BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――濱野谷よ、時は来た!

 

 

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 とにかく、濱野谷憲吾だ。11Rを逃げ切って、優出。明日の平和島場外は、憲吾の話で持ち切りだろう。18日後、グランプリ戦士として地元に凱旋できるかどうか。東京のファンは誰もがそれが現実となることを待っている。

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 濱野谷自身、俺が平和島賞金王にいなくちゃダメだろう、という思いは抱いている。だから、勝って帰ってきたピットで、濱野谷は充実感あふれる表情を見せた。優出を外したら、その時点でアウト。しかし、強い気持ちでこの場に臨み、最低限のノルマは果たした。どや顔というのとはちょっと違うが、望んだとおりに優勝戦の舞台に立つことへの快感は表情からは見えた。

 というわけで、僕は最後のひと押しを敢行することにした。濱野谷には過去何度かインタビューしているが、そのたび濱野谷をアオるばかりの内容になった。ガツガツしたところがない、と自覚している濱野谷のケツを叩くかのような展開になりがちだったのだ。先月、BOATBoy12月号でインタビューした際、そんな話を振ったら、濱野谷は「そうだよね」と笑った。毎度毎度、濱野谷はうっとうしいオッサンだなあと思っていたわけである。会見を終えた濱野谷に駆け寄る。「濱野谷さん、お疲れ様です」「おぉ、毎度!」。優出を決めてゴキゲンな濱野谷にすかさず言い放ったのだ。「濱野谷さん、最後にひとアオリします!」

 

 濱野谷は相好を崩して大笑いした。「もぉぉぉ~~~、やめてよぉぉぉ~~~」。濱野谷に軽くタックルされて、確信しましたね。行ける! 行けるぞ、濱野谷憲吾!

「まあ、優勝しかないからね。頑張ります! ありがとう!」

 どうやら準Vでも大丈夫そうな情勢だが、それは濱野谷に伝えないことにしよう(誰かから伝え聞く可能性大だけど)。一丁やってやろうという気になっている濱野谷は、明日こそガツガツと行ってくれると信じる。仮に結果が無念に終わったとしても、きっと一味違う濱野谷憲吾を見せてくれると信じる。

 

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 濱野谷以外の優出メンバーに関しては、一言で言うと、わりと淡々としていたと思う。鮮やかすぎるまくりで茅原悠紀、予選トップをしっかりと活かした太田和美も、快勝の歓喜をあまり表に出すことなく、粛々とレース後を過ごしていた。まあ、太田は常にブレることなく己を貫く男であり、また同様の経験はすでに何度かある。さらに言えば、グランプリは当確。この勝利は優勝へのステップでしかないだろう。茅原にしても、今年はSG3度目の優出だ。また、昨日までにグランプリ当確が完全に出たことを聞かされたりもしていただろうか。明日は今日の再現を果たすのみ。ここで歓喜を使い果たすわけにはいかない。

 

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 2着で優出を決めた選手たちも、やはり淡々。菊地孝平、井口佳典が、準優2着ではしゃいでいたら、かえっておかしいだろう。ただ、グランプリ勝負駆けとなる吉田俊彦は、6号艇での準優突破であり、しかも2番手争いが熱かっただけに、もっと笑顔が見えてもいいような気がしたが、そうではなかったのがちょっと不思議だった。もっとも、その優出決めただけで気を緩めない様子が、明日も6号艇とはいえ怖くもあるのだが。

 

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 というわけで、自然と敗者に目が向いてしまったわけだが、10Rで吉田と大接戦を演じ、いったんは2番手を走った毒島誠がカッコ良かったぞ。敗れた選手にそう言うのは失礼だけれども、その悔しがり方に毒島がいかに一皮むけて強くなったかを感じずにはいられなかったのだ。うつむいて早足で控室へと向かい、着替えを終えるとやはり早足で整備室に飛び込む。まるで誰にも声をかけられたくないと、ただただ敗れた己と向き合おうと、世界のすべてを遮断して悔しがる様子は、間違いなく強者のそれである。

 

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 11Rでは、深川真二と赤岩善生が3番手争いを演じている。準優は2着までしか本来は意味がないのだ。しかし二人は、競り合う展開になった以上は負けたくないと、激しく剣を振るい合った。その負けじ魂にまず感銘を受けた。レース後は、ノーサイドである。赤岩が深川に駆け寄り、深川の左腕に自分の手を当てながら頭を下げる。深川はうなずく。両者とも着替えを終えたあと、ピットの隅でじっくり語り合う姿もあった。お互いを認め合い、尊重し合って真っ向勝負した間柄に遺恨などないのだ。男と男の姿だった。

 

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 そして12R、今垣光太郎が自分のボートを磨いていたシーンには少し驚いてしまった。今垣はその日のレースを終えると、必ずボート磨きを丹念に行なう。ルーティンといったら少し軽く感じてしまうほど、絶対に欠かさぬ日課なのだ。しかし今日は12R出走である。下関では、艇運の方たちが丁寧に操縦席の水を排し、しっかりとレース後の処理を行なっている。それでも、今垣はボート磨きをせずにはいられないのだ。相棒と語り合う時間を過ごさねばいられないのだ。

 12Rだから、着替えたらすぐに宿舎に戻るための集合がかけられる。その後にボート磨きをする時間はない。だから今垣は、ヘルメットをかぶり、カポックを着たまま、ボートを磨いた。少し急ぎ気味ではあったけれども、いつものように丁寧に磨いた。僕は、この「とことん」こそが今垣光太郎の平常心であり、強さの源のひとつだと思う。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)