BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――師弟、兄弟、女子!

 

 

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 10R終了後、まだエンジン吊りに出てきた選手たちが装着場を賑わしている中、山田康二がボートをリフトへと運び込んだ。山田は、その10Rに出走し、2着だった。それなのに、試運転へと向かう!? 10R出走選手が、モーターを外すことなく、水面へと踵を返すなんてシーンはそうそうない。そのままボートもモーターも片づけるのが常だ。ところが、山田は速攻で試運転へと向かった。SGでも記憶にあるのは松井繁だけだ。そう、山田は王者級の行動をした! 予選突破は絶望的だというのに、10Rを終えて山田は矢も楯もたまらず水面へと降りていった。すさまじい執念である。

 11Rの展示などが終わり、山田はひとり水面へと駆け出して行った。試運転をしている選手は山田のみ。一人で延々とターンを繰り返している。他艇が試運転をしているときには、バックを走り抜けるといったん減速し、ホームにゆっくりと戻って改めて全速で駆け出すものだが、水面には誰もいないから、山田は2マークも全速でターンして、次の周回に入る。足の感触を確かめるというよりは、旋回練習のようだった。

 

 

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 それを、師匠である峰竜太が見つめていた。手にはドライバー。山田が試運転を終えて上がってきたら、すぐにエンジン吊りをしようと待ち構えていたわけである。ところが、試運転中止の赤ランプがつくと、山田はリフトではなく係留所へと戻った。ボートを揚げる気配がないのだ。

「康二! まだ走るの?」

「走りますよ!」

「なんだよ~、俺、こんなの持って待ってたよ~」

 なははははと笑う山田。峰も、クレームのように話しかけたけれども、まだまだ試運転を続けようという愛弟子の気持ちを、おおいに喜んでいるようだった。

「あいつのいいところは、こういうところですよ。ポジティブなんですよね。僕も甘やかしたから、一時はダメなときもあったけど、今は違いますもんね」

 若き師匠はそう言って目を細める。愛弟子が師匠に追いつかんと奮闘する姿は、実に頼もしく映ったはずだ。峰竜太、しっかりと師匠しているのである。

 峰竜太は、予選が終わってみればトップ通過! さすがの格上である。あと2日、師匠は弟子に大きな背中を見せなければならないだろう。あれこれとアドバイスするのも指導だが、本当の指導は自分の活躍を山田に、もう一人の弟子・上野真之介に見せつけること! 上野とは準優勝戦で剣を交えるのだから、師匠の貫録をしっかりと体に叩き込まねばならない。

 ちなみに、峰竜太、お金ないそうです(笑)。銀行の残高を聞いたら、あろうことか、僕のほうがお金持ちだった(笑)。もちろん、酒にまみれ、舟券に呑まれているワタクシとは意味が違います。唐津に豪邸を建て、車も買い、僕の年収以上の税金を払うという、スーパースターらしい振る舞いをしていたら、気づけば残高が大変なことになっていた、という次第。つまり、峰竜太のモチベーションは最高潮! 明日明後日は必死に1000万円を獲りにいくはずです(笑)。

 

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 予選2位は篠崎元志。峰、元志の予選ワンツーとは、あまりに順当で、逆に驚いてしまった。やっぱりこの男たちは、戦ってきた舞台が違うのである。

 元志は、やっぱり弟の勝負駆けをかなり気にしていた。12Rを迎えた時点で、仁志は18位。1号艇とはいえ、油断できない状況だった。しかも、まくり屋・西川昌希がピット離れで後手を踏んで3コースとなった。インにとっては、かえって厄介な並びとも言える。それだけに、元志も祈るような思いでレースを見ていたことだろう。

 

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「完璧っ!」

 仁志が西川のまくりをブロックして逃げた瞬間、元志は力強くそう言った。たしかに、強い逃げ切り! 弟の好レースを、こころから喜んでいるようだった。

 ピットに戻った仁志は、まず出迎えた元志に視線を向けている。言葉は必要ない。アイコンタクトでお互いの気持ちが通じ合う。そこには外野から見てもはっきりと感じている、強い歓喜の絆が見えた。

 兄弟で予選突破! もちろん、目指したのはここではなく、さらにその先であろう。明日は元志が11R、仁志が12R。夕暮れのピットで、兄が弟のレースを強い祈りとともに見つめるシーンをふたたび見られるだろうか。

 

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 さて、峰-元志の予選ワンツーにつづいたのが、遠藤エミなのだから、これは大拍手だ! 9Rのオール女子レースを勝ち切ったことで、得点率7.60に伸ばしていた遠藤は、11Rが終わった時点で準優1号艇をほぼ確定的にしていた。12Rで抜く可能性があったのは小坂尚哉のみで、その小坂は6号艇。かなりの確率で遠藤に軍配が上がりそうだったのだ。

 その状況はすぐに報道陣も理解したから、それからは遠藤の周りには常に人の輪があった。やはり遠藤の大健闘は大きなトピック、誰もがその心境を知りたかったし、言葉を聞きたかった。僕はといえば、完全に出遅れたので、ひたすら観察していたわけだが、やはりどこか戸惑っているような表情は隠せなかった。出場する以上は優勝したい。だが、これだけのメンバーで、ここまで活躍できるとは、本人も現実感を伴って考えはしなかったかもしれない。そう、これは大殊勲! 単純に喜びで心が埋め尽くされるほうが不思議である。

 

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 そんな心情を察したか、取材が途切れると、鎌倉涼が遠藤に寄り添った。ピット内を徘徊しながら話し込み、鎌倉はその大部分の時間で遠藤の肩をがっしりと抱いていた。鎌倉が遠藤を気遣い、そして激励していたのは明らかで、心にパワーが沸いてきたのも間違いないと思う。

 まあ、そうは言っても、明日は平常心で臨めなくなるのかもしれない。むしろそちらのほうが自然か。遠藤1号艇を知った、同期の上野真之介が遠藤に向かった言った。「いいなぁ……」。だはは、羨ましいか、真之介よ! 明日は真之介をはじめ、多くの男子強豪をさらに羨ましがらせてやる! そんな感じで走ったらよろしいんじゃないでしょうか。がんばれ、遠藤エミ!(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)

 

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地元からの予選突破はこの2人! 優出ノルマの奮闘を見せてくれるはず!