BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――そこにいたのは……

 

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山口達也が、小さい写真の青い台のところに立って、何か喋っているのである。写真には燃料係の方が写っているが、そのときは誰の姿もなかった。独り言? それにしては、かなりハッキリと、しかも誰かと会話しているような話し方。まさか、凡人には見えない誰かがそこにいたのか!? 勝利の女神なのか、それとも……。ちょいと異様な雰囲気に、そのときはカメラを向けることができなかったのである。

 

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 しかし、そこに人はいた。白い壁の向こう、死角になっている部分に、この人がいたのである。

 吉田拡郎。そんなところに座り込んで、何をしているのだ!?

 よく見ると、吉田の手にはメモにペン。気象条件や調整の数値を書き込んで、“カクローメモ”を作り上げているのだろう。そのメモを見つめながら、微動だにせず考え込む拡郎。この積み重ねが彼を進歩させ、記念Vを果たすところまで辿り着いた。メモに書き込まれる文字と数字が増えるたびに、拡郎は強くなる。その蓄積がいつか、SG制覇に辿り着く道筋となるのかもしれない。

 おそらく拡郎は、自分の世界に入り込むべく、ほとんど目につかないこの場所にしゃがみ込んでいるのだろう。それを見つけた山口が、拡郎に話しかけたのが先のシーン。今後、そこで誰かが(特に岡山支部が)喋っていたら相手はカクローだと一発で感づくだろうが、今日のところは驚いたという次第である。

 

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 午後のピットは、表情がけっこう分かれていたな、と思う。8Rで見事な4カドまくりを決めた太田和美は、やはりにこやか。まあ、こうした太田は珍しくないが、特に大きな作業もせずにゆったりとしつつ、穏やかな顔を見せているときというのは、特に好調な場合が多い。昨日は思わぬ大敗もあったが、3連覇に向けての視界は良好と言えるだろう。

 

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 勝てはしなかったが、6コースから2着をゲットした辻栄蔵も、レース後はやはり顔がほころんでいた。桐生順平との接戦を制したものであり、道中では接触もあって、桐生には気を使っていたが、きっちり競り勝ったことは充実感につながっただろう。今村豊にからかわれるように声をかけると、アハハハ!と顔がはじける。前半の大敗を帳消しにするものでもあったから、やはり気分上々なのは間違いない。

 

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 その桐生順平は、やはり悔しさを隠せない雰囲気。いや、決して感情を表に出すことなく、ぐっと内に押し込めているようではあったが、やや引きつった頬には、無念がにじみあふれている。いったんは差して残しての2着、場合によっては逆転もあり、てな隊形だったから、捌かれたことの屈辱は小さいわけがない。いいぞ、桐生。とことん悔しがればいいんだ。このレースを何度も脳裏で振り返りながら、桐生はさらに強くなっていくだろう。

 

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 成績は上向きなのだが、田村隆信も表情が柔らかくなる場面は少なかったように思う。いや、誰かと絡んで笑い合うような場面が少ない、というほうが正しいだろうか。かなり恣意的な表現をするなら、孤高。ようするに、一人黙々と動いている場面のほうをたくさん見る、ということである。

 結びつけてしまいたくなりますね、田村の勇敢なレースぶりと。特に枠なり全盛の現代において、前付け派は他者にとっては厄介な存在。まして変幻自在の田村は、我々は大拍手の大評価ではあっても、選手としてはできれば対戦を避けたい一人であろう。そして田村は、多くのイン屋がそうであったように、そうした捉えられ方を自覚し、受け入れているのではないか。今日も6号艇で前付け3コースだったわけだが、すべてを認めたうえで、自分を貫いているはずだ。そんな田村はやっぱりカッコいい! 黙々粛々の田村は、実に男っぽいのだ。

 

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 さて、今日も今村豊オンステージ! 10R発売中、青山登さんが喫煙所にいたので連れタバコしようとして寄って行ったら、会話の相手が今村豊。今日も楽しいミスタートークを堪能したという次第だ。今日のテーマは、レース、そしてゴルフ。いや、ゴルフ、そしてレースと言うべきか(笑)。今村のゴルフの腕前は艇界屈指、青山さんとご本人の話によるとドライバーの飛距離も相当だという。今村曰く「飛距離で大事なのは右腕のパワー。自分はレースで右腕を使うから、それで鍛えられてる」。ホンマかいなとも思うが、右腕を使うのはもちろんハンドルワークで、今村のハンドルのセッティングは誰よりもガッチガチに硬く、パワーが必要だと言われている。今村はそれを自由自在に操っているわけで、そう言われると「なるほど」という気もしてくるわけだ。ま、僕はゴルフしないので、やっぱり話にはついていけないのだが、そんな僕をも笑わせながら話してくれるミスターは最高だ!

 あ、レースについての話題はもちろん、今日のレースの件である。瓜生正義にまくられながら、2着に残したあのレースだ。足は「直線はいいが、福岡のときのような回り足がない」とのこと。だというのに、まくられた後にきっちり捌いているのだから、この人の技術はやはりワールドクラスなのだ。「いや、もうとっくに錆びてますよ。メッキしても、すぐに剥げるんだから」と言って嬉しそうに笑う今村。それを肯定できる人は、この世界中のどこにも皆無であります。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)