BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――“笑顔”

 

 

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 10R後の池田浩二は笑顔だった。1R後だって、たしかに笑顔だったが、あれは負けた悔しさをおどけて見せることで紛らすための笑顔だ。10R後は違う。会心の笑顔! だから、出迎えた赤岩善生も、遠慮なくにこにこ。池田の周囲はなんともハッピーな空気にあふれていた。

 笑顔、と簡単に書いてしまうわけだけれども、その質はシチュエーションによってぜんぜん違うものだ。

 たとえば、この人だってレース後には“笑顔”を見せているのだ。

 

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 西山貴浩。若松は地元中の地元で、ここで行なわれるSGに出場するのが、レーサーになってからの目標のひとつだった。それをついにかなえたのが今節。もちろん出場しただけで満足しているはずがなく、その上を求めた。10Rは3着条件(ボーダー6・00とすると)。4号艇という枠、足色を考えれば、決して厳しいノルマではなかったはずで、しかし西山は6着大敗という最悪の勝負駆けをしてしまった。本来なら、笑顔が出る場面ではない。だが、西山はまず笑った。もちろん、心からの笑顔ではない。というより、明るい笑顔ではない。これも簡単に書いてしまうけど、苦笑いというやつである。

 だから、西山は笑みを消すと、一瞬で顔を歪ませている。まったく隠しようもなく、悔しさを爆発させたのだ。そして、これも誰が見たってわかるくらいに、肩を落とした。これが、西山の本音中の本音である。

 で、その次の瞬間、西山の顔には小さな笑みが浮かんだのである。もちろんこれも、簡単に書けば、苦笑いだ。いや、自嘲、だろうか。この笑みは悲しい。せつない。あまりにつらすぎる、“笑顔”である。

 

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 では、11Rの結果によって予選18位に浮上した平山智加の笑顔をどう解釈しようか。もちろん、嬉しいには違いない。平山はこれがSG初準優。何度もSGを経験しながら、どうしても突破できなかった予選の壁。これをついに超えるときが訪れたのだ。SGで戦っていくうえで、まずは第一の目標だった準優進出。現実になって、嬉しいに決まっている。

 ただし、11Rでは魚谷智之の妨害失格という事態が起こってしまっている。魚谷はそのとき4番手を走っており、無事にゴールしていればボーダーを超えていたから、その事故が平山を押し上げたことになる。これは複雑だろう。11R組の誰かが単に勝負駆けに失敗したのならまだしも、この“繰り上がり方”は心から喜べるものかどうか、微妙だ(明日はそんなことはいっさい忘れて、思い切ったチャレンジを見せてほしい!)。

 そんな平山を察したかどうかはわからないが、そこでカマギーが茶々を入れた。カメラマンのフラッシュが平山に対して一斉にたかれるなか、平山は手に汚れた雑巾を持っていたのだ。

「お前な~、写真撮られてるときに、ナニ雑巾持っとるんや!」

 平山の笑顔が弾けた。その顔で、明日の準優に臨んでほしいぞ!

 

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 さて、選手は得点状況を詳しく把握していない、というお話。

 9R、毒島誠が3番手を走っていた。それをモニターで見ていた篠崎仁志が言う。

「これで予選1位当確!?」

 実はそうではなかった。11Rで谷村一哉が1着を獲れば、こちらがトップとなるのだ。毒島は2着ならトップ当確だったが、3着なら相手待ちなのである。それを仁志に教えてあげた。

 毒島は、3番手を守るのではなく、2番手を狙う走りを見せた。その果敢な攻めは失敗と紙一重。3周1マークでキャビっている。「うがぁぁぁぁぁ!」。ピットに悲鳴があがった。見ると、水面際で対岸のモニターを見ていた若手たち。結果、毒島は3着キープでゴールしたのだが、たしかにヒヤリとさせられる場面ではあった。

 

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「もぉ~、3着で当確なのに、無理するんだからぁ~」

 エンジン吊りに向かう岡崎恭裕が、安堵の息をつきながら、そんなふうに仁志に声をかけた。いや、ヤスくん、3着では確定じゃないんです。それを知っている仁志は、「いや、相手待ちですよ」と岡崎に教える。それを聞いた岡崎は、意外そうに目を丸くした。

 まあ、谷村の11R5号艇という枠を考えれば、かなり有利ではあった。同県の大先輩である青山登さんは「大丈夫だよ!」と言い切っていたし(とか言いつつ、3周1マークのキャビについて「不良航法とられないかなあ」と心配していたけど。あれでとられたのを見たことないです。先輩、いくら後輩がかわいいからって心配し過ぎ・笑)。

 我々報道陣は、レースの合間に詳細な計算をしている。資料だって手元に届く。だが、選手はそうではない。出走表を見ながら計算する選手もいるだろうが、それだけではなかなか全体の状況はわからないだろう(実際、10R終了後に準優出を決めたカマギーが、「ウソやろ? まだ決まってないやろ? ホンマに行けるの? 喜ばせといて、間違ってたらめっちゃキレるで!」と笑ってました)。

 つまり、だからこそ毒島は全力で前を抜きにかかったのである。2着なら当確と知っていたというより、ひとつでも上の着順を目指すべく、だろう。以前、森高一真が6・00の上位着順差で19位になったとき、「俺らは6点を目指すんやない。18位や。そうやろ?」と言って、こちらの慰めの言葉をシャットアウトしたことがあった。そういうことなのだ。

 4日目は、「ひとつでも上の着順を!」との思いが渦巻く一日。だからエキサイティングなのである。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)