とにかく笑顔にあふれる優勝だった。あの池田浩二が、えらくハイテンションなのだ。いや、池田は実際はハイテンションの男だが、それにしても後輩のSG初制覇を心底喜んでおり、それを見た平本真之のテンションも一段階アップして、平本の周りはさらに笑顔にあふれるのだった。
「1号艇で瓜生正義にまくられた。だから1号艇の瓜生正義をやっつける」
昨日、平本にそれを振ったわけだが、まさか「1号艇の瓜生正義をまくり切る」というリベンジを果たすとは。
「スタートはいつもなら放ってたと思う。今までの僕にはできなかった勇気をもって行きました。僕はもともとまくりが少ない選手。ああいう勝ち方は気持ちいいですね」
そう、平本真之はいつも通りに戦ったわけではなかった。自分らしく戦ったわけでもなかった。いつもの自分を脱ぎ捨てて、この勝利をもぎ取ったのだ。
それが尊い。あのグラチャンの児島で落胆し切った平本は、もういない。もしかしたら、今まで通りの平本だったら、また顔をゆがめる平本真之を見たかもしれないと思えば、今日の勝利は確実に一皮むけたものだったと言えるだろう。おめでとう!
その平本と堅く抱き合ったのが、同期の篠崎元志だ。もちろん悔しいに決まっているけど、同期の快挙に心からの笑顔を見せた。96期から3人目のSGウイナーが誕生したことは、やはり嬉しいことだっただろうか。
元志以外は、わりとスッキリした表情が目立った。平田忠則も、やっぱり悔しいに決まっているけど、いつものスマイルを見せつつ、平本を称えてもいた。桐生順平も同様。ただ、桐生は途中何度か、コンマ15秒ほど、眉間にシワが寄ったりもしていて、実際は悔しさを抑え切れてはいないようではあった。
濱野谷憲吾については、もっとも笑顔が少なかった敗者だろうか。モーター返納の間も、首を傾げること数度。中野次郎、飯山泰は、少し顔をこわばらせながらうなずいており、濱野谷が彼らに悔恨の空気を感じさせていたのは明らかだったようだ。チャレンジカップとは悔しがり方が違ったなあ。下関では、苦笑いが出っ放しだったからなあ。僕の感覚としては、下関で見た濱野谷のほうが、悔恨が大きいように思えた。まあ、質の違う悔しさだったかなあ、とは思う。
瓜生正義は、もちろんいつも通り、柔らかなレース後であった。ただ、やっぱり表情がカタいように思えたのは、気のせいだろうか。新記録となる6年連続SG制覇は果たせなかった。それが瓜生の目的となったことは一度もなかっただろうが、ここまで来たらやはり達成しておきたかっただろう。同時に、1号艇で敗れたことへの複雑な思いもあったか。あの瓜生が、SG優勝戦で1号艇なのに敗れた。よく考えれば、なかなかの大事件だ。
さて、平本はSG初優勝だから、当然、アレです! 水神祭です!
表彰式、記者会見がけっこう長引いて、平本が一連の儀式から解放されたときには、12Rの締切5分前だった。通常なら、水神祭を行なうタイミングではない。仲間たちが、どうしようかあなんて迷っているところで、鶴のひと声をあげたのは池田浩二だ。
「やっちゃおう!」
グランプリファイナルの空気を壊すまいと、とにかく大急ぎでの水神祭。勢いよく投げ込まれた平本は、夕暮れの平和島で最高の笑顔を見せていた。
で、これに間に合わなかったのが同期の新田雄史。終わったと知るや、
「よし、今から水神祭だ!」
とその前にやったのをなかったことにしようとしていました(笑)。もちろん平本は断固拒否でしたが。元志同様、新田も同期の快挙を心から祝福していた! というわけで、最後の最後まで笑顔が絶えない、平本の初戴冠なのであった。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)