BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――嗚呼、同世代の王者決戦よ!

 

 

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「王者決戦を制したな!」

 太田和美がにこにこ顔で声をかける。9R、6号艇6コースから見事に勝ち切った濱野谷憲吾は、「やっちまったよ~」てな笑顔を太田に返した。たしかに、濱野谷の勝利は素晴らしかった! インが強い丸亀で、6コースから勝ち切ったのだから価値も高い。7年4カ月ぶりのSG制覇をおおいに期待させてくれる走りっぷりは、特に関東モンの我々からすれば実に心躍るものである。

 でも……王者決戦って何?

 

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 王者といえば松井繁。そして、このレースの4号艇は松井である。太田も松井のボートの先端をとって、率先して引っ張っている最中に濱野谷に声をかけている。絶対王者・松井繁。で、濱野谷はナニ王者?  濱野谷といえば東都のエース。そしてファンタジスタ。でも、王者と呼んだ記憶も聞いた記憶もない。陸の王者は……慶応だっけ? ボートレーサーが陸の王者といわれても嬉しくないか。

 でも……やっぱり王者決戦だったのだ、9Rは! 少なくとも濱野谷と松井、その周辺の間では王者決戦なのである。

 つまり、同じ時代を戦った――鬼のような怖い先輩たちに立ち向かい、時代を変える役割を果たし、やまと卒業の若い世代が台頭してきた現在でも第一線をしりぞくことのない彼らにとって、今節の濱野谷の活躍は心沸き立つことなのだろう。特に太田は、初日にバックで真っ向勝負を演じている。濱野谷の気配をもっとも近いところで感じた一人なのだ。自分にもおおいに刺激となっているに違いない。

 

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 で、松井も敗れたとはいえ、なんだかいつもと様子が違うのだ。悔しさをグッと噛み締め、孤独に耐え……といった敗戦後ではなく、「やられちまったよ~」とばかりに苦笑いを浮かべて、濱野谷の背中を見ている感じ。そして、太田らと和やかにレースを振り返り、一言ボソリと「あ~んのヤロぉ~~~」と苦笑交じりの笑顔。誤解を恐れずに言えば、やはり濱野谷の活躍を喜んでいるように見えて仕方ないのだ。さらに言うなら、王者決戦に敗れたことを心から悔しがりつつ、どこか共感を抱いているというか。そんな王者の姿も、実に素敵でありました。

 現時点で賞金王出場当確といえるのは、菊地孝平、松井繁、山崎智也、太田和美。菊地がやや若い世代ながら、全員が3000番台。菊地以外は、90年代に世代交代の立役者となってきた強者たちである。今、この世代が2014年の艇界の中心にどっかりと座っているのだ。そして今節、同世代でキラ星のごとく輝いてきた濱野谷があのころの鮮烈な走りを取り戻したかのような活躍を見せている。こう書いていて、なんだか僕も嬉しくなってきたな。僕も同世代ですから。あのころ、同世代の活躍を目の当たりにしてきたから。

 というわけで、誰が何と言おうと9Rは王者決戦であり、濱野谷はそれを制したのだ! 濱野谷がナニ王者なのかは、明日からの戦いぶりに熱狂しつつ、ゆっくり考えることにしよう。

 

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 前半のピットで、ちょっと気になるシーンを見かけていた。記事にはしなかったが、辻栄蔵が「お前、何したん?」と大声で問いかけていたのだ。相手は寺田祥。寺田はそのとき、試運転を切り上げてボートを陸に上げており、辻は係留所からピットに戻りながら、寺田にそう声をかけたのだった。二人は水面で何度か足合わせをしていたようだった。

 これもやはり9Rだ。濱野谷の笑顔をほっこりと眺めていると、僕の目の前でテラショーが辻に歩み寄った。耳元でボソボソと何事かをささやくと、出たーっ! 「アーッハッハッハッハハ!」。時折ピットに巻き起こる栄蔵ビッグラフ。これがもう、心の底から嬉しそうな爆笑で、それを見るたびこちらも嬉しくなってしまうのである。

「お前、何したん?」の意味を、前半のピットでは少し考えていたのである。足合わせをした、辻はテラショーに何かを感じ取った、「何したん?」……もしかして、テラショーの足が激変していた? つまり、何したん?はペラを叩いたのか、本体を整備したのか、部品を交換したのか、何したん?ではなかったのか。そんなことは記者席に戻る頃にはすっかり忘れていて、濱野谷アタマの舟券を抑えていながらテラショーは抜けたわけだが……。結果3着(いったんは2番手を走った)となり、大敗地獄は抜け出したテラショー。そんなこんなでアーッハハハハ。ま、推測にすぎないんですけどね。ともあれ、たしかにテラショーの表情が少し明るくなっていたのは確かである。明日は外枠(1R5号艇)だし、ちょっと押さえてみようかしらん。

 

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 なお、この9Rで1号艇だった吉田弘文は、さすがに悔しそうだったなあ。前半3Rはまくり差し快勝、オール舟券絡みで快調だっただけに、この1号艇大敗は痛かっただろう。今節は俊彦も拡郎も、そしてこの弘文も、「吉田」が大暴れ! そのなかでは一歩後退ではあるが、だからこそ逆に明日は闘志あふれる弘文が見られるに違いない。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)

 

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10Rイン逃げ快勝で3連勝。予選トップに立った吉田俊彦。レース後、全員に丁寧に頭を下げていた姿が印象的でした。後輩の前田将太にも同じようにしていましたぞ。素敵だ!