BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――三井所に拍手!

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171213144139j:plain

「峰選手、検査室へ」

 1R発売中、わりと静かだったピットに、そんなアナウンスが流れた。ペラ室からあらわれる峰竜太? いったい何事かと、峰は怪訝な表情だ。

「峰選手、くつーっ!」「ああっ! あったんですか?」

 ???? 峰竜太、靴なくしたの? 顔をほころばせて検査室に駆け込んだ峰は、ケブラー製のシューズを受け取っていた。レース用シューズである。

「尼崎に忘れてきちゃったんですよ。荷物あけたら、あーっ、くつがないっ!って。よくやるんですよね~」

 よく忘れ物するのか、峰竜太(笑)。これも彼らしいという気がしないでもないが、送ってもらってよかったっすね! ちなみに、なぜ検査室に受け取りに行ったかといえば、前検日の私物検査以降に外部からのものを受け取るときは、それが持ち込み可能なのか、問題がないのか、検査を受けなければならないから。こうして公正は保たれているわけです。

 

f:id:boatrace-g-report:20171213144159j:plain

 さてさて、2日目の朝は、少し述べたとおり、わりと静かなのだった。整備室を覗くと、ほとんど閑散としており、森高一真がギアケース調整をしているのみ。森高が作業を終えたあとは、同じ場所で鎌田義、松井繁が立て続けに作業をする、といった具合で、整備室に選手の姿を見つける機会は実に少なかった。

 もちろん、ペラ室はいつもどおり、賑わいを見せている。以前の浜名湖ピットだったら、屋外にペラ調整所があったため、ひっきりなしに金属音が響いていたものだが、室内にまとめられた現在、カンカン音はほとんど耳に届いてこない。したがって、空気が震える感じがあまりしないのだ。

 

f:id:boatrace-g-report:20171213144215j:plain

 そんななかで、池田浩二がペラ室から出てきて、自艇のもとに歩み寄った。カウルに肘をつき、ペラをじっと見つめる。これがけっこう長い時間となった。様子としては、叩いたペラの状態をチェックしているわけなのだが、それだけとは思えないほど、凝視し続けているのだ。というわけで、そんな姿をメモに書きとめる。こちらも帳面を凝視してペンを走らせた。書き終えて顔を上げる。ええっ!? 池田浩二が消えた! メモをしているほんの数秒の間に、池田の姿が煙のように消えていたのだ。イリュージョン!

 結局、池田は僕が視線を外した間に整備室に入っていったようなのだが(整備士さんと話していました)、メモをしていた時間を考えれば、ペラ凝視→整備室の動きは超抜のスピードだったということになる。じっと止まった状態から、一気に動き出すとは出足抜群! 最強戦士は陸の上での動きまで超絶なのだと感心した次第である。ま、僕がメモをしていなかったら、「ペラを見たあと、整備室へ」というだけのことなんですけどね。

 

f:id:boatrace-g-report:20171213144231j:plain

 空気がにわかにざわついたのは、1Rだ。三井所尊春がチルト3度で出走したのだ。もちろん、3度のアナウンスがあった時点で、まずはどよめきが起きている。本番レース、6コースからぐーっと伸びていったときには、観戦している誰もが声をあげていた。三井所は伸びなりにまくっていったのだが、赤岩善生ががっちりと受け止める。その瞬間、みんなの溜め息が聞こえてきた。

 それでも2着に粘った三井所を出迎えた面々は、実に嬉しそうな笑顔を三井所に向けていた。先輩の深川真二が何事か声をかけ、岡崎恭裕も声を弾ませて話しかける。瓜生正義もニコニコと言葉を投げていた。それらに対して、三井所は笑顔。いや、満面の苦笑い、というのが正確な表現だろうか。チルト3度で、たしかに伸びた。だが、叩き切れなかった。それでも2着。やることはやったという充実感もありながら、思いが実り切らなかったという悔恨もある。そんな複雑な思いが、大きな大きな苦笑いを生んだのだろう。だから、エンジン吊りが終わり際に三井所が叫んだのは、笑顔を浮かべつつの「ああーーーっ、あと少しだった!」であった。

 ともかく、このチャレンジは称えられなければならない。結果も、勝利の次の好成績なのだから、ここは拍手するべきであろう。この男には常にこれがある。それが浸透すれば、三井所の名前が出走表にあるだけで俄然、レースは光を増す。なお、三井所はその後すぐに取り付けを下げたようである。2走目は3号艇だから、まあ妥当であろう。三井所よ、6号艇のときにはぜひまた3度に挑戦してくださいね!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)