BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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TOPICS 初日

トリプル交差

 

 

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 予期せぬ、美しいものを見た。それはまるで、3人のレーサーによる「3艇交差旋回アトラクションショー」のようだった。11Rだ。1マークは穏やかな展開で、インの濱野谷憲吾がすんなり逃げきった。簡単に1着が決まった代わりに、2着争いは熾烈を極めた。バック中間、内から池田浩二-中島孝平-辻栄蔵の順でビッシリ舳先を揃えている。

 

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 1周2マーク、それぞれがそれぞれのターンをして2周ホームへ。今度は内から辻-池田-中島の順に替わっている。中島が少し後退したが、まだまだ予断を許さぬ団子状態だ。

 2周1マーク、それぞれがそれぞれのターンをして2周バックへ。私はハッと息を呑んだ。内から中島-池田-辻の順で、再びビッシリ舳先を揃えていた。普通、3艇の競り合いというのは長続きしない。1ターンで誰かしらが脱落するものだ。が、この3人の隊形は、2度ターンしても崩れなかった。内外の順列を替えながら、ぴったりと呼吸が合い続けている。かなり、レアなシーンだ。

 

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 そして、2周2マーク。それぞれがそれぞれのターンをして3周ホームへ。もはや私は、その光景をうっとり眺めていた(憲吾アタマの舟券を買っていたら、まったく逆のテンションだったろう)。内から辻-中島-池田でほとんど横一線なのだ。回っても回っても、クルクルとシフトを移動しながら、3人は競り合い続けている。真剣勝負をしている3人には申し訳ないが、私の目には精緻に訓練がなされた航空アトラクションのように見えた。逆に言えば、ゴリゴリの真剣勝負でこれほど美しい交差旋回が続いたことは、奇跡にも近い出来事だと思う。

 あ、そういえば……3人とも賞金王じゃん。

 この事実に気づいたとき、私の両腕に少しだけ鳥肌が立った。

 

今日のメニューは……?

 

 田村隆信が、やった。やらずに、やった。12Rのドリーム戦・本番、6号艇の田村は小回り防止ブイを過ぎてから一気に加速して2コースを獲りきった。これには、さすがの王者・松井繁も呆れたかもしれない。スタート展示で、4号艇の王者は「絶対に俺の内には入れさせん、地獄の底まで付き合うぞ!」みたいな凄まじい気迫で加速し、深い3コースを選択したのだ。たとえハッタリ半分だとしても、艇界に君臨する王者がここまで意思表示をしたのである。並みの後輩選手なら前付けなど1ミリも考えないだろう。で、このとき田村はどうしたか。一度は動く素振りを見せたが、それから静かに減速した。

「松井はん、何をそんなに気張っとるんですか~」

 

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 みたいな風情で、のんびりとダッシュ水域へと向かって行ったのである。まるで、居心地のよい我が家に帰るように。王者の威圧、田村本人の選択、さらに言うなら3号艇には賞金王ファイナルで突っ張りとおした毒島の存在……それらの要素を合体させれば「今日ばかりは田村も枠なりの6コースだな、勝負駆けってわけでもないし、ドリームは加点もあるし」と思って当然だろう。私もまた、9割がた6コースと思っていた。嗚呼、今日もまたしてやられた。

 本番での田村の動きは、あまりも迅速だった。向こう流しからいきなりエンジンを噴かして、全速でホーム水域に突撃した。松井も毒島も追いかける素振りを見せたが、間に合わない。また今日も、田村の奇襲が決まった。数あるメニューの中から選んだ今日の作戦は「やらずのやり」だった。ある意味、もっとも風当たりの強いリスキーな戦法ではある。松井や毒島は「次こそは許さん!」と心に秘めたかもしれない。ファンの中には、「こんなコトをされちゃ、安心して舟券が買えん」「田村はヒキョー者だ」なんて思った人もいるだろう(少なくないはずだ)。嗚呼、ここから先は何度も何度も書いたことなので、もうやめておこう。とにかく、そう否定的に思う方はそう思っていい。私は逆に、田村の「やらずのやり」を全面的に支持する。とりあえず、今日はすべてのファンにとってプラスになりそうなことだけを記しておこう。

「好きでも嫌いでも、田村は常にこういうレーサーである。それを絶対に忘れないようにしなさい」

 これは、必ず舟券戦略の役に立つ。(photos/シギー中尾、text/畠山)