BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――銘柄級と埼玉勢

 

 

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 8R終了後にピットに入って、整備室を覗き込む。

 えっ!?

 新田雄史がまた本体整備をしていたのだ。7Rは捌いて2着。朝から続けていた整備の効果が多少なりともあったのかと思っていたのだが、新田はまったく満足していなかったようだ。次は11R。もう時間がさほど残されていないなか、新田はふたたび本体を割った。その執念に、まずは感服したのである。

 しかし、その成果はあらわれなかった。1号艇1コースから渾身の逃げを放った新田。ターンの出口ではたしかに先頭に立っていたのだが、そこからみるみるうちに長田頼宗と黒井達也に並びかけられた。ポジション的にも不利となった新田は、2マークでなすすべなく4番手に。明らかに機力劣勢だった。

 さすがに、レース後の新田は愕然とした表情を隠していなかった。1マークのターンに大きなミスがあったとは思えないから、なおさら落胆は大きかっただろう。エンジン吊りなどが終了したあとには、同県の後輩である西川昌希の水神祭が行なわれている。新田のレースを待ったかたちだが、駆けつけた新田のテンションはやはり上がらない。笑顔を西川に向けながらも、どこか力のない表情なのが印象的だった。

 

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 その前、10R後には前田将太の冴えない表情を見た。山口達也にイン逃げを許したものの、中田竜太との接戦を制して2番手航走。前田は今節では格上の存在であり、その意地を見せつけた格好だった。

 ところが、最後の最後、3周2マークでまさかの逆転を喫してしまう。最後まで前田を追いかけまわしていた西村拓也が、差し切ってしまったのだ。僕には、前田が慎重に最後のターンマークを回ろうとしているように見えた。だが、慎重になりすぎて、最後の勝負を懸けたニシタクの気合に逆転を許したようにも思えた。前田らしからぬ後退である。

 そういったレースの後に、笑えるはずがないのである。明らかに頬はひきつっており、どこか目も虚ろだった。情けないレースをしてしまった。そんなふうに顔に書いてあった。中田との2番手競りを制したことなど、まったく忘れてしまっているようだった。

 着替えを終えて、ペラ室に向かう前田の表情は、レース直後と変わっていなかった。明らかに引きずっているふうだったのだ。それほどまでに、最後のターンを前田は悔いていた。あのターンをしてしまった自分をまったく許せなかったのだろう。

 

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 SGで戦う上位級レーサーでも、ちょっとしたことで着を落とす。今節は世代は同じでもネームバリューに差があると思われるのだが、実は名前がそれほど売れていない選手との実力差は大きくはないのではないか、とも思える。少なくとも、わずかなスキやミスを逃さず突ける選手が揃っているとも言えるだろう。舟券の妙味は明らかにそこに生まれる。そこを探るのが今節のテーマ。僕はそう思う。逆に言えば、今日のレースぶりで新田と前田の人気が落ちるようなら、これは狙い目。くぐってきた修羅場の数は確固とした差があるのだ。その底力は、たしかに大きな差となって、銘柄級とそうでない選手を分かっている。

 で、明日から妙味になるんじゃないかあと思っているのは中田竜太である。5R、痛すぎるフライングで、優勝争いから離脱してしまった。燃える地元4人衆の一角が、初戦にして脱落してしまったのだ。中田の心中、察してあまりある。

 10Rの準備に向かう中田と顔を合わせたので、声をかけた。こちらに視線を向けた中田は、意外や明るい目をしていた。そして言った。

「気を取り直していきますよ!」

 声も思いのほか、明るかった。悔恨やら落胆やら、ネガティブな思いは消えてはいないだろう。だが、すでに前を向いたのも間違いない。埼玉勢きってのベビーフェイスは、まだ傷ついてはいないのだ。ならば、F後で人気が下がる分、狙い目ではないかと思う。地元ヤングダービーを最後まで戦い抜く、そんな中田の決意に乗らない手はない。

 

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 中田が優勝戦線から抜けても、埼玉軍団は熱い。佐藤翼は2着発進だし、黒井達也は11Rで今節初勝利をあげた。桐生順平もドリーム2着。上々の初日だったと言っていい。

 もっともハツラツとしているのは佐藤だ。初めて顔を合わせた、快進撃を見せて優勝戦1号艇を手に入れた一昨年の新鋭王座。前年の優勝戦Fをバネにして、結果を強く求めて臨んだ昨年の新鋭王座。当たり前だが、そのときよりも年齢を重ねている翼なのに、なんか今年がいちばん若者らしい瑞々しさを発散しているように思う。一気に相手が強くなり、思い入れの深い地元での開催であり、といったあたりが理由だろうか。相手が強くなるほど燃える、ということなのだとしたら、かなりの大物だぞ。王座の借りをヤングダービーで晴らす。そんな場面は充分にありうるだろう。

 

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 黒井は、かなり気合が入っているな、と思う。ともすれば、肩に力がかなり入っているのではないか、とすら思う。戸田で生まれ育った男だけに、戸田で開催される第1回ヤングダービーに特別な思い入れをもって臨む、というのはむしろ自然なこと。事故さえ気をつけてくれれば、たとえ多少の空回りはあったとしても、それでいいのだと思う。

 BOATBoy10月号の巻頭では、埼玉4人衆の座談会を行なっている。実は、レディースチャンピオン(女子王座)の優勝戦が日延べになったことで、取材の日程を延期してもらうという迷惑を4選手にはかけてしまっているわけだが、変更になった日にお詫び行脚をして回ったとき、もっとも優しい気遣いの言葉をかけてくれたのは、黒井だった。というか、桐生も中田も佐藤ももちろん、気を遣ってくれました。まったくもって恐縮の連続でした。で、黒井は三国取材が一日延びたこちらの体調まで心配してくれた、という次第。その言葉で元気回復でしたよ。

 今節は前検日も含めて、まだ2日が終わったのみ。しかし、4人のなかでもっとも声をかけにくいのは、黒井かもしれない。声をかければ、やっぱり優しく受け答えしてくれるだろうが、しかし雰囲気が明らかに鋭くなっているのだ。

 11Rで、まずは1勝をあげた。あえて言うなら、初日の埼玉勢唯一の白星である。大将格が桐生であるのは揺るがぬ事実だが、副将的存在の黒井が一気に主役に躍り出たとしても、まったく驚くに値しないと僕は思う。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)