BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――心が強かった

 

 

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 7R頃、10R頃と、優勝戦の前に2度ほどピットに入った。そのときに見かけた吉田拡郎は、基本的には序盤の時間帯に話した拡郎と変わったところが見当たらなかった。仲間とは笑い合い、一人になればグッと気合のこもった表情になり、優勝戦1号艇の重圧に怯んだようなところがまったくない。予想では濱野谷の逃がし率がどうとか、徳増の攻めがどうとか書いていたけど、ピットで見る拡郎はもう、どこにも死角はないようにさえ見えた。

 それでも、展示が終われば、緊張感も襲ってくるはず。そんなふうに決めつけて展示から戻ってくる拡郎に注目したが、レース前のピリッとした雰囲気はあるものの、まるでガチガチになっているようには見えない。拡郎の足色を思い出す。「節イチ(タイ)ですね」という言葉も。本番のピットで異変が起こらない限り、拡郎の優勝はカタいのではないか。そう思えてならなかった。

 

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 圧勝! 強かった。徳増秀樹の仕掛けにも動じず、瓜生正義がまくり差しで迫って来ても動じず、「100%のターン」で一気に突き放す。もちろん、仕上がりは万全だった。他が攻め切れなかった部分もあったかもしれない。機力とハンドルワークが抜群に噛みあった勝利。そういうこともできるだろう。だが僕は、これは拡郎の心の強さがもたらした勝利だと思う。

 そう、拡郎は心が強かったのだ!

 もともとの性格がどうとかいうよりも、「今年は選手生活のなかでもっとも気持ちを入れる1年」と決めて、それを実践しているということだろう。怯まず弛まず惑わず、決意を貫き通す。これこそが、4月の初GⅠ制覇、前節のGⅡ優勝、そして今回のSG制覇をもたらしたとしか思えないのである。

「これで達成したとは思いません。金のヘルメットが達成だと思います」

 涙がいっさいなかったレース後も、この言葉を訊けば納得できる。心に決めたカクロードは、まだ道の途中なのだ。

 それでも。表彰式を終えた拡郎を待ち構えて、約束通りに渾身の拍手を送ると、拡郎は嬉しそうに笑顔を見せた。そして握手。その握手は、たしかに力強いと言えるものではなかった。拡郎の言った「達成していません」という言葉が、間違いなく符合する握手だった。

 

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 敗者に関しては、「みな風のように去っていった」という印象が強い。ナイターレースというのは意外とそんなところがあり、帰りの交通機関の時間も気にしているんだろうな、と思う。わりと遅くまで選手を見送っていたのだが、岡山支部と地元勢は別とすれば、わりとゆっくり残っていたのは東京勢と瓜生正義(住まいは東京か)と愛知勢。今日中の帰宅が難しく後泊必至の面々だったりするのは、偶然ではないと思う(愛知勢の場合は、杉山正樹の慰労を兼ねた打ち上げ敢行、という可能性もあるな)。田中信一郎は大阪支部の面々とわりと早くレース場を後にしていた。

 

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 もちろん、それぞれに悔しそうな表情や苦笑いは見られた。準Vに終わった濱野谷憲吾からは溜め息が聞こえるような苦笑いが何度もこぼれていたし、池田浩二は疲れ切ったような表情も見せていて、レースぶりに納得していないのは明らかだった。

 

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 いちばん悔しそうだったのは、徳増秀樹だ。エンジンに手応えはあり、スタートはもっとも早いタイミングを決め、1マークは仕掛けて、やれるだけのことはやった。だからこそ、悔しさがより大きくなるのだ。悔いはないかもしれないが、悔しさは大きい。そういう選手を、表情を、僕は何度SG優勝戦の後に見てきただろう。モーター格納の間もほとんど口を開かなかった徳増。その様子からは、悔しくて悔しくてたまらないであろう心中が察せられるのだった。

 

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 さてさて、吉田拡郎はSG初優勝。そうです、もちろん水神祭です!

 川﨑智幸、山口達也の岡山勢(イーグル勢)と、三嶌誠司&重成一人の地元勢。三嶌が音頭をとり、重成がムチャブリするという、なぜか地元勢主導の水神祭だったが(笑)、水面に放り投げる際には岡山勢が前列に出て、拡郎を持ち上げている。

 拡郎は4人に持ち上げると、身体をピーン。肉体の塊となって、激しく水面へと投げ込まれたのだった。それはまるでカクローロケット! で、案の定、つづいて後輩の山口もタッチャンロケット! 先に陸に上がった山口が万雷の拍手に応えるという、お約束みたいな展開もありつつ、ずぶ濡れの拡郎には幸せな祝福が降り注がれていた。

 

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 おめでとう吉田拡郎。カクローが宣言する「今年はこれ以上ないくらい気持ちを入れる」を、これからのSG戦線でも見せてもらうことにしよう。ただ、今日だけは一息入れて、美味い酒に酔いしれてください!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)