東京在住の人間としては、濱野谷憲吾の優出はデカいのである。平和島賞金王に東京支部不在は許されんでしょう！ オーシャンカップ前の時点で賞金ランク18位以内に東京支部は皆無。濱野谷の優出は、一気のランクアップ、場合によっては一気の当確！まで期待できる出来事なのだ。
濱野谷がそこまで意識していたかどうかはわからない。でも、レース後の濱野谷は実に爽快な笑顔だった！ 平石和男に祝福されて、憲吾スマイルが弾ける。出迎えた東京支部の仲間たちも、やはり賞金ランクうんぬんを考えていたかどうかは別として、実に頼もしそうに笑顔を向けていたのだった。
「ここまで無欲できたから、明日も無欲で」
と濱野谷は言う。いや、たまにはガツガツいく憲吾も見たいなあ。ちなみに、準優は緊張して体が動かなかったという。準優１号艇、思うところはいろいろあったのだろう。それでも逃げ切ったのだから、足は文句なし。今日を乗り切ったのだから「明日は体も動くでしょう」という濱野谷の言葉を信じることにしよう。
レース後に、心から爽快に笑っていたのは濱野谷くらいだろうか。２着組は、優出できたことへの安堵や歓喜もありつつ、やはり１着時よりは喜びも控えめであろう。徳増秀樹は実に淡々としており、まあこれはいつも通りか。服部幸男に「よかったな」と祝福されたときには、ニコリと笑顔を見せたが、もともと歓喜爆発というタイプではない。
で、徳増は共同会見が面白い。とにかく饒舌なのだ。言葉の感覚も独特。１マークで野外攻めは「体が勝手に反応した。判断というより、感じるままにいったんです。体が『こうしろ』と言ったんです」。実際は、徳増なりの戦略もあったはずだし、コンマ何秒での判断もあったのだろうが、徳増はそう表現するのだ。かと思うと、「自分のことより（11Ｒの）重成くんが楽しみ。グラチャンで服部さんと菊地くんが優出しましたけど、地元が優出したら盛り上がりますもんね」なんて言ったりもして。徳増ワールド、というものが確かにあるのだ。
田中信一郎は、レース後にもかなり力強い雰囲気を醸し出しており、大逆転２着のレースに手応えを得たのではないかと思える。レース後は実に丁寧に仲間たちに頭を下げて回っていたが、なかでも平石和男に礼を述べていたのが印象的だった。平石は信一郎に寄り添って、腰のあたりをポンと叩いて祝福。地区とか支部とかに関係なく、平石が頼られる先輩であることがうかがえた。しっかし、すごい逆転劇だったなあ。畠山が一貫して「節イチ」と力説していたわけだが、その見立て通りだろう。吉田拡郎も「朝、田中さんと足合わせをさせてもらったら、同じくらいだった。ということは節イチだなって。あ、節イチタイ、ですね」と言っている。５号艇とはいえ、おおいに不気味な存在だと思うが、どうか。
で、もう一人の２着・池田浩二は、最初はニッコニコだったのである。レースを終えてボートリフトに乗り込む前には、出迎えた仲間に向けてガッツポーズをしている。優勝者かと思えるガッツポーズだったぞ。後輩とのワンツー決着が嬉しい部分もあっただろうか。
その後もゴキゲンの様子ではあったが、会見場にあらわれ、着席して優勝戦のメンバーを目にした瞬間、「エッ!?」と言って沈黙し、顔が曇った。すぐに「あ、始めましょうか」と気を取り直してはいるが、やはり衝撃的だったのであろう。そこに杉山正樹の名前がないことが。
杉山正樹、待機行動違反により賞典除外。ピットでモニターを見ていた報道陣は、重成一人の内側に艇をねじ込んだ時点で、騒然となっていた。これ、大丈夫なのか？ 強烈な出足で杉山が逃げ切って、さらに懸念は深まる。杉山自身、気になってはいたのだろうか。レース後は、やけに淡々としているようにも見えていた。
審議中、とピットに連絡が入り、競技棟の入口はにわかにざわついている。本来であれば、杉山は地上波放送のインタビューを受け、さらに公開勝利者インタビューに向かうのだが、競技棟の入口で待機することになった。このときには、自分が置かれた状況を杉山は理解していただろう。裁定を待つ間、杉山はどんな思いでいただろうか。
やがて、「アウト」と連絡が入った。それを聞かされた杉山は、「ダメか……」という感じで顔をゆがめ、肩を落とした。半ば覚悟していたとしても、できればセーフであってくれという思いがなかったわけはなく、それがかなわなかったことは、杉山の心を暗転させただろう。そしてそのとき、池田らにはまだその報が伝わっていなかったわけである。
この挫折に、杉山は心折れないでほしいと思う。リベンジという言葉が正しいかどうかはともかく、それに類する結果は今後のＳＧで出すしかないのだ。またこの場に来て、準優に乗り、今度はクリアしなければ、杉山の無念にケリはつかない。頑張れ、杉山。次は準優を終えて心から笑顔を見せる杉山正樹に会いたい。
で、これによって繰り上がった瓜生正義は、さすがに複雑な思いがありそうだ。ちょうど杉山の待機行動違反の報が入ったころ、瓜生は岡崎恭裕とリプレイを見ながらレースを振り返っていたが、そのときはまさか自分が繰り上がるとは思ってもいなかったようで、わりとのんびりした雰囲気だったのである。
それでも、瓜生は「乗ったからには全力で」とも言っている。６号艇６コースでだって勝てる男なのだから、優勝の可能性はもちろんある！ 何しろ、前回のこのようなケースで繰り上がり優出→６号艇で優勝という軌跡を、ともにレースを見ていた岡崎がたどっているのだ。あの再現があっても、まったく驚くに値しないだろう。
最後に、吉田拡郎！ 先ほど少し書いたように、節イチ（タイ）宣言も飛び出しており、足は万全。さらに「これ以上できないくらい、気持ちを入れて臨んでいる」とも会見では語っていた。機力も気力も超抜！ なにより、気持ちの充実が、優勝戦を１号艇で迎えるにあたって、大きいと思うのだ。
そう、実際は節イチ（タイ）宣言も、拡郎の気持ちが言わせたものだ。決して震えることなく、強い気持ちで「誰にも負けない」と言い切るあたりが、拡郎の気持ちの充実度をあらわしていると思う。
今年は勝負だ、と考えている。すべての節で、気合を入れて戦っている。一般戦でも記念でもＳＧでも。「だから、今年が終わったときにはヘトヘトになってるでしょうね」と拡郎は笑う。その前に、明後日の拡郎もきっとヘトヘトになってるんだろう。それほどまでに、明日は闘志を燃やして白いカポックを着る。空回りさえしなければ。新たなＳＧ覇者が誕生するのを、海の日の夜に見ることになる可能性はおおいにあるだろう。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 ＴＥＸＴ／黒須田）
