、SGで初めて生じてしまった事象に対する呵責に襲われているように見えた。起こしが展示と本番ではまるで違っていたようで、こうなるとスタートタイミングはおそろしく難しくなる。それを感じた瞬間、慎重になっていれば……そんな後悔を山口は抱いたことだろう。

 フライングは責められるべきかもしれないが、しかし常に全力で戦いに挑み、真剣勝負を標榜して果敢な走りを見せる山口のスタンスは、ファンにとっても大歓迎できるもの。その意味で山口は、信頼できる選手の代表格の一人である。それを思えば、この勇み足は真剣勝負の直中で起きてしまったアクシデント。山口を傷つけるべきものではないと、個人的には信じている。これまでも数々の苦難を乗り越えてきた山口だから、きっと次のSGでも激しい戦いを見せてくれると確信しているが、とにもかくにも、山口にはこれにめげることなくさらに前進してほしいと願う。前期勝率ナンバーワンの意地は、次のグラチャンで魅せてほしいぞ!

 

 

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 とにかく、山口剛も含めて、選手たちは必死にSGを戦っている。レースでも、試運転でも、もちろん陸での作業でも。

 今日の午後の時間帯には、SGとしてはちょっと珍しいのでは、という光景が見られた。

 整備室(というか、本体整備を行なう整備場)がかなりの人口密度になっていたのだ。プロペラ調整が主流となっている昨今、ペラ調整場が満員御礼なのはいつものことだが、今日は整備場にも多くの選手が見られた。約1年も使ってきて、相場がおおよそ固まっている福岡のモーターだが、だからこそ大きな整備も考えつつ本体を割って、調整をする選手が非常に多く見られたのだ。

 たとえば、石野貴之。どうやら、クランクシャフト交換を考えたらしい。今日は3R1回乗りだったが、レース後はかなり長い時間、本体と向き合っており、整備を終えた頃にはすでに終盤の時間帯が近づいていた。クランクシャフトといえば、まぎれもない大整備。現状での足色は推して知るべし、ということにもなるわけだが、逆に言えば気配一変の可能性も秘めている。明日の雰囲気はぜひ水面でチェックしてほしい。

 

 

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 吉川元浩も、整備場にいた。今日の3Rもシリンダーケースを交換して登場しているが、レース後はさらに本体整備に取り組んでいた、ということである。本体にまだまだ手をつける余地がある、と感じているわけだ。忘れてはいけない、福岡は吉川にとってSG初制覇の地だ。そのSGとは賞金王だ。思い出の水面で、吉川はあの日を再現すべく奮闘を続ける。黙々と、徹底的に、相棒と向き合ってパワーアップをはかっているのである。

 

 

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 ほかには、前田将太、赤岩善生、白井英治などの姿も見えた。森高一真も本体整備をしており、森高の場合はさらにキャブレターも調整したようだ。このなかには初日好成績だった選手も含まれているわけだが、彼らは成績自体をパワーの指標にしているわけではなく、己の違和感を徹底的に解消しようと奮闘しているというわけである。

 

 

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 10R発売中には、まさに珍しすぎる光景を見た。今垣光太郎がキャリーボディー交換をしていたのだ。ボルトを締めているところを目撃したので、すでに交換自体は終わっていたようだが、これも大きな作業であるのは間違いない。キャリーボディーを交換するには、まず本体を外し、さらにギアケースも外さねばならず、(キャリーボディーの上に本体が乗っていて、下にギアケースがついている)さらにハンドルとモーターをつなぐワイヤーを外して、ステアリングバーも外して……と、装着したモーターをいったんボートから切り離さなくてはならない。他にも作業過程は山ほどあり、つまりはなかなか時間を要する作業なのである。ハッキリ言って、レースが間近に迫った選手が取り掛かっているのは、見たことがない。10Rが終われば展示ピットにボートを移動しなくてはいけない12R出走の選手は、まず手をつけない部分なのである。

 ドリーム組では、峰竜太や篠崎仁志、桐生順平らがギリギリまでペラを叩いていた。やれることはやり尽くして、という姿勢は今垣と同じだ。だが、作業自体の手間や所要時間は今垣のほうがはるかに大きい。結局、10R発走間際に交換作業は完了し、今垣自身「(試運転の時間はないから)ぶっつけ本番になりますね」と苦笑していた。

「今村さんにはかなり分が悪かったんですよ。だから、一か八かやってみました。当たるといいんですけどねえ」

 ドリーム戦は4着。まさに今村に競り負けた。明日、さらに調整を続ける今垣の姿があるだろう。こうした光ちゃんの姿をSGで見る……これこそが自然なことだと思えて、ちょっと嬉しかった次第であります。

 

 

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 さてさて、地元の期待を背負ってドリームに登場した篠崎仁志。結果は6着だったが、足色は厳しいのか、ピストンリング2本を交換してレースに臨んでいる。6コース発進ということで、どこまで上向いたかについては、なんとも判断が難しいが、ピットでの様子を見ていると、なんとも厳しい表情で調整に飛び回っている。そう、かなりピリピリしているように思えてならないのだ。

 SGだろうが新鋭王座だろうが、篠崎仁志はとにかくハツラツとしていて、笑顔も多いし、陽気さあふれる雰囲気である。BOATBoy6月号の巻頭インタビューでは「難しい顔してても、周りに気を使わせるだけじゃないですか」と言って大笑いしていたものだが、その“難しい顔”が随所に見られているのだ。周りに気を使わせるのなんてぜんぜんかまわないと思うが、普段とは違う様子であるのがやはり気になるところ。それだけ気合パンパンと受け取るべきだと思いつつも、心配になったりするわけである。明日はどんな顔を見せてくれるのか、それがなんとなく気になっているという次第なのだ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)