BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――追い風

 

 

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 1R展示に向かう坪井康晴が水面を見ながらつぶやく。

「風、強ぇ~」

 ピット内にある掲示板に表示された数値は「8」で、それが「7」になったり、時に「10」になったりしながら、風速を示している。坪井の言うとおり、風が強い。風向きは追い風。朝から雨が降っていた若松、その湿気による気配変化が予想されたが、それ以上に風の変化が選手たちには気になるところ。勝負駆けデーだけに、いかにこの風の中を乗りこなすかが重要になってくるからだ。

 坪井のつぶやきを聞いた池田浩二も「そうだな……」と小声でつぶやく。レース前、二人はどんな展開、ハンドル捌きを思い描いていただろうか。

 

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 1Rは激戦となった。2コースに動いて差した深川真二と、6コースから差した池田が大デッドヒートを繰り広げたのだ。1周目バックでは池田が優勢。2マークで深川が差して並びかけ、2周1マークでは池田が差し返す。2周2マークではふたたび深川が差し一閃。3周1マークを先マイして、決着がついた。オープニングから好勝負だ!

 勝ち切った深川は、さすがの笑顔である。男っぽい表情が印象的な深川は、笑うと実に柔らかい顔つきになる。出迎えた峰竜太が祝福すると、深川は一瞬でこの顔になった。天下の池田浩二と競ってしりぞけたのだから、まさに会心。深川の胸には充実感が満ちていたはずだ。

 

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 一方の池田は、やはり笑顔ではあった。だが、それは悔しさが入り交じった笑顔。「あぁぁぁっ!」と一声吠えると、出迎えた赤岩善生がくすりと笑って、しかし心中を察したのか、すぐに真顔に戻った。充実感いっぱいの深川とは対照的に、池田に残ったのは疲労。あれだけの接戦を演じれば当然疲れるし、精神的にもキツい。勝てばそれは心地いい疲労だが、負ければそれは単なる疲労である。

 というわけで、池田の足はふらついていた。いや、池田のことだ、ふらついて見せた、が正しいか(笑)。それを見ながら、平本真之が笑う。そうしてパフォーマンスを受け入れることが、池田への慰労になるのだ。

 

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 その激戦が風の影響によるものなのかは何とも言えない。パワーの問題もあるだろうし、単なるミスが積み重なった可能性もある。ただ、そのレースを目の当たりにしてもなお、風を気にする選手は多かった。係留所には、じっと水面を眺め、おそらくは空中線の旗のはためきや吹き流しの動きをチェックする選手が大勢いたのだ。齊藤仁などは、数分ほどもじっと動かず、空中線方向を見つめ続けていたほどだ。これを記している現在、やや風は収まってきたようにも思えるが、吹き流しは依然勢いよく1マーク方面になびいている。強風のなか、勝負駆けはどんなドラマを紡ぎ出してくれるのだろうか。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)