3日目ともなれば、早い時間帯はさすがに静かなものである。整備室を覗くと、選手の姿は皆無。整備用テーブルの上に、なぜか西山貴浩のヘルメットがぽつんと置かれているだけだった。なんでここにヘルメットが? 整備には関係ないのに。可能性としては、シールドをここで交換していたか。それにしても西山はヘルメットを整備室に残して、どこに行ったんだろうか?
というわけで、西山を捜索するとすぐに発見。装着場でボートの操縦席に乗り込んで、装着作業をしているのだった。だからなんでヘルメットを整備室に置いてるのよ?
その5~10分後、カポックを着、ヘルメットをかぶって歩いている西山を発見。ヘルメットはいつの間に取りに行ったの? ボートを着水した後のようだったが(着水時にもヘルメットとカポック着用が義務化されている)、ヘルメットをなぜかぶったままなんだ? 別に脱げばいいのに。
といったふうに、西山は別にたいした動きをしているわけではなくとも、こちらを楽しませてくれるのである。
楽しませてくれる、といえば、篠崎仁志もそんな一人。仁志と一緒にレースを観戦していると、実に面白いのだ。1Rは、先輩の岡崎恭裕が出走していた。もちろん、仁志は岡崎を応援しつつモニターを見ている。3番手の岡崎が2番手の今垣に迫ろうというシーンで、声をあげるのはまあ自然なことだが、そのあともずっとしゃべりっぱなし。「ああ、5が来てる、5が来てる」「あぁ~、5は出とうよ、5は出とうよ」「ほらぁ~、来られたぁ~」と、独り言を言いつつモニターを凝視しているのだ。そんな仁志が本当にかわいらしい(笑)。仁志の先輩への思いが伝わってくると同時に、ピュアに声援を飛ばしている様子が瑞々しいのだ。で、こちらもついつい岡崎ばかりを見てしまうという(笑)。だから、先頭の徳増秀樹や後方の峰竜太の走りについては、まったく見ていませんでした。
その1Rで1着となった徳増秀樹。エース機を引きながらも、ゴンロクを並べていた昨日までは、とにかく表情に冴えがなかった。まあ当然だ。浮かない顔になって当たり前の成績、そして数字ほどに噴かない機力なのだから。
だから、ピットに戻ってきて見せた笑顔は実に素敵だった! 歓喜というより安堵のほうが強いようにも見えたが、何らかのメドが立ったことで徳増の心に光が射したか。その後は、戦った5人のもとを回って、丁寧に腰を折って礼を尽くしていた。その折り目正しさは徳増らしさであり、そうした姿もまた上昇気配を感じさせるものだった。
2R、平山智加が素晴らしいレースを見せた。1マークは失敗だっただろう。引き波にハマって後退、バックでは6番手を走っている。そこからだ。内をぐんと伸びた平山は、2マークを先マイ。マイシロがない旋回で、大きく流れてもおかしくなかったが、サイドがぎゅっとかかって流れず、しっかりと前に押したのだ。この足、すごい! 出足は文句なしに仕上がっているだろう。結果、平山は2着。これは大きい上位浮上だった。
1マークの件があるからか、レース後の平山は決して満足した様子ではなかった。なんとか2着を確保できたことの安堵はあるだろうが、同時に反省点も頭の中には渦巻いていただろう。そんな平山から笑顔を引き出したのは、田村隆信。控室に戻る平山を見つけると、笑顔で接近。
「今のすごいな~。最後方からよく2着まで来たな~」
先輩にそんなふうに褒められたら、まずそれだけで嬉しい。そして、快速パワーへの喜びと、逆転2着の喜びが湧き上がってくる。田村の言葉に、平山はニコッ。その顔は最高に輝いていた。今日の若松は曇天模様だが、平山の周りには陽光が射しているような錯覚をするほどに。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)