BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――ひたすら苛酷

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171213150926j:plain

 作業を終えた江口晃生が、にこやかに目の前を通過しながら言うのである。

「あ~あ、つまらないから、今節は肉体改造だぁ、もぉ!」

 たしかに、今節の江口は大苦戦だった。ペラは「壊れるかも」というくらいに大きな叩きを入れていたのに、まったく正解が見つからない。着順は不完全燃焼なものばかりで、昨日の時点で準優進出は絶望的だった。そりゃ、つまらんよなあ。それでもにこやかな江口さん。腕立て伏せの仕草をしながら、笑顔で控室へと去って行った。ペラが良化しないのなら、自分の肉体を良化させる!? 今頃宿舎で本当に腕立て伏せをやってるのでしょうか。

 

f:id:boatrace-g-report:20171213150942j:plain

 その直後、鎌田義も浮かない顔でぼやいていた。

「SGも予選落ちしたら、なんもおもろくないな」

 言うまでもなく、面白くなくなったのは今日の6R、予選突破が絶望になった瞬間である。それまでのカマギーは必死に調整を繰り返していたし、気合も入っていた。「(レースも)しっかり頑張ってきますわ!」とにこやかにほほ笑む姿は、SGの苛酷な戦いを楽しんでいるものだった。しかし、目標を失って、鎌田は一気に落胆したのだ。おもろくない、というのは、まさに落ち込んでいる気持ちを表現したものである。それでも、選手仲間の前では明るくふるまい、話題の中心にいる鎌田だが、浜名湖の宿舎は個室、自分の部屋に戻ったときには溜め息をつき、悔しさに身もだえすることだろう。

 

f:id:boatrace-g-report:20171213151001j:plain

 10Rを快勝したのは湯川浩司である。4カドからまくり一撃。やっぱり伸びは超抜だった。時が訪れれば、大爆発する。優勝争い必至と思われたパワーながら、2日目にして終戦を味わった湯川にとっては、少しは鬱憤晴らしの勝利となっただろうか。

 いや、なっていないのかもしれない。ピットに戻った直後こそ、兄弟子の田中信一郎と肩を並べて笑みをこぼしていたが、その後はちーっとも嬉しそうじゃない。その勝負に勝ったことの喜びは多少はあっても、決してこのグラチャンという大目標に敗れ去った心を完全に癒しはしない。とりあえず意地は見せたというのはあくまでも外野からの観点であって、勝っても失ったものを取り戻せないという状況は、ポジティブなほうに針を振り切ってはくれないだろう。

 

f:id:boatrace-g-report:20171213151024j:plain

 そういえば、やはりフライングを切ってしまい、その後の予選をすべて6着に敗れてしまった岡崎恭裕も、明らかに浮かない顔をしている。精気も感じられず、くすんだような印象さえ受ける。岡崎も、先輩たちと大方同じような心境であろう。まして、6を並べてしまっている状況に、元気を出せといっても無理な話であろう。SGというのは、敗者に大きな大きな心の振り幅を強要する、なんとも激烈な舞台である。艇界最高クラスの戦いがそういうものであるというのはもちろんわかっているが、今日改めてそんなことを思わされた次第だ。SGの中のSGといわれるグラチャンだからこそ、そんなシーンが鮮明に浮かび上がってくるのだろうか。

 

f:id:boatrace-g-report:20171213151044j:plain

 さてさて、勝負駆け。菊地孝平がまさかの大敗を喫したり、予選トップの目があった深川真二が6着に敗れたりと、上位のほうで意外な結果はあったものの、極端に大きなアプセットはあまりなかったというべきか。瓜生正義や太田和美はきっちりと好成績で準優好枠を手にし、服部幸男もきっちりまとめて準優1号艇だ。1着勝負を成功させたのは森高一真で、まあやっぱり少しはゴキゲンの様子であった。湯川にまくられながら2着競りをしのいで17位へと潜り込んだ烏野賢太も、充実感あふれる様子ではあった。

 

f:id:boatrace-g-report:20171213151116j:plain

 で、予選トップとなったのは今村豊。11Rは3着以上でトップ確定という状況で、さらりと3着に入ったように見えて、ピットには感嘆の溜め息が充満したものである。そして、SG2節連続予選トップという快挙にも、ミスターは昨日までと何も変わらない。絡む人すべてに冗談を飛ばしては、嬉しそうに笑っているのみ、である。レース直後は毒島誠の肩を叩きながら、なんか嬉しそうに笑ってたし。いろんな意味で、凄すぎである。

 

f:id:boatrace-g-report:20171213151137j:plain

 で、個人的にちょいと気になったのは、予選ラスト走を1着で締めて、準優3号艇を手にした中島孝平である。準優当確ではない戦況、ただし1号艇、さらに2コース吉田拡郎の意表を突くツケマイなど、状況はなかなかに複雑だったと思うのだが、それでも勝ち上がってきた中島は、いつもとまったく変わらず淡々とし、特に笑顔も見せず、ごくごく平静に振る舞っていた。「いつも通り」というなら、これもミスターと何ら変わらない姿なのである。昨日までは3着4本に4着1本と、正直あまり目立っていなかった中島。だが、この1着で俄然怖い存在になってきたと思うが、果たして。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)